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25.解き放たれるワード

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「マレビト様よぉ! もう、何人とヤッたんだぁ?」

と、下卑げびた笑いを投げつけられた。最終城壁と宮城きゅうじょうの間。北側の辺りに、避難ひなんしてきた住民が身を寄せ合ってる。有り合わせで作ったのであろう、粗末そまつな屋根だけの避難場所。

やからのような風体ふうていの男たちが、足を投げ出してこっちを見てニタニタ笑ってる。

会議の後すぐに、城の中を見て回ることにすると、護衛ごえい衛士えいしのメイユイさんという女子が付いて来てくれた。うん。いた。朝の大浴場にいた。

緋色ひいろの髪で、少し赤みがかった瞳……。その他、見覚えのあるところは服と装甲そうこうに隠れてますが、いましたね、メイユイさん。

赤面する前に目をそむけたので、俺が思い出してしまってることは気付かれなかったと思う。思いたい。

そのメイユイさんと一緒に、宮城きゅうじょうから南に出て、東の方から北側に回るや男たちに絡まれた。なんと言い返すべきか、無視するべきなのか、一瞬、躊躇ためらっていると、メイユイさんがツカツカツカと男たちに詰め寄った。

「お前たち!」

「なんだい? 衛士さん」

「マレビト様はなぁ!」

あ、これダメなやつ……。けど、める間もなくメイユイさんは声をり上げた。

「長年思い続けた幼馴染にフラれたばっかりなんだ!」

周囲に沢山たくさんいる避難民ひなんみんの皆さんが、一斉いっせいに俺の方を見た。生温なまあたたかい目で。

「今、そういうコトをされる気持ちには、とてもなれないんだ! 下品なことを言うなぁ!」

避難民の皆さんが、深くうなずいてる。帰りたい……。どこでもいいから、帰りたい……。

「それになぁ!」

いや、これ以上は……。

「マレビト様も純潔じゅんけつの身なんだ! 少しはさっしろぉ!」

お前がな、メイユイ。

やからの男たちはバツが悪そうに立ち上がり、俺に近寄ってくる。皆、少しほおを赤くしてる。

「悪かったな。マレビト様」

と、俺に視線を合せず、恥じらう素振そぶりで俺の肩をポンポンっと叩いた。やめて、その感じ。避難民ひなんみんの皆様も、腕組みしてうんうんうなずいてるし。

「大事にしてくれよな。……純潔」

そこでくさそうにされると、所在しょざいが無さすぎます。分かりませんかね? 男同士。

メイユイだけが一人、ふんすと鼻息が荒い。「言ってやりましたよ!」みたいな目で見てくるけど、違うからな。もう、呼び捨てだ、呼び捨て。

逃げるように早足で北西ほくせい側に向かう俺を、男たちは親指を立てて見送ってくる。なんという出だし。心、折れそう。会議でえらそうなこと言ってしまったのに。メイユイめ。

待ってくださいよぉ、とか言いながら追いかけてくる。知らん。

宮城の北西側に回り込むと、大きなが見えた。といっても最終城壁よりはちょっと低く、平屋ひらや建ての家の軒先のきさきくらいの高さ。

樹の立ってる方向から、パシッ! パシッ! という音が聞こえる。

――弓じゃん。

2人の女子が弓で樹を狙ってる。はなたれた矢が樹に一直線にさる。大きくて長い弓を手にする髪がピンク色の娘と、小ぶりの弓を手にする黒髪に水色の服を着てる娘。

……いた。いたわ、2人も。今朝の大浴場に。大きかった。2人とも。胸が。今も服しに大きなふくらみがれてる。

「あ! マレビト様ぁ! なにしてるんですかー?」

と、俺に気付いたピンク色の髪をした娘が駆け寄ってきて、俺の腕に抱きついてきた。腕に柔らかな感触が、むにゅんと……。風呂場で見た映像モノと、実際の感触が頭の中で合成されてしまう。

うまく振り解けなくて、とにかく目線をらすと、黒髪に水色の服の娘がペコリと頭を下げた。

「えっと……」

と、俺が言うとピンク髪の娘が、顔をのぞき込んできた。近い、近い。

「メイファンです。あっちは妹のミンユー。私はマレビト様と同い年タメの18歳だよ」

「そ、そうなんだ……」

腕にはギュッとやわらかなモノが押し付けられたままで、だんだん頭に血が昇ってくる。同い年の、おっぱい……。出来るだけ考えないようにしてたワードがはなたれて、頭から離れない。

身体の部位として『胸』って言ってるうちは、冷静でいられるような気がしてたんだけど、今、俺の腕に当たってるのは、違う。

おっぱい。

……です。確実に。

里佳のおっぱ……、胸。笑ってた里佳、プールで水着の里佳、夏場のリビングでタンクトップにショートパンツの里佳、中学まで野球部だった俺の応援に張り切ってチアリーダー姿で来てくれた里佳、グルグル思い出してしまう。……見てたな。俺、見てたわ。バレるんですよね? 見てたらバレるんですよね、里佳さん? なんにも言わなかったけど……。

「こら、メイファン。なんにでもき着くな。マレビト様が困ってるじゃないか」

メイユイ、いいこと言う。

はーいと、言ってメイファンが俺の腕を放した。息が詰まるかと思った……。

そんなことより、弓ですよ、弓。なんで、人獣じんじゅうとの戦闘に使ってないの――?
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