113 / 297
112.立ち昇る熱気(3)
しおりを挟む
完成した連弩を手に、俺は2週間ぶりとなる【三卿一亭の会同】を招集した。
ジーウォ城の最高幹部たちを前に、連弩を披露し、住民全員を集めて現在置かれている全ての状況を説明することを提案した。
この国に民主主義はない。
住民の全員に説明する意義がなかなか理解されず、会議は長引いた。
司徒のウンランさんはニコニコしながら煮え切らないし、剣士長のフェイロンさんも難しい顔をしてた。
けど、最終的に司空のミンリンさんの言葉で決まった。
「知るということは、力です」
学問を修めることに情熱を注ぎ、27歳にして純潔というミンリンさんの言葉には説得力があった。ミンリンさんの設計した荷運び櫓が稼働し始め、威力を発揮し始めていたことも言葉に重みを増していた。
そして今、宮城の南側にある広場に、ジーウォ城に残る住民が総て集まっている。
その数、およそ1,200人。
剣士が約300名と、それ以外が約900名。元は約2,500人が暮らしていたというジーウォ城内の人口は、半数以上が人獣の爪牙に果てた。
連弩の威力を目にした住民たちの、どよめきが収まると、俺は皆に向かって声を張り上げた。
「ジーウォ城に兵士団を復活させます!」
遠い昔に初代マレビトの打った剣によって剣士団が創設され、「兵」という概念は自然と廃れていた。シキタリで禁じられた訳ではなく、自然消滅していた。
その「兵」の復活を、俺は宣言した。
長弓隊、短弓隊、槍隊、熱湯隊、荷運び隊、その総てを表す「兵」という概念は、皆の心をひとつにするのに必須の核になると考えた。
「兵士団は、剣士団を援け、その闘いを支え、共に人獣に立ち向かいます!」
闘いの主力である剣士団のプライドを損ねないよう、慎重な言い回しで、新たに設ける兵士団の役割を説明すると、集まった群衆からは大きな歓声が起きた。剣士団も概ね肯定的に捉えてくれているようだ。
「この城の食糧は、あと60日ほどで尽きます。それまでに第3城壁を越え、外城壁との間に広がる農地を取り戻さないと、私たちは餓えて死にます」
俺の言葉に、皆は水を打ったように静まり返った。
「農地の奪還後に、育ちの速い作物を植えて収穫することまで考えると、残された時間は約35日ほどです。それまでに、どうしても人獣を退けなくてはいけません! そのために、今、この連弩が祖霊から遣わされたと、俺は考えています!」
絶望に染まっていた群衆の目に、少し熱が戻ってくるのを感じた。
「今までの王国のやり方とは違うかもしれない。それでも! 今、この城に残る全員の心をひとつにしないと、あの怖ろしい人獣たちを押し返せるとは、俺には思えません! だから、良くない情報、心が折れそうになる情報も、皆で分かち合い、皆で支え合って、立ち向かいたいんです!」
静まり返っていた群衆から、やがて声が上がり始めた。
――やろう。
――やらなければ、死ぬだけだ。
――マレビト様は、俺達を信じてくれてるんだ。
――やろう。
――やって、やろうじゃないか。
ザワめきが広がり、やがて、大きなうねりのような歓声が再び巻き起こった――。
ジーウォ城の最高幹部たちを前に、連弩を披露し、住民全員を集めて現在置かれている全ての状況を説明することを提案した。
この国に民主主義はない。
住民の全員に説明する意義がなかなか理解されず、会議は長引いた。
司徒のウンランさんはニコニコしながら煮え切らないし、剣士長のフェイロンさんも難しい顔をしてた。
けど、最終的に司空のミンリンさんの言葉で決まった。
「知るということは、力です」
学問を修めることに情熱を注ぎ、27歳にして純潔というミンリンさんの言葉には説得力があった。ミンリンさんの設計した荷運び櫓が稼働し始め、威力を発揮し始めていたことも言葉に重みを増していた。
そして今、宮城の南側にある広場に、ジーウォ城に残る住民が総て集まっている。
その数、およそ1,200人。
剣士が約300名と、それ以外が約900名。元は約2,500人が暮らしていたというジーウォ城内の人口は、半数以上が人獣の爪牙に果てた。
連弩の威力を目にした住民たちの、どよめきが収まると、俺は皆に向かって声を張り上げた。
「ジーウォ城に兵士団を復活させます!」
遠い昔に初代マレビトの打った剣によって剣士団が創設され、「兵」という概念は自然と廃れていた。シキタリで禁じられた訳ではなく、自然消滅していた。
その「兵」の復活を、俺は宣言した。
長弓隊、短弓隊、槍隊、熱湯隊、荷運び隊、その総てを表す「兵」という概念は、皆の心をひとつにするのに必須の核になると考えた。
「兵士団は、剣士団を援け、その闘いを支え、共に人獣に立ち向かいます!」
闘いの主力である剣士団のプライドを損ねないよう、慎重な言い回しで、新たに設ける兵士団の役割を説明すると、集まった群衆からは大きな歓声が起きた。剣士団も概ね肯定的に捉えてくれているようだ。
「この城の食糧は、あと60日ほどで尽きます。それまでに第3城壁を越え、外城壁との間に広がる農地を取り戻さないと、私たちは餓えて死にます」
俺の言葉に、皆は水を打ったように静まり返った。
「農地の奪還後に、育ちの速い作物を植えて収穫することまで考えると、残された時間は約35日ほどです。それまでに、どうしても人獣を退けなくてはいけません! そのために、今、この連弩が祖霊から遣わされたと、俺は考えています!」
絶望に染まっていた群衆の目に、少し熱が戻ってくるのを感じた。
「今までの王国のやり方とは違うかもしれない。それでも! 今、この城に残る全員の心をひとつにしないと、あの怖ろしい人獣たちを押し返せるとは、俺には思えません! だから、良くない情報、心が折れそうになる情報も、皆で分かち合い、皆で支え合って、立ち向かいたいんです!」
静まり返っていた群衆から、やがて声が上がり始めた。
――やろう。
――やらなければ、死ぬだけだ。
――マレビト様は、俺達を信じてくれてるんだ。
――やろう。
――やって、やろうじゃないか。
ザワめきが広がり、やがて、大きなうねりのような歓声が再び巻き起こった――。
15
お気に入りに追加
1,299
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる