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106.幼馴染の未来(2)

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剣士を一人、マレビト護衛ごえいに回してほしいというシアユンさんの提案ていあんに、俺は判断基準はんだんきじゅんを持たない。スパイや暗殺者に命をねらわれたことなんかない。

ここは、たちの判断にゆだねるしかない。

「ふむ。侍女殿のおっしゃることも、もっともですな」

と、フェイロンさんがこたえた。

人選じんせん心当こころあたりはありますかな?」

「問題がなければ、イーリンがよろしいかと」

と、シアユンさんの言葉に、フェイロンさんは少し顔を上げて、ふんふんふんと考え込んだ。人員じんいん配置はいちを頭の中でシミュレーションしているようだった。そして、考えがまとまったのか、口を開いた。

「いいでしょう。しばらくの間、イーリンをマレビト様の護衛ごえいに付けましょう」

「剣士団も大変な中、無理を申し上げてしまいました」

「いや、必要なことです。それに、侍女シアユン殿とイーリンは王都そだちのでしたな。なにかと……、あっ!!!!」

あっ!!!! じゃねぇよ。

大人が一斉いっせいに、俺の顔見るなよ。フェイロンさんも、シアユンさんも、フーチャオさんも、ツイファさんも、俺の顔を見てる。……NGワードが出ちゃったみたいな顔で。

「き、気にしないでください……」

と、かろうじて声を出した。

迂闊うかつなことを申し上げました」

って頭を下げるフェイロンさん。やめてね、逆に傷つきますから。

「へっへっへっへ。剣士長フェイロン旦那だんなは、じゃねぇか」

と、フーチャオさんが笑った。

そうだ。前にフェイロンさんが「わしも、幼馴染にフラれたのです」と、俺に耳打みみうちしてくれたことを思い出した。

その後、なんとなくくわしい話を聞きそびれたままになっていた。

フェイロンさんは絵にいたように「こまった」という表情を浮かべた。いつもの威厳いげんは影をひそめて、なんならほほが少し赤い。

「うむ。侍女殿じじょどのらに、お聞かせするほどの話ではないのだが、わしむかし、幼馴染にフラれた」

シアユンさんとツイファさんが、軽く「へぇ」という顔をした。

「儂はジーウォここの生まれだったが、幼馴染にフラれたことがツラくて逃げ出し、王都で剣士になった」

「その幼馴染が、俺のよめだ!」

と、フーチャオさんがフェイロンさんのかたいて笑った。

えええっ! ミオンさんが? 確かに可愛かわいらしい感じの人だけど、いや、え? え?

「昔の話です」

と、フェイロンさんは上を見たまま言った。フーチャオさんがニコニコしたまま話を続ける。

「俺はながもので、あちこち放浪ほうろうした末にジーウォにたどり着いたんで、そのころのことは知らないんだけどよ、剣士長フェイロンの旦那が王都から左遷させんされて来てからは、3人で酒をのむむこともあるんだぜ?」

へ、へぇ――。そ、そんな感じにも、な、なれるものなんですね……。

な、なれるかな……? 俺と里佳りかも。

今はそもそも、もう一回会えるかどうかも分かりませんけど……、そんな未来もありますかね?

あ。シアユンさんとツイファさんも、大きく目を見開みひらいておっさん2人を見てますね。

普段冷静れいせいな侍女さん2人が、そんなふうおどろいてる顔、初めて見たかもしれません。

じゅ、純潔じゅんけつですもんね……。

侍女さん2人も、恋愛れんあい経験けいけんとか少なそうですもんね。

「だからよ、マレビト様も、いつかはらくになれるって!」

と、フーチャオさんが兄貴の笑顔で、俺の肩をパシパシたたいたその時、フェイロンさんがポソッとつぶやいた。

結構けっこう、かかる」

や、やっぱ、そうですよね――。

つぶきなのが、リアルだなぁ――。

「だが、永遠えいえんではない。マレビト様も、気長きながに傷がえるのを待たれるのが、良かろうとぞんじる」

永遠とか、傷とか、ワードが一つひとつ、グサグサっとさってくるんですけど……。

って、そこの、純潔じゅんけつ侍女じじょ2人!

生温なまあたたかい目で、こっちを見ないっ!
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