上 下
49 / 297

49.初めて迎える夜

しおりを挟む
「あっ! マレビト様、お帰りなさい!」

と、メイユイは屈託くったくのない笑顔で俺に話しかけてきた。

「なにしてるの?」

「はい! 今日からここで、まりで護衛ごえいさせていただきますっ!」

「え……? なんで?」

寝てるところに、あられもない姿のイーリンさんがかってたときのことを思い出して、少し赤面する。

「だって、マレビト様、宮城きゅうじょうの外に出るときでも、私のこと忘れて置いて行くじゃないですか? ここで護衛してたら忘れられないかなって。あっ! シアユンさんの許可はもらってます!」

衛士の装甲そうこういで、黒いチャイナな上着に、髪色と同じ緋色ひいろのズボン姿のメイユイが、大真面目おおまじめな表情で敬礼けいれいして見せた。

そのまよいのない表情に、思わずしてしまって、かたの力が少しけた。

ふと、メイユイがった胸からき出されたふくらみが目に入った。装甲の胸当むねあてで押さえつけられてた膨らみが、遠慮えんりょなく前にり出してて、俺にバイーンっと主張してくる。

さらに言うと、ズボンの上にいてる緋色ひいろの幅広の帯がコルセットみたいになってて、余計に膨らみが強調されてる。

……今、俺、しましたね。チラ見。してしまいましたよね。気付かれたかな? 気付くものなんですよね? 女子は。里佳りか情報によると。

寝室には入って来ないでね、って言い出すタイミングを失って、よろしくねとだけ言って、寝室に戻った。

上着を脱いで窓際まどぎわ椅子いすに腰かける。ベッドに横になったら、出るのが嫌になりそうだ。

今日は一日、色んなことをしてきたけど、異世界こっちに召喚されてからずっと、一日のメインイベントは日没の後だ。と、大きくい込んだ息をき出すと、声が聞こえた。

「失礼いたします」

と、シアユンさんがお茶を持って来てくれた。窓の向こう側では、剣士たちが最終城壁に登り始めてる。

シアユンさんがれてくれたお茶でのどうるおす。お茶のあつさが、気持ちを落ち着かせてくれるような気がした。

静かな時間が流れる。

ふと、気になってたメイファンの言葉を思い出して、シアユンさんにたずねた。

「メイファンが『マレビトが新しいシキタリをつくるのは普通』って言ってたんですけど、どういう意味か分かります?」

「シキタリの始まりは、初代マレビト様が祖霊それいからの託宣たくせんをもとに定められたと伝わります。その後、追加されたものもありますが、そのことをしているのではないかと」

「アホなこと聞くかもですけど、例えば俺が『これが新しいシキタリです!』って宣言せんげんしたら、皆さんは受け入れてくれるものですか?」

「……おそらく、それだけではむずかしいのではないかと。特に、これまでのシキタリを変更へんこうしたり、修正しゅうせいする場合はなおのこと」

「ですよねー。はは」

「ただ、これまでに申し上げた通り『マレビト様の言葉を受け入れる』というシキタリがすでにあります。メイファンのように素直すなおものは、マレビト様の言葉に大きな抵抗ていこうを感じることはないでしょう。ですが、そのような者ばかりではない、ということです」

剣士長のフェイロンさんも、俺の話に「剣士の皆が皆、納得なっとくする訳ではない」って言ってた。

人間には一人ひとりに気持ちがある。スパッと竹をったような話にはならないってことだ。

シアユンさんにお礼を言って、お茶を飲みす頃には、日没の直前を迎えていたので部屋を出た。

メイユイが「行ってらっしゃーい!」と、手を振った。

……そこにいる意味ある? 宮城きゅうじょう内は安全だから護衛に付いて来ないってことなんだろうけど。

それからシアユンさんと一緒に宮城きゅうじょうのぼり、望楼ぼうろうに向かった。

色々準備して、やっと「見てるだけ」じゃない、初めての夜を迎える。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

スキルを極めろ!

アルテミス
ファンタジー
第12回ファンタジー大賞 奨励賞受賞作 何処にでもいる大学生が異世界に召喚されて、スキルを極める! 神様からはスキルレベルの限界を調査して欲しいと言われ、思わず乗ってしまった。 不老で時間制限のないlv上げ。果たしてどこまでやれるのか。 異世界でジンとして生きていく。

男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)

@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」 このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。 「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。 男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。 「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。 青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。 ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。 「カクヨム」さんが先行投稿になります。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

俺だけ異世界行ける件〜会社をクビになった俺は異世界で最強となり、現実世界で気ままにスローライフを送る〜

平山和人
ファンタジー
平凡なサラリーマンである新城直人は不況の煽りで会社をクビになってしまう。 都会での暮らしに疲れた直人は、田舎の実家へと戻ることにした。 ある日、祖父の物置を掃除したら変わった鏡を見つける。その鏡は異世界へと繋がっていた。 さらに祖父が異世界を救った勇者であることが判明し、物置にあった武器やアイテムで直人はドラゴンをも一撃で倒す力を手に入れる。 こうして直人は異世界で魔物を倒して金を稼ぎ、現実では働かずにのんびり生きるスローライフ生活を始めるのであった。

処理中です...