12 / 297
12.最終城壁での戦闘(2)
しおりを挟む
篝火に照らされた剣士たちは、城壁の外側の縁から少し下がって剣を構えている。
なるほど。よじ登ってくる人獣を城壁上で迎え撃つのね。地面に降りて平場で闘うより、闘う相手が絞られる。
けど、乗り越えられたらアウトだ。城の中にも被害が出る。と、思って視線を下げると、城壁の下にも少数ながら剣士が配置されてる。
聞いてる話を総合する限り、最終決戦に近い。突破されたらアウト。きっと、この宮城にまで攻め込まれる。
……いや、俺に何が出来るかなんて分かりませんよ。でも。でもね。もう少し、早く呼んでもらっても良かったと思いますよ。下手したら、今晩中にやられちゃいますよ。
もちろん、召喚にリーファ姫の命が犠牲になってるのも分かる。ただ、昨夜見た人獣たちの獰猛さを思い返すに、とても城壁を守り切れる気が……。
その瞬間。城壁の向こう側から跳び上がるのが見えたのは、獅子型の人獣だった。
望楼から最終城壁まで、たぶん100mくらい。たてがみと、ムキムキ過ぎる胸板の迫力がビリビリと響いて俺のところまで届いてくるような錯覚に襲われた。
刹那。立ちはだかったオレンジ色の髪の毛をした小柄な剣士の長い剣が振り上げられるや、獅子型人獣の首が飛んでいた。
振り返りざま次の狼型人獣を斬り捨ててる。流れるような剣捌きで、次々に倒していく。
距離が離れてるので、何が起きてるか、なんとなく分かるけど、近くで見れば速過ぎて目が追い切れないはずだ。
同時に城壁の至るところに人獣たちが姿を現し、剣士たちとの戦闘が次々に発生している。
――剣士、強えぇぇ。
いや。人獣たちも尋常でない動きで襲い掛かってる。スピードも速いし、力も強い。けれども、剣士たちも負けてない。
――数か……。
剣士たちが斬っても斬っても、人獣たちは姿を現す。
斬り捨てた人獣の屍体は足場の邪魔にならないよう、次々に蹴り落としてる。あれだけでも、相当に体力を持っていかれるはずだ。
戦闘が始まって間なしだけど、もう剣士一人あたりで3体は斬ってるはず。320名中、300名が城壁に上がっているとして、約900体。それなのに、人獣たちは変わらないペースで現れ続ける。
始まって5分として、日没から日の出までを10時間と仮定すると、一晩で剣士一人あたり360体、剣士団全体で10万8千体を斬るペースだ。
――10万て。
大学受験を終えたばかりで計算スピードが上がってる。なんて、呑気なことも頭をよぎったけど、10万という数字のインパクトの方が大きい。一晩で10万だ。仮にこの12日間、毎晩同じペースだったとすると、既に120万の人獣を倒している。
なのに城壁を2つ突破されて、最終城壁に押し込まれていることを考えると、全体でどれだけの数の人獣に囲まれているのか想像もつかない。
しかも、城壁の向こう側には篝火の光は届いてないはず。剣士たちから見れば、暗闇の中から次々に人獣が飛び出してくる状態。そうとうな緊張を強いられながら斬り続けてる。
えっ? これ、10時間も続くの……?
観てるだけの俺の緊張も半端ない。手の平にイヤな汗が出る。いや、全身がジワリと汗ばんできた。
俺に何が出来るのか、何を求められてるのか、まだ全然分からないけど、せめて、しっかり観察くらいはしないといけない。
「マレビト様……」
という、シアユンさんの声で我に返った。
「はい」
「気を張り詰めると続きません。お茶を淹れましたので、良かったら」
「ありがとうございます」
受け取ったお茶を一気に飲み干すと、喉がカラカラになってたことが分かった。
えらいところに呼ばれたという、俺の側の事情はともかく、命を賭してでも召喚に及んだリーファ姫の事情はよく分かった。
打つ手がない――。
なるほど。よじ登ってくる人獣を城壁上で迎え撃つのね。地面に降りて平場で闘うより、闘う相手が絞られる。
けど、乗り越えられたらアウトだ。城の中にも被害が出る。と、思って視線を下げると、城壁の下にも少数ながら剣士が配置されてる。
聞いてる話を総合する限り、最終決戦に近い。突破されたらアウト。きっと、この宮城にまで攻め込まれる。
……いや、俺に何が出来るかなんて分かりませんよ。でも。でもね。もう少し、早く呼んでもらっても良かったと思いますよ。下手したら、今晩中にやられちゃいますよ。
もちろん、召喚にリーファ姫の命が犠牲になってるのも分かる。ただ、昨夜見た人獣たちの獰猛さを思い返すに、とても城壁を守り切れる気が……。
その瞬間。城壁の向こう側から跳び上がるのが見えたのは、獅子型の人獣だった。
望楼から最終城壁まで、たぶん100mくらい。たてがみと、ムキムキ過ぎる胸板の迫力がビリビリと響いて俺のところまで届いてくるような錯覚に襲われた。
刹那。立ちはだかったオレンジ色の髪の毛をした小柄な剣士の長い剣が振り上げられるや、獅子型人獣の首が飛んでいた。
振り返りざま次の狼型人獣を斬り捨ててる。流れるような剣捌きで、次々に倒していく。
距離が離れてるので、何が起きてるか、なんとなく分かるけど、近くで見れば速過ぎて目が追い切れないはずだ。
同時に城壁の至るところに人獣たちが姿を現し、剣士たちとの戦闘が次々に発生している。
――剣士、強えぇぇ。
いや。人獣たちも尋常でない動きで襲い掛かってる。スピードも速いし、力も強い。けれども、剣士たちも負けてない。
――数か……。
剣士たちが斬っても斬っても、人獣たちは姿を現す。
斬り捨てた人獣の屍体は足場の邪魔にならないよう、次々に蹴り落としてる。あれだけでも、相当に体力を持っていかれるはずだ。
戦闘が始まって間なしだけど、もう剣士一人あたりで3体は斬ってるはず。320名中、300名が城壁に上がっているとして、約900体。それなのに、人獣たちは変わらないペースで現れ続ける。
始まって5分として、日没から日の出までを10時間と仮定すると、一晩で剣士一人あたり360体、剣士団全体で10万8千体を斬るペースだ。
――10万て。
大学受験を終えたばかりで計算スピードが上がってる。なんて、呑気なことも頭をよぎったけど、10万という数字のインパクトの方が大きい。一晩で10万だ。仮にこの12日間、毎晩同じペースだったとすると、既に120万の人獣を倒している。
なのに城壁を2つ突破されて、最終城壁に押し込まれていることを考えると、全体でどれだけの数の人獣に囲まれているのか想像もつかない。
しかも、城壁の向こう側には篝火の光は届いてないはず。剣士たちから見れば、暗闇の中から次々に人獣が飛び出してくる状態。そうとうな緊張を強いられながら斬り続けてる。
えっ? これ、10時間も続くの……?
観てるだけの俺の緊張も半端ない。手の平にイヤな汗が出る。いや、全身がジワリと汗ばんできた。
俺に何が出来るのか、何を求められてるのか、まだ全然分からないけど、せめて、しっかり観察くらいはしないといけない。
「マレビト様……」
という、シアユンさんの声で我に返った。
「はい」
「気を張り詰めると続きません。お茶を淹れましたので、良かったら」
「ありがとうございます」
受け取ったお茶を一気に飲み干すと、喉がカラカラになってたことが分かった。
えらいところに呼ばれたという、俺の側の事情はともかく、命を賭してでも召喚に及んだリーファ姫の事情はよく分かった。
打つ手がない――。
4
お気に入りに追加
553
あなたにおすすめの小説
クラスで一人だけ男子な僕のズボンが盗まれたので仕方無くチ○ポ丸出しで居たら何故か女子がたくさん集まって来た
pelonsan
恋愛
ここは私立嵐爛学校(しりつらんらんがっこう)、略して乱交、もとい嵐校(らんこう) ━━。
僕の名前は 竿乃 玉之介(さおの たまのすけ)。
昨日この嵐校に転校してきた至極普通の二年生。
去年まで女子校だったらしくクラスメイトが女子ばかりで不安だったんだけど、皆優しく迎えてくれて ほっとしていた矢先の翌日……
※表紙画像は自由使用可能なAI画像生成サイトで制作したものを加工しました。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える
ジャック
ファンタジー
私立三界高校2年3組において司馬は孤立する。このクラスにおいて王角龍騎というリーダーシップのあるイケメンと学園2大美女と呼ばれる住野桜と清水桃花が居るクラスであった。司馬に唯一話しかけるのが桜であり、クラスはそれを疎ましく思っていた。そんなある日クラスが異世界のラクル帝国へ転生してしまう。勇者、賢者、聖女、剣聖、など強い職業がクラスで選ばれる中司馬は無であり、属性も無であった。1人弱い中帝国で過ごす。そんなある日、八大ダンジョンと呼ばれるラギルダンジョンに挑む。そこで、帝国となかまに裏切りを受け─
これは、全てに絶望したこの世界で唯一の「無」職の少年がどん底からはい上がり、世界を変えるまでの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
カクヨム様、小説家になろう様にも連載させてもらっています。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる