155 / 297
153.城壁上の偉業(1)
しおりを挟む
外征隊が城門から出陣し夕陽に染まる。今日も南側城壁の上から見守る。
やがて、秘密裡に連行された褐色女子(巨)が姿を見せた。
手枷を嵌められ、目隠しをされ、フェイロンさんと、柿色髪の女剣士エジャが両脇を固めている。
あの鬼強いフェイロンさんをしても、ここまで警戒させるのかと、軽い驚きがあった。
「手枷と目隠しを外してもらえませんか?」
と、俺が言うと、エジャは躊躇いを見せたけど、フェイロンさんが頷いた。
手枷と目隠しを外された褐色女子(巨)の銀髪が風にたな引き、夕陽が紅く染めた。
「2人で話したい」
と、俺が言うと、フェイロンさんは「お気を付けを」とだけ言って、城壁の上で少し離れた。
褐色女子(巨)はその碧い瞳を俺に向け、無表情に見詰めてくる。
黒い装束は身体のラインにピッタリとしたデザインで、微細に造られた金の装飾が夕陽を反射している。
「北のお方……」
と、俺が話し掛けても、表情はピクリとも動かない。
「城壁の外を見てください」
俺が指差すと、褐色女子(巨)は物憂げに目線を動かし、そして、目を大きく見開いた。
城壁の外では大量の人獣たちがウロついている。虎型、獅子型、狼型……。
異形の人獣に目を釘付けにされた、褐色女子(巨)は一歩二歩と外に向かった。
「これは……」
「分かりません。突然、現れたのだそうです」
美しい褐色の横顔が、驚愕の色で満ちている。
「地下牢でキツネのような小さなヤツは見られたはずです」
と、俺が言うと、褐色女子(巨)はこちらに目を向け小さく頷いた。碧い瞳には恐れの色が浮かぶ。
「俺たちは今、こいつらと闘っています。既に半数以上、1,300人以上が、人獣に喰われました」
褐色女子(巨)は再び、城壁の外に視線を向けた。眼前の風景を信じることが出来ないようでもあった。
「あそこを見てください」
と、俺が指差した西側では外征隊が人獣と戦闘している。
俺たちの立つ南側城壁の東側、その反対の西側半分には長弓隊と短弓隊が展開していて、次々に矢が放たれている。
東の端に立つ俺たちからも、戦闘の様子はよく見える。
「人獣は強い。だからと言って、黙って喰われてやる訳にはいきません。城の人間が一丸となって闘っています」
「呪いはどうした……?」
と、褐色女子(巨)は侮蔑するような調子で尋ねてきた。
「シャンの者は呪いを用いるのではないのか?」
「今、この城に呪術師はいません」
「其方は呪い師に呼ばれた異世界の者なのであろう? 呪いは使えぬのか?」
……幼馴染にフラれたばかりでして。とか言っても埒があかないしなぁ。
と、一瞬、考えてしまった。
「残念ながら使えません」
「そうか……」
褐色女子(巨)は、しばらくの間、外征隊を睨むように見詰めた。
そして、口を開いた。
「余は……、いや、私の名はアスマという。シャンの者が北の蛮族と呼ぶ、リヴァント聖堂王国の女王であった」
……び、びっくりしたぁ。
女王? 女王様? 確かに気品ありますけど。
え? 聖堂王国?
なにそれ、カッコいい。
『聖』なのに装束は黒なんスね。
とかとか、心の中は大騒ぎだったけど、顔には微笑みを浮かべて、余裕を見せてた……、はず。
アスマと名乗った褐色女子は、話を続けた。
「追放されて、ここに流れ着いた」
と、アスマは自嘲するような笑みを浮かべた――。
やがて、秘密裡に連行された褐色女子(巨)が姿を見せた。
手枷を嵌められ、目隠しをされ、フェイロンさんと、柿色髪の女剣士エジャが両脇を固めている。
あの鬼強いフェイロンさんをしても、ここまで警戒させるのかと、軽い驚きがあった。
「手枷と目隠しを外してもらえませんか?」
と、俺が言うと、エジャは躊躇いを見せたけど、フェイロンさんが頷いた。
手枷と目隠しを外された褐色女子(巨)の銀髪が風にたな引き、夕陽が紅く染めた。
「2人で話したい」
と、俺が言うと、フェイロンさんは「お気を付けを」とだけ言って、城壁の上で少し離れた。
褐色女子(巨)はその碧い瞳を俺に向け、無表情に見詰めてくる。
黒い装束は身体のラインにピッタリとしたデザインで、微細に造られた金の装飾が夕陽を反射している。
「北のお方……」
と、俺が話し掛けても、表情はピクリとも動かない。
「城壁の外を見てください」
俺が指差すと、褐色女子(巨)は物憂げに目線を動かし、そして、目を大きく見開いた。
城壁の外では大量の人獣たちがウロついている。虎型、獅子型、狼型……。
異形の人獣に目を釘付けにされた、褐色女子(巨)は一歩二歩と外に向かった。
「これは……」
「分かりません。突然、現れたのだそうです」
美しい褐色の横顔が、驚愕の色で満ちている。
「地下牢でキツネのような小さなヤツは見られたはずです」
と、俺が言うと、褐色女子(巨)はこちらに目を向け小さく頷いた。碧い瞳には恐れの色が浮かぶ。
「俺たちは今、こいつらと闘っています。既に半数以上、1,300人以上が、人獣に喰われました」
褐色女子(巨)は再び、城壁の外に視線を向けた。眼前の風景を信じることが出来ないようでもあった。
「あそこを見てください」
と、俺が指差した西側では外征隊が人獣と戦闘している。
俺たちの立つ南側城壁の東側、その反対の西側半分には長弓隊と短弓隊が展開していて、次々に矢が放たれている。
東の端に立つ俺たちからも、戦闘の様子はよく見える。
「人獣は強い。だからと言って、黙って喰われてやる訳にはいきません。城の人間が一丸となって闘っています」
「呪いはどうした……?」
と、褐色女子(巨)は侮蔑するような調子で尋ねてきた。
「シャンの者は呪いを用いるのではないのか?」
「今、この城に呪術師はいません」
「其方は呪い師に呼ばれた異世界の者なのであろう? 呪いは使えぬのか?」
……幼馴染にフラれたばかりでして。とか言っても埒があかないしなぁ。
と、一瞬、考えてしまった。
「残念ながら使えません」
「そうか……」
褐色女子(巨)は、しばらくの間、外征隊を睨むように見詰めた。
そして、口を開いた。
「余は……、いや、私の名はアスマという。シャンの者が北の蛮族と呼ぶ、リヴァント聖堂王国の女王であった」
……び、びっくりしたぁ。
女王? 女王様? 確かに気品ありますけど。
え? 聖堂王国?
なにそれ、カッコいい。
『聖』なのに装束は黒なんスね。
とかとか、心の中は大騒ぎだったけど、顔には微笑みを浮かべて、余裕を見せてた……、はず。
アスマと名乗った褐色女子は、話を続けた。
「追放されて、ここに流れ着いた」
と、アスマは自嘲するような笑みを浮かべた――。
13
お気に入りに追加
902
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています
もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。
使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる