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14.一番の動揺に襲われる(2)

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「い、言いつたえによれば……、いずれ、マレビトとしての呪力じゅりょく顕現けんげんされるはずです」

それそれ――! それを聞きたかったんですよ! もっと詳しく!

「初代マレビト様は祖霊それいと、え、えんを結び、呪術の原型である巫祝ふしゅくの道をおひらきになりました。2代マレビト様は呪言じゅごん解明かいめいされ、巫祝ふしゅく体系的たいけいてきに整理し呪術に発展させました。3代マレビト様は呪紋じゅもんみ出され、呪符じゅふをおつくりになられました」

おお! 何百年単位だけど、マレビトが呪術のイノベーションを起こしてきたって訳か。なるほど、なるほど。

え? で、俺は……?

各代かくだいのマレビト様のひらかれた道は、それまででは考えられなかったものばかりと伝わります」

うん。イノベーション……。

「マレビト様も……」

と、なんか強い視線で俺を見てきた。おもいの強さだけじゃない、なにかおもりのざった視線。

「呪力が顕現したあかつきには、き、きっと、私どもでは思いもよらない、なにかを……」

おおう。今のところ、俺にも思いもよらないですけどね……。

シアユンさんが、俺が置かれた突然の境遇きょうぐうおもんぱかってくれてるのも分かる。ちょいちょい言葉にまってたし。要するに俺は『すがられたわら』の立場な訳だ。

結局、呪力が顕現するっていうのを、待つしかないのか。シアユンさんも朝の風呂で『どのようにさずかるかは分からない』って言ってたもんな……。色々、間に合うといいんだけど。

そのとき急に。ほんとに、急に。目の前のシアユンさんと、風呂でのシアユンさん、つまり全裸ぜんらのシアユンさんがかさなって見えた。

うぉぉ! 裸を知ってる女の人と一緒の空間に居るだなんて……! 

しかも、広くはない空間に2人きり!

ポンッと音がしたように、首から上がぜて赤面したのが自分でも分かる。異世界こっちに来て、一番動揺どうようしてるかもしれない。もっと色々あったのに。

絵に描いたようにあわって、視線が泳ぐ。シアユンさんが不思議そうな目で、こっちを見た。

あわてて視線を城壁に向けると、みどり髪のイーリンさんの大きくれる胸が目に飛び込んで来て、余計よけいに動揺してしまう。

どうしようもなくなって、遠くを見ると第2城壁を乗り越えてくる人獣じんじゅうの影が、うっすら見えた。さらに向こうでは、第3城壁も乗り越えてる。

これは、マジで際限さいげんがないな……。

「人獣って、正体不明なんですよね……?」

と、遠くの人獣の影をにらんだままシアユンさんにたずねたのは、人獣から目が離せなかったからじゃない。シアユンさんの方をまともに見れなかったのだ。

「はい……。王国の歴史上では記録がありませんし、これまで姿を見たことのある者もおりません」

災厄さいやくと言えば、これ以上の災厄は思い付かない。最初に襲われた住民は、暗闇の中、何が起きたのかも分からず、かれて、われて、死んでいったんだろう……。

深夜の土砂崩どしゃくずれや、深夜の津波。俺が遭遇そうぐうしてしまえば、なすすべがない。事前じぜんに知らなければ、事前に避難ひなんできなければ、ただまれるだけだろう……。理不尽りふじんおそわれるとは、こういうことだ。

それから、出来るだけシアユンさんの方を見ないようにしながら、夜明けまで戦闘を見守った。

剣士が2人犠牲ぎせいになっていた。城壁の外に、声も上げずに引きずり降ろされたらしい。

朝陽あさひは明るく照らすのに、気持ちは重い。俺に出来ることを、なにか――。
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