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154.城壁上の偉業(2)

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「神は人間のほろびを望みたもうた」

と、追放女王アスマが言った。

「……というのが、我がリヴァント聖堂せいどう王国に伝わる教えだ」

人獣これがそうだと……?」

と、俺の問いけに、アスマは表情を変えることなく続けた。

「いや、分からん。神の啓示けいじ預言者よげんしゃに下ったのは500年以上前のこと。それから、全ての国を滅ぼす大戦たいせんこした」

それが、あの……。

「が、シャンが呼び寄せた異世界の者のまじないによってやぶれ、我らは神の寵愛ちょうあいを失った……」

厳しい表情をしたアスマの顔が夕陽に照らされている。

「だから、我らではあの異形いぎょうのバケモノが、神のご意志によるものかは、分からん」

「俺は例えこの世界の神様の意志だとしても、闘って勝ちたいと思っています」

「ふっ」

と、アスマは小さく笑い、俺の目を見た。

「今、私は信じられないものを、2つ見ている。ひとつはあのバケモノ。もうひとつは、槍や弓矢で闘うシャンの者たちだ。あの黄色の髪をしたむすめの言っていたことは本当だった」

シュエンのことを言っている。色々と話しけてくれていたんだろう。

「あの頑迷がんめいに剣のみで闘ってきたシャンの者を変えたのは、其方そなただな?」

「うん。まあ、そういうことになります……」

俺の返事を聞いたアスマは、もう一度「ふっ」っと自嘲じちょうするように笑った。

「私には変えられなかったのだ、国の者たちを……。それで追放された」

「よ、良かったら聞かせてくれませんか……?」

「聞いてくれるのか、異世界のかたよ」

「ええ……、ぜひ。どうして、ここジーウォに来られることになったのか、教えてほしいです」

アスマはあかね色に染まる空を見上げた。

「私はシャンの者たちとの和解わかいとなえたのだ。既に寵愛ちょうあいを失った神からの預言よげんすがり続ける必要などないとな……」

「……」

「だが、聖堂をまもる聖職者たちを中心に、大きな抵抗ていこうった。500年の間、神の寵愛ちょうあいを取り戻そうと、何度もいくさいどみ多くの血も流れている」

フェイロンさんは6年前の戦で名を上げたと言っていた。

北の蛮族をたくさん斬って、その返り血で『赤のり鬼』の異名いみょうを取ったとも……。

「リヴァントの民の多くは、その遺族いぞくでもある。聖職者は彼らを扇動せんどうし、私を追放した」

アスマはかすかにいるような表情を浮かべた。

「侍女のマリームと、聖堂騎士の1人ラハマだけがあとを追ってくれた。ここにたどり着いたのは、和解をあきらめ切れぬ、私の頑迷がんめいさからのこと……」

シアユンさんは北の蛮族のことを「殺戮さつりくしに来てるとしか思えない」と言っていた。それは当たっていたし、宗教的な理由だった。

神様のためと考えてるなら、それは容赦ようしゃもなく徹底的だったことだろう。んなが示した嫌悪感けんおかんに落ちる。

けど、その国で和解を望む女王がいた。

は……、私は急ぎ過ぎたのだ。みなの気持ちを考えられぬ、悪い女王だった」

と、アスマは城壁の外で続く外征がいせい隊の戦闘をながめた。

其方そなたは、ゆっくりとシャンの民に話し掛け続け、耳を傾け続けた」

「え?」

「黄色髪の娘が言っておった」

「ああ……」

「私も、もっと話し合えば良かった……」

と言うアスマのせつなそうな表情が、とても美しく胸に迫った――。
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