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67.宿舎の灯り

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望楼ぼうろうから俺の姿が見えなくなることが、剣士たちに動揺どうようを生んではいけないと思い、シアユンさんに残ってもらった。

あの激しい戦闘中に、ジッとこちらを見てるわけではないだろうし、シアユンさんが立ってれば俺もいるって思うだろう。

もっとも、俺がそこまでの精神的せいしんてき支柱しちゅうになってるかっていうと、自意識過剰じいしきかじょうな気もするんだけど、剣士の集中力をぐようなことは出来るだけけたい。

シアユンさんにわって紫髪むらさきがみのツイファさんが俺に付いてくれて、護衛ごえいのメイユイをともなって、俺は黄色髪きいろがみ女子のシュエンをたずねるため、剣士の宿舎しゅくしゃに向かった。

宮城きゅうじょうの南側にある広場の両脇りょうわきに立ち並んでいる剣士宿舎のいくつかからは、あかりがれてる。

家族がいる剣士の宿舎ってことなんだろうけど、数は少ない。剣士は独身が多いってことなんだろう。

あかりがともる宿舎のひとつのとびらをノックすると、おびえた表情の中年女性おばさんが出てきた。おどろかせてしまって申し訳ない。奥には小さなむすめさんの姿も見える。

夫の剣士の無事をいのりながら、眠れぬ夜を過ごしているようだった。

灯りのともる宿舎では、皆、こんな時間をえているんだろうと、胸がチクリと痛んだ。

突然の来訪らいほうをおびして、シュエンの住む宿舎の場所をたずねた。中年女性おばさんは、シュエンの名前を聞くと悲痛ひつうな表情をかべた。

どうにかしてあげたいけど、自分もいっぱいいっぱいという気持ちがにじみ出ているようだった。

教えてもらった宿舎に向かう途中、ふと気になって、横を歩くメイユイにたずねた。

「さっきのおウチでチラッと見えた、女のお子さんも『純潔じゅんけつ』だよなぁ……?」

「ええ――っ!! マレビト様、そういうご趣味しゅみだったんですかぁ!?」

「違う違う違う違う違う!! 違うったら! そんな目で見るな!」

「でも……、それなら……」

「それなら、じゃない! 違うったら違うの! 興味きょうみ! ただの興味だから!」

「興味がおありなんですね!」

「違う! そっちの興味じゃない!」

後ろを付いて歩いていたツイファさんが、クスクス笑いながら教えてくれた。

「マレビト様に純潔じゅんけつささげて良いのは16歳からと、シキタリに定められております」

「なるほど! 俺の知識欲ちしきよくたされました! なっ! 知識欲! 分かる? メイユイ」

「そういうことだったんですね。あー、ビックリしました」

ビックリしたのはこっちだと思いながら、シュエンの宿舎の前に着いた。

窓から灯りは見えず、扉をノックしても反応はなかった。寝てるのかな、とも思ったけど、四方しほうかこむ城壁からの激しい戦闘音は、ここまでひびいてきてる。ねんのため中を確認したい。

扉にかぎはかかってなかったけど、さすがに女子が一人で住んでるところに、俺が先頭切って入る訳にもいかず、ツイファさんにお願いした。

承知しょうちしましたと、ツイファさんが行灯あんどんを持って暗い部屋の中に消えた。

メイユイと2人、扉の外で待った。周囲しゅうい警戒けいかいして見回みまわしているメイユイの横顔が、行灯あんどんの光でほのかに照らされている。

いわゆる、黙ってたら美人ってヤツだ。ひとつ上の19歳。クラスにいたら人気者なんだろうなぁって思う。

しばらくすると、困惑こんわくした表情のツイファさんが出てきた。

くらな奥の部屋にいたシュエンは、じろぎひとつしないで座っていて、呼びかけても反応しないという。

俺が、ツイファさんとメイユイと3人で部屋の中に入ると、胡坐あぐらをかいて座り、またたきひとつせずに前を見据みすえるシュエンの姿があった。

行灯あんどんの光に照らされたシュエンは、髪色と同じ黄色のチャイナな短いキャミソール姿で、あしは太ももまで見えている。その側には、食べかけのかゆがあって、ほとんど食べられていないのが分かる。

置いてあった行灯あんどんにも火をともし、部屋全体を明るくしてもらう。

シュエンのんだ水色の瞳は、ぐ前を向いたまま動かない。胸元むなもとから胸の谷間が見えていて、ドキリとしてしまう。

……あれだけ、全裸ぜんらを見ててもドキッとしてしまうものなのか。

と、みょうな発見はあったけど、そんな場合でもない。

「シュエン……? シュエン……?」

と、顔を近付けて、おどろかさないように小声こごえで呼びかけてみる。何度か名前を呼んだ後、フッとひとみが動いた。

「あれ……? マレビトさま……?」
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