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21.新婚旅行で宣言(2)
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でもいつか、私がマルティン様を傷付けることはないのだと、心にも身体にも受け入れてもらえたなら――。
なんて考えていたら、
「きゃっ」
と、自分でも驚く、可愛い声を出してしまった。
「あ……、失礼」
「いえ…………、こちらこそ」
上半身裸のマルティン様に、廊下でバッタリ出くわし、赤面してしまったのだ。
剣術の稽古でかいた汗を流していたのだろう。そのまま、ご自分の部屋に戻られた。
――やっぱり、な、生で見るのは違いますねぇ……。
そう、私だってマルティン様のことを言えたものではなかったのだ。
男性の裸なんか、見たことなかったし……。
恋愛経験、皆無。
そもそも、対象になるような男性自体が側にいなかった。
初心で奥手――な、自分に初めて気が付いた。自分でも知らない私がまだ隠れていた。"本当の私"とは奥深いものだ。
部屋の鏡に映る自分の頬をペチペチ叩いて、気持ちを立て直す。
そして、新婚旅行というよりは合宿のように、2人で夕飯をつくり、夕陽が見える海辺の崖に運ぶ。集落に到着してから、毎晩の日課になっている。
だけど、いつものようには、マルティン様の方を見られず、夕陽で顔を真っ赤に照らされながら水平線を眺めた。
海から目を離さない私を、黙ってじっと見守って下さるマルティン様。
口を開けたら変なことを言ってしまいそうで、波の音だけで過ぎていく時間がありがたかった。
けれど、夕陽が海に溶け込んでしまう寸前、水平線に目を細めたままのマルティン様が口を開いた。
「子どもをつくりたいと……、考えています」
「こ!? ……子ども?」
「アリエラが、イヤでなければですが」
「イ、イヤでは……ありません……」
「今さら隠すことも出来ませんが……、ご存知の通り、私が今のままでは、とうてい叶わない……」
「はい……」
「けれど、子どもが出来れば、アリエラを1人にしないでおける」
「出兵中のことを心配してくださっているのでしたら、私、平気ですのよ?」
「それもそうですが……。出兵すれば、生きて帰れる保証はありません。常に危険に晒されているのが聖騎士であり、戦場というものなのです」
「そんなこと……」
「もし、私が死んでしまったら、アリエラをまた1人にしてしまう。なにより、その美しい姿を見られる者が、この世に1人もいなくなってしまう……。また分厚い擬態の中で、ひとりぼっちにしてしまう。それを考えると、……とてもツラい」
夜のとばりが降り始め、手元のランプが陰影をつくり始めたマルティン様のお顔は美しく、そして憂いに満ちていた。
私たちは愛してると言ったことも、言われたこともない。
言葉にしてしまえば、マルティン様の中で眠る、深く傷付いた少年が目を覚ますのではないかと、慎重に丁寧に避けてきた。
――お互いを労わり合い、励まし合う家庭を築きましょう。
という私たちが最初に交わした契約は、まだ有効だった。
そして、私の境遇と心情を思い遣るマルティン様が出した答えが――、子づくりだったのだ。
それは間違いなく、マルティン様にとって大きすぎる壁を乗り越えないと果たせないことであるのに。私のためを思って考え、決意し、言葉にしてくれたのだ。
胸が張り裂けてしまうのではないかと思うほどに満たされた私は、マルティン様の手をそっと握った。
……って、ガチガチだな!
うん。気持ちは、とても嬉しい。私も応えたい。私も協力します。初心で奥手な私ですけど、好奇心だけは誰にも負けません。頑張っちゃおう。
だから、焦らず――、
「ゆっくり進みましょう。私たちらしく」
「そうしていただけると、……助かる」
無数に輝く星空の下、マルティン様はぎこちなく私の手を握り返してくれた。
こうして、私たちの『女嫌い克服大作戦』は『子づくり大作戦』へと進化したのだ。
課題山積ではあるのだけど、――楽しみっ!
なんて考えていたら、
「きゃっ」
と、自分でも驚く、可愛い声を出してしまった。
「あ……、失礼」
「いえ…………、こちらこそ」
上半身裸のマルティン様に、廊下でバッタリ出くわし、赤面してしまったのだ。
剣術の稽古でかいた汗を流していたのだろう。そのまま、ご自分の部屋に戻られた。
――やっぱり、な、生で見るのは違いますねぇ……。
そう、私だってマルティン様のことを言えたものではなかったのだ。
男性の裸なんか、見たことなかったし……。
恋愛経験、皆無。
そもそも、対象になるような男性自体が側にいなかった。
初心で奥手――な、自分に初めて気が付いた。自分でも知らない私がまだ隠れていた。"本当の私"とは奥深いものだ。
部屋の鏡に映る自分の頬をペチペチ叩いて、気持ちを立て直す。
そして、新婚旅行というよりは合宿のように、2人で夕飯をつくり、夕陽が見える海辺の崖に運ぶ。集落に到着してから、毎晩の日課になっている。
だけど、いつものようには、マルティン様の方を見られず、夕陽で顔を真っ赤に照らされながら水平線を眺めた。
海から目を離さない私を、黙ってじっと見守って下さるマルティン様。
口を開けたら変なことを言ってしまいそうで、波の音だけで過ぎていく時間がありがたかった。
けれど、夕陽が海に溶け込んでしまう寸前、水平線に目を細めたままのマルティン様が口を開いた。
「子どもをつくりたいと……、考えています」
「こ!? ……子ども?」
「アリエラが、イヤでなければですが」
「イ、イヤでは……ありません……」
「今さら隠すことも出来ませんが……、ご存知の通り、私が今のままでは、とうてい叶わない……」
「はい……」
「けれど、子どもが出来れば、アリエラを1人にしないでおける」
「出兵中のことを心配してくださっているのでしたら、私、平気ですのよ?」
「それもそうですが……。出兵すれば、生きて帰れる保証はありません。常に危険に晒されているのが聖騎士であり、戦場というものなのです」
「そんなこと……」
「もし、私が死んでしまったら、アリエラをまた1人にしてしまう。なにより、その美しい姿を見られる者が、この世に1人もいなくなってしまう……。また分厚い擬態の中で、ひとりぼっちにしてしまう。それを考えると、……とてもツラい」
夜のとばりが降り始め、手元のランプが陰影をつくり始めたマルティン様のお顔は美しく、そして憂いに満ちていた。
私たちは愛してると言ったことも、言われたこともない。
言葉にしてしまえば、マルティン様の中で眠る、深く傷付いた少年が目を覚ますのではないかと、慎重に丁寧に避けてきた。
――お互いを労わり合い、励まし合う家庭を築きましょう。
という私たちが最初に交わした契約は、まだ有効だった。
そして、私の境遇と心情を思い遣るマルティン様が出した答えが――、子づくりだったのだ。
それは間違いなく、マルティン様にとって大きすぎる壁を乗り越えないと果たせないことであるのに。私のためを思って考え、決意し、言葉にしてくれたのだ。
胸が張り裂けてしまうのではないかと思うほどに満たされた私は、マルティン様の手をそっと握った。
……って、ガチガチだな!
うん。気持ちは、とても嬉しい。私も応えたい。私も協力します。初心で奥手な私ですけど、好奇心だけは誰にも負けません。頑張っちゃおう。
だから、焦らず――、
「ゆっくり進みましょう。私たちらしく」
「そうしていただけると、……助かる」
無数に輝く星空の下、マルティン様はぎこちなく私の手を握り返してくれた。
こうして、私たちの『女嫌い克服大作戦』は『子づくり大作戦』へと進化したのだ。
課題山積ではあるのだけど、――楽しみっ!
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