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101.紫の残像(1)
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「狙いは恐らく、リーファ姫とマレビト様です」
と言ったユーフォンさんに従って、俺とシアユンさんは急いで望楼を降り、リーファ姫の部屋に向かった。
足早に移動しながら、ユーフォンさんが手短に経緯を説明してくれる。
「このどしゃ降りの雨の中、ユエと申す娘が大浴場に向かおうとしていたのを、衛士が『まだ、早い』と入城を拒んだようです。雨の中、ユエは宮城の周囲をウロウロしていたのですが、不意に姿が見えなくなったのを訝しんだ衛士が様子を見に行くと、隠し扉が開け放たれており、そこから侵入しようとした賊に遭遇したようです」
――ユエ。水色髪のユエ。
そうか、すまない。俺の意識からも、しばらく消えていた。
メイファンとミンユーは長弓と短弓で戦闘に参加して、それだけでいっぱいいっぱいになっている。
2人がユエのことまで気が回らなくなっていることに、俺が気付いてあげるべきだった。
「恐らく、ユエが隠し扉を発見したのは偶然。それに乗じた賊が侵入したものと思われます」
「ユエは?」
「独りで大浴場に向かおうとしているところを、私が保護し、今はツイファとシュエンが、リーファ姫のお部屋で一緒です」
ユーフォンさんの表情にも語調にも、普段の明るさやお茶らけたところは一切ない。
「賊と遭遇した衛士は深手を負いましたが、命に別状はないとのことです。現在、宮城を警備する衛士が捜索しておりますが、未だ発見されておりません」
俺の部屋のすぐ側にある、リーファ姫の寝室に入ると、壁際に小さな明りがいくつも置かれていた
寝室の中央に置かれた寝台では、横なって眠るリーファ姫が影になって見えた。
「こちらへ」
と、いつもの澄ました口調でツイファさんに寝台の横に案内され、俺は身を屈めた。
俺の前ではシアユンさんが身を屈め、寝台の反対側ではユーフォンさんとシュエンそれにユエとおぼしき影が身を屈めている。
訳が分からないけど『賊』と言うからには悪い奴なんだろう。なんらかの危害を加えるために、宮城に忍び込んだ。
俺は隠れるにしても女子の後ろということが気になって、前に出ようとしたら、顰めた声でシアユンさんに押し止められた。
「そういうとこ、好きですよ」
うわぁ。急に、そんなこと言わないでください。
こんな薄暗い場所で、服越しに体温が伝わるくらい身体を寄せ合ってるときに。18歳男子を舐めないでください。どんな危険が迫っていても、照れますよ!
「でも、今は従ってくださいね」
と、穏やかな口調で続けたシアユンさんに、「はい」とだけ応えた。
外から人獣たちとの戦闘音と、打ち付ける雨音が響いてくる。けれども、部屋は静寂に包まれている。
リーファ姫の寝台の側に立っていたツイファさんが、俺と反対側にいるシュエンたちに静かに近付いた。
「いいですか、シュエン、ユエ。私がいいと言うまで、手で顔を覆い、目も瞑っておいてくださいね。そうすれば怖いことはなにもありませんからね」
コクリと頷いたシュエンの影がユエに促し、2人がツイファさんに言われた通りにするのが見えた。
「来ます」
と、静かに告げたツイファさんが、髪色と同じ鮮やかな紫色のチャイナ風味のドレスを、翻すように脱ぎ放った――。
と言ったユーフォンさんに従って、俺とシアユンさんは急いで望楼を降り、リーファ姫の部屋に向かった。
足早に移動しながら、ユーフォンさんが手短に経緯を説明してくれる。
「このどしゃ降りの雨の中、ユエと申す娘が大浴場に向かおうとしていたのを、衛士が『まだ、早い』と入城を拒んだようです。雨の中、ユエは宮城の周囲をウロウロしていたのですが、不意に姿が見えなくなったのを訝しんだ衛士が様子を見に行くと、隠し扉が開け放たれており、そこから侵入しようとした賊に遭遇したようです」
――ユエ。水色髪のユエ。
そうか、すまない。俺の意識からも、しばらく消えていた。
メイファンとミンユーは長弓と短弓で戦闘に参加して、それだけでいっぱいいっぱいになっている。
2人がユエのことまで気が回らなくなっていることに、俺が気付いてあげるべきだった。
「恐らく、ユエが隠し扉を発見したのは偶然。それに乗じた賊が侵入したものと思われます」
「ユエは?」
「独りで大浴場に向かおうとしているところを、私が保護し、今はツイファとシュエンが、リーファ姫のお部屋で一緒です」
ユーフォンさんの表情にも語調にも、普段の明るさやお茶らけたところは一切ない。
「賊と遭遇した衛士は深手を負いましたが、命に別状はないとのことです。現在、宮城を警備する衛士が捜索しておりますが、未だ発見されておりません」
俺の部屋のすぐ側にある、リーファ姫の寝室に入ると、壁際に小さな明りがいくつも置かれていた
寝室の中央に置かれた寝台では、横なって眠るリーファ姫が影になって見えた。
「こちらへ」
と、いつもの澄ました口調でツイファさんに寝台の横に案内され、俺は身を屈めた。
俺の前ではシアユンさんが身を屈め、寝台の反対側ではユーフォンさんとシュエンそれにユエとおぼしき影が身を屈めている。
訳が分からないけど『賊』と言うからには悪い奴なんだろう。なんらかの危害を加えるために、宮城に忍び込んだ。
俺は隠れるにしても女子の後ろということが気になって、前に出ようとしたら、顰めた声でシアユンさんに押し止められた。
「そういうとこ、好きですよ」
うわぁ。急に、そんなこと言わないでください。
こんな薄暗い場所で、服越しに体温が伝わるくらい身体を寄せ合ってるときに。18歳男子を舐めないでください。どんな危険が迫っていても、照れますよ!
「でも、今は従ってくださいね」
と、穏やかな口調で続けたシアユンさんに、「はい」とだけ応えた。
外から人獣たちとの戦闘音と、打ち付ける雨音が響いてくる。けれども、部屋は静寂に包まれている。
リーファ姫の寝台の側に立っていたツイファさんが、俺と反対側にいるシュエンたちに静かに近付いた。
「いいですか、シュエン、ユエ。私がいいと言うまで、手で顔を覆い、目も瞑っておいてくださいね。そうすれば怖いことはなにもありませんからね」
コクリと頷いたシュエンの影がユエに促し、2人がツイファさんに言われた通りにするのが見えた。
「来ます」
と、静かに告げたツイファさんが、髪色と同じ鮮やかな紫色のチャイナ風味のドレスを、翻すように脱ぎ放った――。
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