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最終話.見付けてくださいね
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置き去りにされた聖騎士団と聖女団は、
「ん……。まあ……帰るか…………」
と、帰路につき、突然《蘇生》させられて状況の分からない2万人ほどを道々回収しながら、王都に向かったらしい。
「なんと! 私が蘇ったのは聖女様のお陰なのか!?」
「あ……うん…………」
「それで、聖女様はいずこに!? 是非、お礼申し上げたい!!」
「逃げた……」
「は?」
「旦那と逃げた……」
「旦那?」
「なんか楽しそうで、止められなかった……」
「止められない……」
「自由だ! ……って」
「自由……」
「少年みたいな顔して」
「誰が?」
「団長が……」
「団長が……」
という、噛み合わない会話が、のべ2万回ほど繰り返されたらしい。
その頃、私とマルティン様は、グリュンバウワー領の北の果てで、大海原に昇る朝陽を見詰めていた。
そのマルティン様の美しい横顔を見るたびに思うのだ、
――あっぶねーっ! もう少しで、マルティン様といたすところだった……。
聖女は『聖処女』でもある。
処女でなければ、聖女の力は発現しない。
発現してしまえば、割と自由だ。
結婚して子どもを儲けた先輩聖女もいる。
ただ、あのままマルティン様といい感じになっちゃってたら、私に聖女の力は再発現せず、魔王は倒せなかった。
そして、あのポヨンポヨンの擬態が魔王の攻撃も弾いて、世界が終わっても魔王と魔物と私という、謎すぎる世界が始まっていたかもしれない。
そのことを思うたび、
――あっぶねー。
と、苦笑いしてしまうのだ。
勝手に新婚旅行を再開させた私たちは、野営しながらフェステトゥア王国の海岸線をグルリと旅している。
天幕では、ぎこちなく手を握り合って眠る。
もう焦ることはなにもない。ゆっくりと私たちの時間を積み重ね、いつか自然と結ばれたらいい。
もう、私がひとりぼっちになることは、ないのだから――。
*
途中、私たちを《探知》で探し出したエミリアさんがルイーゼを連れてやってきた。
「マルティン様、困りますね」
「まあ……」
「王都に凱旋したときの微妙な空気を、お2人にも味合わせてあげたかったですわ」
凱旋してきた聖騎士団に、団長も聖女も不在と分かったときの反応は、それはそれは複雑な笑顔だったらしい。
副長は生き返って、気まずそうに王都で出迎えてるし……。
「結局、私が率いるしかなくて、大変だったんですから」
「……苦労をかけたな、エミリア」
「まったくです! ほぼ何もしてないのに、歓声に手を挙げて応える気持ち分かります? 歓声もなんか生温い感じだったし。『お前じゃないんだけどなー』って観衆に『私じゃないんだろうなー』って手を振るんですよ?」
「エミリアも、何もしてないってことは……」
「最後いいところは全部、マルティン様と聖女様が持っていったじゃないですか!? 何もしてないのと同じです!」
プリプリしてるエミリアさんと、苦笑いしたままのマルティン様が話されてる横で、ポオッとした表情のルイーゼが私のことを見詰めていた。
「……アリエラ様、なのですよね?」
「そうなの」
「本当だったのですね……」
「うん……。本当の私はどう? キライにならない?」
「キライになんかなりません! 本当にお美しくてお美しくて……、胸のドキドキが止まりません!」
「もっと言って、もっと」
「え……?」
「だって、20年ぶりに他人の目に触れたんだもの。誉めてほしいじゃない?」
「あー」
「……残念な美人を見る目で見るのはやめて」
「ぷぷっ」
「ふふふ」
久しぶりにルイーゼと笑い合った。
見た目のまったく変わってしまった私にも、わだかまりなく接してくれる。
本当にルイーゼは無二の親友だ。
*
「ま……まあ……、アリエラちゃんが聖女だったのにはビックリしたけど、魔王も倒してくれたことだし……、ゆっくり新婚旅行楽しんでくれば? ……というのが、国王陛下からの伝言です」
ひと通り文句を言い終えたエミリアさんが、淡々と報告してくれた。
「王妃陛下からは……、アリエラちゃん! 帰ったら詳しい話を聞かせなさいよ? 根掘り葉掘り聞くからねーっ! ……とのことです」
王都の新聞では連日『聖女ゴリラの謎⁉ 本当は絶世の美女だった――⁉』特集が紙面を賑わしているらしい。
目撃した聖騎士たちの証言から描かれた想像画も載ったらしいけど、ルイーゼ曰くは「本物の方が断然お美しくてビックリしました!」とのことだった。
はっは。さすがに照れちゃうわね。
それから、海辺で夕陽を眺めながら、4人で食事をした。
「存分に楽しまれましたら、必ず王都にお戻りくださいね。そうしないと、アンドレアス殿に団長の座を奪われてしまいますよ」
「私は、それでもいいのだが……」
「もう! 冗談ですよ! ……アンドレアス殿も、首を長くしてお待ちなんですから」
翌朝、エミリアさんとルイーゼは王都に戻っていった。
アンドリー……。
顔見たら、私、泣いちゃうかも。
いや、泣いちゃうわね。
私の気持ちを察したのか、マルティン様がぎこちなく肩を抱いてくださった――。
*
旅を続けながら、マルティン様と話し合って禁忌魔法《回帰》を用いたことは、伏せることにした。
「でも、少し気になります。私はどんな風だったのですか?」
「私と結婚したことを除けば、ちっとも変わりませんでしたよ。無愛想で女嫌いで……」
「はははっ。それは変わりませんね」
マルティン様は私と結婚してから、よく笑うようになられた。
最初の人生では見たことのない表情を、たくさん見せてもらった。そのたびに胸がキュンとなる。
――自分が別の人生を歩んでいたら?
という話は、誰しも興味をそそられるものだろう。
けれど、私以外の全人類にとって、今生きているこの人生だけが、"本当の人生"で、"本当の私"だ。
たとえば、妹のアンナ。
聖女の姉が自慢で天真爛漫に育ち、愛する人と巡り合い、幸せに結婚したところで魔王に蹂躙されて人生終了――と、
見た目がゴリラの姉に気を遣いながら、困窮に耐え厳しい聖女修行で惨めな思いもしたけど、すべてから解放され、これから先は自由――。
どちらにしても、懸命に自分の人生を生きている。
結局のところ、今の人生を必死に生きて、謳歌するほかないのだ。
"本当の私"は、ここにしかいない。
私にとっても同じことだ。
そして、鏡に映る私よりも、マルティン様の目に映る私の方が、よっぽど"本当の私"らしいと思えるのだ。
見られたいように見られる権利はあるけど、見られたいように見てくれる人には巡り合わないといけない。
「もっと、私を見付けてくださいね」
朝陽に照らされたマルティン様は不思議そうな顔をして、それから優しく微笑んでくださった。
― 完 ―
「ん……。まあ……帰るか…………」
と、帰路につき、突然《蘇生》させられて状況の分からない2万人ほどを道々回収しながら、王都に向かったらしい。
「なんと! 私が蘇ったのは聖女様のお陰なのか!?」
「あ……うん…………」
「それで、聖女様はいずこに!? 是非、お礼申し上げたい!!」
「逃げた……」
「は?」
「旦那と逃げた……」
「旦那?」
「なんか楽しそうで、止められなかった……」
「止められない……」
「自由だ! ……って」
「自由……」
「少年みたいな顔して」
「誰が?」
「団長が……」
「団長が……」
という、噛み合わない会話が、のべ2万回ほど繰り返されたらしい。
その頃、私とマルティン様は、グリュンバウワー領の北の果てで、大海原に昇る朝陽を見詰めていた。
そのマルティン様の美しい横顔を見るたびに思うのだ、
――あっぶねーっ! もう少しで、マルティン様といたすところだった……。
聖女は『聖処女』でもある。
処女でなければ、聖女の力は発現しない。
発現してしまえば、割と自由だ。
結婚して子どもを儲けた先輩聖女もいる。
ただ、あのままマルティン様といい感じになっちゃってたら、私に聖女の力は再発現せず、魔王は倒せなかった。
そして、あのポヨンポヨンの擬態が魔王の攻撃も弾いて、世界が終わっても魔王と魔物と私という、謎すぎる世界が始まっていたかもしれない。
そのことを思うたび、
――あっぶねー。
と、苦笑いしてしまうのだ。
勝手に新婚旅行を再開させた私たちは、野営しながらフェステトゥア王国の海岸線をグルリと旅している。
天幕では、ぎこちなく手を握り合って眠る。
もう焦ることはなにもない。ゆっくりと私たちの時間を積み重ね、いつか自然と結ばれたらいい。
もう、私がひとりぼっちになることは、ないのだから――。
*
途中、私たちを《探知》で探し出したエミリアさんがルイーゼを連れてやってきた。
「マルティン様、困りますね」
「まあ……」
「王都に凱旋したときの微妙な空気を、お2人にも味合わせてあげたかったですわ」
凱旋してきた聖騎士団に、団長も聖女も不在と分かったときの反応は、それはそれは複雑な笑顔だったらしい。
副長は生き返って、気まずそうに王都で出迎えてるし……。
「結局、私が率いるしかなくて、大変だったんですから」
「……苦労をかけたな、エミリア」
「まったくです! ほぼ何もしてないのに、歓声に手を挙げて応える気持ち分かります? 歓声もなんか生温い感じだったし。『お前じゃないんだけどなー』って観衆に『私じゃないんだろうなー』って手を振るんですよ?」
「エミリアも、何もしてないってことは……」
「最後いいところは全部、マルティン様と聖女様が持っていったじゃないですか!? 何もしてないのと同じです!」
プリプリしてるエミリアさんと、苦笑いしたままのマルティン様が話されてる横で、ポオッとした表情のルイーゼが私のことを見詰めていた。
「……アリエラ様、なのですよね?」
「そうなの」
「本当だったのですね……」
「うん……。本当の私はどう? キライにならない?」
「キライになんかなりません! 本当にお美しくてお美しくて……、胸のドキドキが止まりません!」
「もっと言って、もっと」
「え……?」
「だって、20年ぶりに他人の目に触れたんだもの。誉めてほしいじゃない?」
「あー」
「……残念な美人を見る目で見るのはやめて」
「ぷぷっ」
「ふふふ」
久しぶりにルイーゼと笑い合った。
見た目のまったく変わってしまった私にも、わだかまりなく接してくれる。
本当にルイーゼは無二の親友だ。
*
「ま……まあ……、アリエラちゃんが聖女だったのにはビックリしたけど、魔王も倒してくれたことだし……、ゆっくり新婚旅行楽しんでくれば? ……というのが、国王陛下からの伝言です」
ひと通り文句を言い終えたエミリアさんが、淡々と報告してくれた。
「王妃陛下からは……、アリエラちゃん! 帰ったら詳しい話を聞かせなさいよ? 根掘り葉掘り聞くからねーっ! ……とのことです」
王都の新聞では連日『聖女ゴリラの謎⁉ 本当は絶世の美女だった――⁉』特集が紙面を賑わしているらしい。
目撃した聖騎士たちの証言から描かれた想像画も載ったらしいけど、ルイーゼ曰くは「本物の方が断然お美しくてビックリしました!」とのことだった。
はっは。さすがに照れちゃうわね。
それから、海辺で夕陽を眺めながら、4人で食事をした。
「存分に楽しまれましたら、必ず王都にお戻りくださいね。そうしないと、アンドレアス殿に団長の座を奪われてしまいますよ」
「私は、それでもいいのだが……」
「もう! 冗談ですよ! ……アンドレアス殿も、首を長くしてお待ちなんですから」
翌朝、エミリアさんとルイーゼは王都に戻っていった。
アンドリー……。
顔見たら、私、泣いちゃうかも。
いや、泣いちゃうわね。
私の気持ちを察したのか、マルティン様がぎこちなく肩を抱いてくださった――。
*
旅を続けながら、マルティン様と話し合って禁忌魔法《回帰》を用いたことは、伏せることにした。
「でも、少し気になります。私はどんな風だったのですか?」
「私と結婚したことを除けば、ちっとも変わりませんでしたよ。無愛想で女嫌いで……」
「はははっ。それは変わりませんね」
マルティン様は私と結婚してから、よく笑うようになられた。
最初の人生では見たことのない表情を、たくさん見せてもらった。そのたびに胸がキュンとなる。
――自分が別の人生を歩んでいたら?
という話は、誰しも興味をそそられるものだろう。
けれど、私以外の全人類にとって、今生きているこの人生だけが、"本当の人生"で、"本当の私"だ。
たとえば、妹のアンナ。
聖女の姉が自慢で天真爛漫に育ち、愛する人と巡り合い、幸せに結婚したところで魔王に蹂躙されて人生終了――と、
見た目がゴリラの姉に気を遣いながら、困窮に耐え厳しい聖女修行で惨めな思いもしたけど、すべてから解放され、これから先は自由――。
どちらにしても、懸命に自分の人生を生きている。
結局のところ、今の人生を必死に生きて、謳歌するほかないのだ。
"本当の私"は、ここにしかいない。
私にとっても同じことだ。
そして、鏡に映る私よりも、マルティン様の目に映る私の方が、よっぽど"本当の私"らしいと思えるのだ。
見られたいように見られる権利はあるけど、見られたいように見てくれる人には巡り合わないといけない。
「もっと、私を見付けてくださいね」
朝陽に照らされたマルティン様は不思議そうな顔をして、それから優しく微笑んでくださった。
― 完 ―
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番外編などは、ふんわりと構想中で上手くまとまったら投稿させていただこうと企んでおりますm(_ _)m
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ありがとうございました!