上 下
75 / 297

75.反攻の日は近い(2)

しおりを挟む
「私も独身どくしん純潔じゅんけつなら子種こだねさずけていただくのに、本当に残念ですっ!」

って、ミオンさん!? 旦那だんなさんを目の前にしてする話ですか、それ!?

いや……、フーチャオさんも、うんうんうなずいてるし。

同行してくれてる侍女のユーフォンさんも、護衛ごえいのメイユイも普通に世間話せけんばなしを聞いてる風情ふぜいだし。

「マレビト様が召喚された時代に、せいけているなんて、なんて僥倖ぎょうこう是非ぜひ機会きかいまいりましたら、メイファンとミンユーを、よろしくお願いいたしますね」

若く見えるミオンさんは、スイランさんとはまた違った学級委員長タイプ。少女マンガで主人公を応援してそうな学級委員長タイプ。下品げひんなことなんか言いそうにない。

むすめ純潔じゅんけつらずの男にすって、どんな母親だ!?」って思うのは俺の感覚かんかくで、これがダーシャン王国の一般的いっぱんてきなんだろう。

ちょっと、眩暈めまいがする気がした。

ミオンさんは用事だと言って席を外し、フーチャオさんと向き合うと、昨日のお礼を伝えた。

フーチャオさんは「勝ったな」と、ニヤリと笑って、あとは何も言わなかった。

それから、戦闘に参加を志願しがんしてくれる狩人かりうどさんの集まり具合ぐあいたずねた。

「今のところ長弓ながゆみが6人、短弓たんきゅうが8人ってところだ」

「最初としては充分じゅうぶんですね」

「そうか? そう言ってくれるなら良かった」

「最初から人獣じんじゅう全滅ぜんめつねらうのは無理があると思うんです」

「ふむ」

「剣士が一晩に相手をしないといけない人獣じんじゅうの数を、少しらす。そういうところから始めたいって思ってます」

「と言うと?」

「たとえば、城壁の上に上がってくる人獣じんじゅうのうち、5体に1体を弓で仕留しとめる。いや、最初は10体に1体でも、100体に1体でもいい。すると、剣士の負担ふたんが少し軽くなる。相手にする人獣じんじゅう翌日よくじつまわしただけになるかもしれませんが、夜が明ければ人獣じんじゅうは来ない。戦闘が終わる。一晩の負担は軽くなる」

「なるほどな」

「そうして、安定的に闘える状況じょうきょうを、まず、つくりたいなって思ってます。今はとにかく、ギリギリすぎると思うんです」

「よし、分かった。みなにも、マレビト様の考えを伝えよう。最初の実戦投入たたかいはいつだ?」

「明日の晩になるかと。かなりテスト的になるとは思うんですけど」

「分かった」

「あと、今晩こんばんに確認しておきたいことがあるんで、ミンユーをおりします」

「ああ、それも分かった。なんでも使ってやってくれ」

「そうだ。南側城壁で投石してくれてる人たちなんですけど」

「おお。チンピラ連中な」

「別の武器を用意しようとしてるんですけど、そっちに回ってもらうことって出来ますか?」

「また、なにか考えてるな?」

と、フーチャオさんがニヤッと笑って、話してみようと言った。

帰りぎわに、ミオンさんが顔を出してくれて、まだ用事があったことを思い出した。タスクリストをメモっとかないといけないな、これ。

住民のみなさんの食事の改善かいぜんに、お母さんたちの力をりられないかって聞いたら、むしろ喜んでくれた。

配給はいきゅうされる食事の味が不安定ふあんていなことに、だいぶ不満ふまんまっていたようだ。

これで、住民の皆さんのしょくじゅうの全部がととのう。みんなの気持ちをひとつにって言っても、生活環境せいかつかんきょうが整わないと前向きな気持ちにはなれない。なにせ、長丁場ながちょうばになることが間違いない。

それから、司空府しくうふにミンリンさんをたずね、今朝けさの「むにゅう」を思い出して2人で顔を赤くし、シーシの工房こうぼうやり試作品しさくひんを受け取った。

槍なんか使ったことないし、一度、自分で試してみないと、皆に使い方を説明できない。

鍋付きサーチライト型篝火の進捗しんちょくを確認すると、そもそもなべが足りなくなってて、専用せんよう球体きゅうたい鍛造たんぞうされてた。マジすげえな、ツルペタ姉さん。

玉篝火たまかがりびと名付けたのだ!」

って、シーシが満面まんめんみで宣言せんげんしたので、公式採用こうしきさいようすることにした。

と、諸々もろもろの準備や打ち合わせにまわるうちに、今日も日がれた。

また、人獣じんじゅうたちがやって来る。

でも、反攻はんこうの日は近い。

俺は足早に、城壁に向かって急いだ――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イク♡ イク♡ 体育ッ♂

宗形オリヴァー
BL
金髪チャラ男の金城は、大好きな体育教師の獅子王先生にエロアプローチする毎日。 そのせいでついに、先生からえっちな体育の補習を受けさせられることに…! ☆むっつり絶倫体育教師×なんちゃってチャラ男DK☆

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

オジサン好きなDCが村祭りの儀式に参加する話

ルシーアンナ
BL
同級生の父親や出会い系でパパ活してるビッチ受けDCが、田舎の伯父さんに夜這いされたり、村祭りの儀式姦されたりする話。 DC,未成年淫行,パパ活,伯父×甥,輪姦,乱交,儀式姦,メス堕ち,おねだり,雄膣姦,中出し,倫理観なし,薬物表現あり,淫語,♡喘ぎ,濁音喘ぎ

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

せっかく女の子に生まれ変わったんだから、僕はただ……お嬢さまを僕好みに育てるついでに愛でて撫で回して甘やかして楽しもうって思っただけなのに!

あずももも
ファンタジー
かつては男(年齢不詳、たぶん高校生以上)だったのと、ぼんやりと現代で生きていたっていうのしか覚えていない僕は、「リラ」っていう女の子として生まれ直してしまった。 それならまだしも、発育不良……この世界基準では10歳くらいにしか見てもらえない、いや見た目はかわいいけど、……でも、自分がかわいくたってしょうがないじゃない? そもそも自分だし。 ってことで僕自身のことは諦めて、この愛くるしい見た目を最大限に発揮して、手当たり次第女の子や女の人にセクハラもとい甘えるっていうのを謳歌していた僕、リラ。 だけど、あるできごとを境にジュリーさまっていう女神な天使さまに一途にするって決めたんだ。 だから僕は、お嬢さまにすべてを捧げ続ける。 これからも。 ☆ そんな、彼だった彼女なリラちゃんが、延々とジュリーちゃんに欲望を振りまき、やがてタイトルにあるようなことを叫んでのおしまいとなるだけのおはなしです。 この作品は、小説家になろう・ハーメルン・カクヨム・アルファポリス・ノベルアッププラスと節操なく同時連載です。 ☆ 2021年01月13日(水)完結致しました。

とてもとても残酷で無慈悲な婚約破棄

ねんごろ
恋愛
救いようがないです。

処理中です...