上 下
7 / 297

7.頑張ってる人には弱い(1)

しおりを挟む
シアユンさんに案内してもらった、本来は王族専用だという大浴場は広くて白くてキレイだった。

人獣じんじゅうたちが夜毎よごと襲撃しゅうげきしてくるので、城内の生活は昼夜ちゅうや逆転している。今のうちに休むようにと言われて、風呂をすすめられた。

シアユンさんは俺の話をベッドの上でとても真剣に聞いてくれて、最終的に涙をこぼされた。

幼馴染にフラれただけでもダメージ大きいのに、その話で泣かれると、わかってもらえた安堵あんどより、正体不明のダメージの方がズシッときた。

――そうかぁ。共感されて泣かれるような話なのかぁ。

と、溜息ためいきのひとつもきたくなる。

その後で、俺を大浴場へ案内して廊下ろうかを歩くシアユンさんはりんとしてて、スレンダーな立ち姿がスラリと美しくて、才女さいじょとか才媛さいえんって言葉がピッタリくるようなお姉さんに戻ってた。あれが、本来の姿なんだろう。

渡された手拭てぬぐいに、ペースト状の石鹸せっけんを泡立てて体を洗う。経験のない肌触はだざわりでちょっと違和感いわかんがあるけど、泡立ちは申し分ない。

第2城壁から逃げるとき、青髪のリーファ姫をかかえて走った道は舗装ほそうされてなくて、雨でぬかるんでて泥だらけになってたし、汗もかいてた。流せばスッキリする。

絶体絶命のお城なのに、随分ずいぶんと静かで呑気のんきな時間が流れる。広い浴槽よくそうから上がる湯煙ゆけむりに、朝陽あさひの光線が差し込んで浴場全体が白く明るい。

異世界こちら的には朝風呂だけど、俺の体内時計たいないどけいである日本時間では13時半頃のはず。ねむれる気がしない。時差じさボケに悩む異世界召喚ばなしとか聞いたことない。俺が知らないだけだろうか。

とか、必死で関係ない話を考え続けるんだけど、油断すると体を洗う手が止まってて、里佳のことを考えてる。

フラれて推定すいてい2時間。まあ。しょうがないよな。

年上のお姉さん――シアユンさん――に話を聞いてもらって、少しはスッとするんじゃないかなんて期待したけど、今のところそんな気配はない。しっかりへこんでる。

異世界召喚って大事件が起きても気持ちが上書きされてない。どれだけ里佳のこと好きだったんだよ、俺。

「はぁ……」

と、何度目か分からない溜息を吐いたとき、背後からスルスルスルと音がした。

――スルスルスル?

振り返ると、大浴場の入口が開いてて、一糸いっしまとわぬ姿すがたのシアユンさんが立ってる。やっぱり、顔は真っ赤だ。

――だからぁ! なんで無理するかな? ほんとは、そんなキャラじゃないんでしょ!?

入口の戸を閉めたシアユンさんが、どう反応していいか分からずあわてる俺の前にオズオズと近寄って、ひざを付いた。せめて、前をかくしてほしい。目が泳いでしまうけど、なんとか声をかけた。

「ど、どうされました……?」

「マ、マレビト様……。半分……。半分、シキタリを守らせていただけませんでしょうか……」

「は、半分……?」

「い、今のマレビト様のお気持ちでは、こ、子種こだねをおさずけいただくことが難しいことは、よく分かりました……」

「あ、はい……」

「せめて半分。『純潔じゅんけつ乙女おとめ身体からだささげる』という部分だけでも……」

なにを言ってるんだろう? この人は――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イク♡ イク♡ 体育ッ♂

宗形オリヴァー
BL
金髪チャラ男の金城は、大好きな体育教師の獅子王先生にエロアプローチする毎日。 そのせいでついに、先生からえっちな体育の補習を受けさせられることに…! ☆むっつり絶倫体育教師×なんちゃってチャラ男DK☆

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

オジサン好きなDCが村祭りの儀式に参加する話

ルシーアンナ
BL
同級生の父親や出会い系でパパ活してるビッチ受けDCが、田舎の伯父さんに夜這いされたり、村祭りの儀式姦されたりする話。 DC,未成年淫行,パパ活,伯父×甥,輪姦,乱交,儀式姦,メス堕ち,おねだり,雄膣姦,中出し,倫理観なし,薬物表現あり,淫語,♡喘ぎ,濁音喘ぎ

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

せっかく女の子に生まれ変わったんだから、僕はただ……お嬢さまを僕好みに育てるついでに愛でて撫で回して甘やかして楽しもうって思っただけなのに!

あずももも
ファンタジー
かつては男(年齢不詳、たぶん高校生以上)だったのと、ぼんやりと現代で生きていたっていうのしか覚えていない僕は、「リラ」っていう女の子として生まれ直してしまった。 それならまだしも、発育不良……この世界基準では10歳くらいにしか見てもらえない、いや見た目はかわいいけど、……でも、自分がかわいくたってしょうがないじゃない? そもそも自分だし。 ってことで僕自身のことは諦めて、この愛くるしい見た目を最大限に発揮して、手当たり次第女の子や女の人にセクハラもとい甘えるっていうのを謳歌していた僕、リラ。 だけど、あるできごとを境にジュリーさまっていう女神な天使さまに一途にするって決めたんだ。 だから僕は、お嬢さまにすべてを捧げ続ける。 これからも。 ☆ そんな、彼だった彼女なリラちゃんが、延々とジュリーちゃんに欲望を振りまき、やがてタイトルにあるようなことを叫んでのおしまいとなるだけのおはなしです。 この作品は、小説家になろう・ハーメルン・カクヨム・アルファポリス・ノベルアッププラスと節操なく同時連載です。 ☆ 2021年01月13日(水)完結致しました。

とてもとても残酷で無慈悲な婚約破棄

ねんごろ
恋愛
救いようがないです。

処理中です...