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83.シュエンの一歩
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「私も料理したいですっ!」
と、シュエンは少し頬を赤らめ俯いて俺に言った。
横に立っているツイファさんが、微笑みながら俺に解説してくれる。
「剣士団の家族と、城に住む平民との間に関わりは薄いのです。よろしければ、炊き出しを始める女性たちに、マレビト様からお口添えいただけませんでしょうか?」
そういうことか! うん! うん!! あの、真っ暗な宿舎の闇の中で独り、感情を殺して潜んでたシュエンが前向きな気持ちになって一歩踏み出してくれたことが、飛び上がるほど嬉しい。
俺はすぐにシュエンを伴ってミオンさんの所に向かい、事情を説明した。
「それは大歓迎ですよ! 引き受けはしたものの、結構な量を作らないといけないから、人手が増えるのは嬉しいわ!」
と、ミオンさんは快諾してくれ、シュエンもホッとしたように笑顔を浮かべた。
中年女性たちの輪に加わったシュエンは、たちまち可愛がられてる。
俺はそっとミオンさんに目配せして、少し離れたところに来てもらい、シュエンの置かれてる境遇を簡単に説明した。
「お任せください!」
と、胸を張ったミオンさんは、やっぱり若頭さんの嫁なんだなと頼もしく見えた。
俺はツイファさん、ユーフォンさん、メイユイが待ってくれてる場所まで戻り、ツイファさんに頼みごとをした。
「亡くなった剣士のご家族の状況を調べてもらえませんか?」
「承知しました」
と、ツイファさんはいつもの澄まし顔で、軽く頭を下げた。
「寂しい思いをしてたり、孤立したりしてるご家族があれば、それとなく炊き出しの作業に誘ってみてください。あと、縫い物を続けてるお母さんたちもいるので、そちらでも」
剣士団は毎晩の戦闘だけで手一杯だ。本来、遺族には手厚いと思うんだけど、今は多分、そこまで手が回っていない。
気にはなってたんだけど、シュエンのお陰でそういう方たちに提案できるものに気が付いた。
イーリンさんを通じて剣士団の了承も得ておくようにと伝えると、ツイファさんは宮城に戻って行った。
優しげなお姉さんって佇まいで、これぞ侍女! って印象だったツイファさんだけど、実にソツなく仕事をこなしてくれる。短期間でシュエンの心を前向きにさせてくれた優しい真心もある。そもそも、あの場でスグにシュエンを引き受けてくれた決断力も行動力もすごい。
いや、王族に付く侍女さんって、元々有能なのか。
と、ユーフォンさんを見るとニコニコしてる。うん。ユーフォンさんはその感じが有能です。いるだけで明るい雰囲気になる華がある。有能さは実務能力とは限りませんよね。
仮設住宅を歩いて回ると、大人たちに活気が戻ったせいか、子供たちも元気よく遊んでいた。そう、この子たちの命もかかっている。微笑ましい光景にも、気が引き締まる。
メイファンたち長弓隊の面々は、まだ寝てるようだ。昨晩は一晩中、矢を放ち続けた。そんな経験は初めてのことだっただろう。わずかな時間だけど、しっかり休養してほしい。
もちろん、まだ無気力に道端で座り込んでいる人たちも見かける。
フーチャオさんには戦闘参加の志願者を集めるにあたって、強制することがないようにもお願いしている。
キレイごとだけでなく、実際問題として、イヤイヤ参加する人がいては、そこが穴になる。
あのギリギリの戦闘が展開されてる城壁の上で、蟻の一穴は命取りになりかねない。防衛線が決壊したら、即全滅だ。
あの人たちも少しずつ立ち上がる気力を取り戻してもらったのでいい。そして、一人が立ち上がるたびに、俺は飛び上がって喜ぶんだろうな。
見上げると、今晩も空が茜色に染まり始めている。長弓隊の皆さんも姿を見せ始めた。
今晩も、あの怖ろしい夜がやってくる。
けど、少しずつ武器を蓄えつつあるぞ。と、自分に言い聞かせながら、足早に望楼に向かった。
と、シュエンは少し頬を赤らめ俯いて俺に言った。
横に立っているツイファさんが、微笑みながら俺に解説してくれる。
「剣士団の家族と、城に住む平民との間に関わりは薄いのです。よろしければ、炊き出しを始める女性たちに、マレビト様からお口添えいただけませんでしょうか?」
そういうことか! うん! うん!! あの、真っ暗な宿舎の闇の中で独り、感情を殺して潜んでたシュエンが前向きな気持ちになって一歩踏み出してくれたことが、飛び上がるほど嬉しい。
俺はすぐにシュエンを伴ってミオンさんの所に向かい、事情を説明した。
「それは大歓迎ですよ! 引き受けはしたものの、結構な量を作らないといけないから、人手が増えるのは嬉しいわ!」
と、ミオンさんは快諾してくれ、シュエンもホッとしたように笑顔を浮かべた。
中年女性たちの輪に加わったシュエンは、たちまち可愛がられてる。
俺はそっとミオンさんに目配せして、少し離れたところに来てもらい、シュエンの置かれてる境遇を簡単に説明した。
「お任せください!」
と、胸を張ったミオンさんは、やっぱり若頭さんの嫁なんだなと頼もしく見えた。
俺はツイファさん、ユーフォンさん、メイユイが待ってくれてる場所まで戻り、ツイファさんに頼みごとをした。
「亡くなった剣士のご家族の状況を調べてもらえませんか?」
「承知しました」
と、ツイファさんはいつもの澄まし顔で、軽く頭を下げた。
「寂しい思いをしてたり、孤立したりしてるご家族があれば、それとなく炊き出しの作業に誘ってみてください。あと、縫い物を続けてるお母さんたちもいるので、そちらでも」
剣士団は毎晩の戦闘だけで手一杯だ。本来、遺族には手厚いと思うんだけど、今は多分、そこまで手が回っていない。
気にはなってたんだけど、シュエンのお陰でそういう方たちに提案できるものに気が付いた。
イーリンさんを通じて剣士団の了承も得ておくようにと伝えると、ツイファさんは宮城に戻って行った。
優しげなお姉さんって佇まいで、これぞ侍女! って印象だったツイファさんだけど、実にソツなく仕事をこなしてくれる。短期間でシュエンの心を前向きにさせてくれた優しい真心もある。そもそも、あの場でスグにシュエンを引き受けてくれた決断力も行動力もすごい。
いや、王族に付く侍女さんって、元々有能なのか。
と、ユーフォンさんを見るとニコニコしてる。うん。ユーフォンさんはその感じが有能です。いるだけで明るい雰囲気になる華がある。有能さは実務能力とは限りませんよね。
仮設住宅を歩いて回ると、大人たちに活気が戻ったせいか、子供たちも元気よく遊んでいた。そう、この子たちの命もかかっている。微笑ましい光景にも、気が引き締まる。
メイファンたち長弓隊の面々は、まだ寝てるようだ。昨晩は一晩中、矢を放ち続けた。そんな経験は初めてのことだっただろう。わずかな時間だけど、しっかり休養してほしい。
もちろん、まだ無気力に道端で座り込んでいる人たちも見かける。
フーチャオさんには戦闘参加の志願者を集めるにあたって、強制することがないようにもお願いしている。
キレイごとだけでなく、実際問題として、イヤイヤ参加する人がいては、そこが穴になる。
あのギリギリの戦闘が展開されてる城壁の上で、蟻の一穴は命取りになりかねない。防衛線が決壊したら、即全滅だ。
あの人たちも少しずつ立ち上がる気力を取り戻してもらったのでいい。そして、一人が立ち上がるたびに、俺は飛び上がって喜ぶんだろうな。
見上げると、今晩も空が茜色に染まり始めている。長弓隊の皆さんも姿を見せ始めた。
今晩も、あの怖ろしい夜がやってくる。
けど、少しずつ武器を蓄えつつあるぞ。と、自分に言い聞かせながら、足早に望楼に向かった。
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