上 下
152 / 297

150.お願い大浴場(1)

しおりを挟む
夕暮ゆうぐどき。今日は南側城壁の上から、外征隊がいせいたいを見守らせてもらっている。

イーリンさんは外征隊のメンバーとして城壁の外に出ており、代わって柿色かきいろの髪をした女性剣士が俺の護衛ごえいに付いてくれた。

あの剣士府けんしふでの演説のときに見かけた、イーリンさん以外に2人いた女性剣士のうちの1人。

大浴場ハーレム風呂に来てないってことは、ってこと……、と、あの時も軽く動揺どうようしてしまった。

エジャと名乗った女性剣士は、俺のそばで、凶暴化した人獣じんじゅうが登ってこないか警戒けいかいしてくれている。

としころは、たぶん、俺と同じか少し下。ふくらみもゆたかで、経験済みかぁ……、って思うと、昼間にリンシンさんから「おなぐさめします」って言われたことを思い出して、赤面してしまう。

いやいや、いかんいかん。今はそれどころではない。

外征隊は今日も備蓄庫びちくこ到達とうたつして、資材しざいはこび出している。

生傷なまきずえないようだけど、安定的に闘えている。心強い。

これで、当座とうざの間は木材の在庫ざいこの心配がなくなる。

ミンリンさんが考えてくれた『回廊決戦かいろうけっせん』をいどむには、また大量に木材が必要になるはずだ。

背後はいごに目線を移すと、宮城きゅうじょう夕陽ゆうひまっていた。

この時間帯の宮城きゅうじょうを外から見る機会きかいは、これまでそんなに多くなかった。

北の蛮族ばんぞくからの侵攻しんこうそなえる質実剛健しつじつごうけんなつくりにも、王族が城主をつとめたこともあるという宮城きゅうじょうは、瀟洒しょうしゃ意匠いしょうほどこされていて夕陽を反射はんしゃしている。

その地下には、あの褐色かっしょく女子たちをとらえている。

ミンリンさんの執務室しつむしつを出た後、ドレスを着直きなおしたシアユンさんと地下牢ちかろうに足をはこんだ。

褐色女子たち3人それぞれに話かけてみたけど、返事は返ってこない。

取り上げられていた服は返却へんきゃくされており、くさりいましめも最低限のものに減らしてある。

着ている服は、黒地に金で複雑な紋様もんようほどこされた装束しょうぞくで、文明度ぶんめいどの高さをうかがわせる洗練せんれんされたデザインだ。

蛮族という言葉のイメージからは、ほど遠い。

褐色の肌に、とおるような銀髪ぎんぱつ。オフのレザーのような素材そざいの装束に金の紋様。

名前も教えてもらえないし、見た目も共通してるところが多いし、俺は心の中で3人を「巨・大・中」と呼び分けた。……胸の大きさで。

さすがに、シアユンさんとも共有できる呼び方ではないので、心の中でだけ……。

褐色女子(巨)が一番立場が上なようで、俺の話には答えなかったけど「あとの2人は私に付いて来ただけだ。解放かいほうしてやってくれ」とだけ言った。

解放したくても、それはそく人獣じんじゅうのエサだ。

地下牢ちかろうに閉じ込められていた褐色女子(巨)に、外の状況がわかっていないことは無理もなかった。

夕陽に照らされた宮城きゅうじょうから視線を落すと、剣士の宿舎しゅくしゃもどる母親と娘の親子連おやこづれが目に入った。

シュエンが司徒府しとふ配給はいきゅうの責任者になったことで、き出しやその他の作業に参加してくれる方が少しずつ増え始めたと報告を受けていた。

宿舎にこもっていた剣士の遺族いぞくたちが、同じ境遇きょうぐうのシュエンが責任者になったことで、少しずつ顔を上げ始めてくれている。

その報告をしてくれたツイファさんも、俺が以前にお願いした剣士遺族の動向どうこうを気にかけ続けてくれていた。

そのツイファさんは今、俺の横で南側城壁に立っている。

俺がジーウォ公に即位そくいしたことで、俺も【やみもの】の護衛対象ごえいたいしょうになったんだろうか? いつものまし顔で、すずしげに外征隊の戦況せんきょうを見守っている。

やがて、外征隊は日没前に無事に城壁内に戻った。

日没後の戦闘にそなえた準備が始まったので、俺とツイファさんは柿色髪の女性剣士エジェに礼を言って城壁をりた。

外征隊は想像以上の戦果せんかを上げている。

第2城壁奪還だっかんに向けて、決戦をいど構想こうそうも始まった。

みんなが、それぞれの持ち場で全力をくしてくれている。

今、俺が集中すべきことは、北の蛮族の褐色女子たちの心を開くことか。

当面、自分自身がすべきことを確認しながら、夕陽でに染まる宮城きゅうじょうに戻った――。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています

もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。 使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...