上 下
79 / 297

79.長弓の射手

しおりを挟む
望楼ぼうろうから見下みおろす宮城きゅうじょうの北側の屋根には、玉篝火サーチライトが7台、並んで立ってる。

日没直前の空は、群青色ぐんじょういろ茜色あかねいろを西に追いやろうとしている。

玉篝火サーチライトとなりには、長弓ながゆみ射手しゃしゅたちが立っている。志願者しがんしゃは1人増えて7人。シーシは人数分の玉篝火サーチライト製造せいぞうを間に合わせてきた。

一列に並ぶ射手たちの真ん中にはメイファンが左手に長弓を持って立っている。その足下あしもとには、大きなかごが置かれ、大量の矢が入れられている。

北側城壁では、すでに剣士たちが展開てんかいしており、日没直前になって玉篝火サーチライト点火てんかされた。

まきに火が回り、光量こうりょうが最大になると同時に完全に日没し、人獣じんじゅうたちがうなり声を上げて城壁上にび上がって来た。

望楼ぼうろうよりは低い宮城きゅうじょうの屋根からでは俯角ふかく(下向きの角度)が充分じゅうぶんに取れず、玉篝火サーチライトの足を少し高くしたけど、円形の光は第2城壁そのものをらし出している。

城壁の上の剣士たちに後ろから光があたると、自分が影になって視界のさまたげになるので、これ以上は下げられない。玉篝火サーチライトからの光は、剣士たちの頭の上を飛びえてらしている。

その光の中を第2城壁を乗りえた人獣たちが、次々にりてくるのが見えた。

視界しかいを確認したメイファンが、ほかの射手しゃしゅたちにも確認し、望楼ぼうろうに立つ俺の方を見上げて手を挙げてうなずいた。

俺も手を挙げ合図あいずを返すと、メイファンは他の射手たちにも合図を送り、長弓をかまえた。

かまえーっ!」

という、メイファンの声がひびいてくる。そして。

はなてーっ!」

というごえで、一斉いっせいに7本の矢がはなたれた。

5本が眉間みけん命中めいちゅう! 1本はほほに、1本は肩にさった。うん。なかなかの命中率めいちゅうりつ。まったくはずした矢がなかっただけでも手ごたえを感じる。

再び「構えーっ!」「放てーっ!」という、メイファンの声が響いて次々に矢が放たれる。

昼間のうちに、色々ためしてもらって、色々話し合った結果、無理な連射れんしゃスピードは求めないことに決めた。なにせ一晩中ひとばんじゅう続く。

体力や気力との兼ね合いも考慮こうりょして、おおよそ30秒に1発を15分続けて5分休憩。というサイクルで矢をはなってもらうことにした。

それで、夜が10時間として、一人の射手が一晩に放つ矢が約1,200本。7人で8,400本。

シーシに最初は5,000本でいいって言ってしまってたけど、すでに2万本を用意してくれていた。ありがたい。

一晩に10万体はっている剣士に比べての8,400体だけど、少しでも剣士の負担ふたんらせるか? け石に水か? 人獣じんじゅう大波おおなみに変化はないか?

次々に放たれる矢の効果こうかを、俺は目をらして見ていた。

城壁をび上がってくる人獣たちに、最初は何の変化も見られなかった。

けど、30分が過ぎた頃から、ほんの少しだけ、城壁から人獣じんじゅうび上がるペースが落ちた。

剣士たちの動きが「斬って、斬って、斬って」だったのが、「斬って、フッ。斬って、フッ。斬って、フッ」くらいのテンポになっていた。

ふと見ると、玉篝火サーチライトの光が照らす城壁の足下あしもとで、ぼんやりと照らし出される、弓で射抜いぬいて倒した人獣じんじゅうに群がる人獣じんじゅうたちが見えた。

凄惨せいさんにも見える共食ともぐいの光景こうけいだったけど、それで人獣じんじゅうたちの足が止まってる。

1時間が経過けいかする頃には、剣士たちの動きが「斬って、フーッ。斬って、フーッ。斬って、フーッ」くらいになった。

――よし。効果こうかあり! いける!

望楼ぼうろうから見えるメイファンの小さな背中が、大きく、きとして見えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺がカノジョに寝取られた理由

下城米雪
ライト文芸
その夜、知らない男の上に半裸で跨る幼馴染の姿を見た俺は…… ※完結。予約投稿済。最終話は6月27日公開

クラスで一人だけ男子な僕のズボンが盗まれたので仕方無くチ○ポ丸出しで居たら何故か女子がたくさん集まって来た

pelonsan
恋愛
 ここは私立嵐爛学校(しりつらんらんがっこう)、略して乱交、もとい嵐校(らんこう) ━━。  僕の名前は 竿乃 玉之介(さおの たまのすけ)。  昨日この嵐校に転校してきた至極普通の二年生。  去年まで女子校だったらしくクラスメイトが女子ばかりで不安だったんだけど、皆優しく迎えてくれて ほっとしていた矢先の翌日…… ※表紙画像は自由使用可能なAI画像生成サイトで制作したものを加工しました。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える

ジャック
ファンタジー
私立三界高校2年3組において司馬は孤立する。このクラスにおいて王角龍騎というリーダーシップのあるイケメンと学園2大美女と呼ばれる住野桜と清水桃花が居るクラスであった。司馬に唯一話しかけるのが桜であり、クラスはそれを疎ましく思っていた。そんなある日クラスが異世界のラクル帝国へ転生してしまう。勇者、賢者、聖女、剣聖、など強い職業がクラスで選ばれる中司馬は無であり、属性も無であった。1人弱い中帝国で過ごす。そんなある日、八大ダンジョンと呼ばれるラギルダンジョンに挑む。そこで、帝国となかまに裏切りを受け─ これは、全てに絶望したこの世界で唯一の「無」職の少年がどん底からはい上がり、世界を変えるまでの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 カクヨム様、小説家になろう様にも連載させてもらっています。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

神様に転生させてもらった元社畜はチート能力で異世界に革命をおこす。賢者の石の無限魔力と召喚術の組み合わせって最強では!?

不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)
ファンタジー
●あらすじ ブラック企業に勤め過労死してしまった、斉藤タクマ。36歳。彼は神様によってチート能力をもらい異世界に転生をさせてもらう。 賢者の石による魔力無限と、万能な召喚獣を呼べる召喚術。この二つのチートを使いつつ、危機に瀕した猫人族達の村を発展させていく物語。だんだんと村は発展していき他の町とも交易をはじめゆくゆくは大きな大国に!? フェンリルにスライム、猫耳少女、エルフにグータラ娘などいろいろ登場人物に振り回されながらも異世界を楽しんでいきたいと思います。 タイトル変えました。 旧題、賢者の石による無限魔力+最強召喚術による、異世界のんびりスローライフ。~猫人族の村はいずれ大国へと成り上がる~ ※R15は保険です。異世界転生、内政モノです。 あまりシリアスにするつもりもありません。 またタンタンと進みますのでよろしくお願いします。 感想、お気に入りをいただけると執筆の励みになります。 よろしくお願いします。 想像以上に多くの方に読んでいただけており、戸惑っております。本当にありがとうございます。 ※カクヨムさんでも連載はじめました。

処理中です...