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37.駆け寄る青春

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ふと思い付いて、司空府しくうふに行く前に、宮城きゅうじょうを昇って望楼ぼうろうに立ち寄った。

――あれ? 見えてるじゃん。

望楼からは第2城壁の一番根元ねもとの部分が見えてる。

今までは、最終城壁より第2城壁、第3城壁が高くて、それより向うが見えないことの方が気になってて、気付かなかったんだろう。

目測もくそくで、ここから150mくらいかな……?

もちろん、最終城壁のかげになってるエリアは見えないし、第2城壁内の建物たてもの視界しかいさえぎってるところもある。けど、一応、見えてる。

――あっ。人獣じんじゅうだ……。

チラホラと第2城壁の内側をウロついてる人獣の姿が見える。……こえぇえなぁ、もう。

目測で望楼の高さが、たぶん10~13mくらい。いや、10ってことはないか。最終城壁は4~5mくらいで、第2城壁は、望楼とほぼ同じ高さ……。

いや、待てよ。建築けんちく専門家せんもんかがいるんなら、正確な高さや距離も分かるんじゃ? 単位を覚えるのは面倒なので、メートル換算かんざんで考えるとして……。

と、気が付いたらブツブツひとごとつぶやいてたらしく、同行してくれているツイファさんが怪訝けげんな表情をしてた。ペコッと会釈えしゃくしておいたら、にっこりと微笑ほほえみ返してくれた。ツイファさんも美人だよなぁ……。

何が気になってるかというと、サーチライト型篝火かがりび実現じつげんしたとして、宮城きゅうじょうの望楼に設置せっちすれば、最終城壁の向こう側まで明るくできるんじゃないか? ってことだ。

それが出来たら、弓矢を使った攻撃にはばが出る。

というか、向こう側に光を届かせないと、さすがに狙いがつけられないだろう。そしたら、最終城壁の下から剣士の援護えんごにしか使えない。

――待てよ。

これ、弓矢を使えば昼間の内にウロついてる人獣を仕留しとめられるんじゃ……。弓の射程しゃてい距離きょりがハッキリとは分からないんだけど、望楼から狙ってもいいし、最終城壁の上から狙ってもいい。

……いや。人獣が強烈きょうれつおそかってくるのは夜だ。まずは夜の攻撃をしのぎやすくすることを考えるのが先か。昼間に弓矢で上手く倒せても、夜に最終城壁が陥落かんらくしたら、そく全滅ぜんめつだ。

考えが、行き当たりばったりに、あちこち飛ぶのは仕方がない。最短さいたんで効果的な方法を見つけ出して、効果を上げたい。

「ツイファさん。司空府しくうふは後に回して、先にフーチャオさんの所に行きたいです。大丈夫でしょうか?」

「かしこまりました。司空府には使いの者を出しておきます。今日中には行かれますよね?」

「はい」

と、こたえて、俺は足早あしばや宮城きゅうじょう北西側ほくせいがわ、フーチャオさんの避難場所に向かった。

村長むらおさといっても平民へいみんなので宮城に部屋はもらえないようだ。職業しょくぎょう選択せんたくの自由はあっても、身分差みぶんさ厳然げんぜんと存在する感じか。

移動中、避難されてる方たちがせ合う中から、時折ときおり、黄色い声が聞こえた。笑い声も明るい。

どうしたのかな? と、思って足を止めると、お裁縫さいほうが始まってた。女性が所々ところどころに集まってものをしている。

フーチャオさんが、スイランさんから布や糸を受け取って、みんなに配ってくれたんだろう。みんな、うれしそうで良かった。

「マレビト様ぁー!」

と、手をりながら満面まんめんみでけて来たのは、農家の娘だというクゥアイ。不意ふいちのような出会いで、ポンッと、風呂場で背中を流してくれてたクゥアイの姿が重なって見える。

嬉しそうな笑顔で無邪気むじゃきに駆けてくる年下女子に、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。……今、思い出しちゃってます。

……いきおがれるなぁ。ツイファさんは考えないように、頭のすみっこにいやる努力どりょくをしてたのに。

日の光にキラキラ輝く銀髪ぎんぱつを、みでまとめたクゥアイが、俺の目の前まで駆けて来た。農家の作業着さぎょうぎだろうか? ノースリーブにズボン。でも、ピタッとしたシルエットが、チャイナドレス風味。……け、健康美けんこうびってヤツですね。

「マレビト様! マレビト様なんですよね? 服にする布地ぬのじを下さったのって?」

という、クゥアイは心から嬉しそうな笑顔。喜んでもらえたら、なによりだ。

走って来てくれたせいか、あせかがやいてる。日本なら高1の16歳。青春っぽいに、ちょっとだけ息をむ。

「俺は頼んだだけだよ。宮城きゅうじょう備蓄びちくを出してもらったんだから」

うわ。俺、すごい先輩せんぱいヅラしてるなぁ。すぐ、流される。雰囲気に。まあ、でも、いいか。嬉しそうだし。

「それでもです! ありがとうございます! あんな立派りっぱな布地、初めてさわりました! スベスベです! みんな、本当に喜んでるんです」

そうか、貴族かお役人用の布地を備蓄してたのか。スイランさんとウンランさんのお陰で、気持ちよく渡してもらえて良かった。

「ウチのおばあちゃんもり切っちゃって、みんなの分、全部っちゃういきおいなんですよぉ!」

「そかそか。気分転換きぶんてんかんになったんなら、良かったよ」

「はい! 私もこれからお婆ちゃんに縫い物を教えてもらんです! ありがとうございました!」

と、深々と頭を下げたクゥアイは、はずむように駆けて、元いた女性たちのもどって行った。喜びいっぱいって感じの後ろ姿に……、やっぱり、重ねてしまう。

自分の頭をポカポカ叩いて、ツイファさんをおどろかせてから、フーチャオさんの所に急いだ。

思い出しトラップが多い……。
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