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第八章 旧都邂逅

171.殿下命令です

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 激しい剣戟の音がする方にチーナが駆け付けると、馬賊と思しき者たちとネビ、ジョルジュが戦っている。

 ただちに弓で援護するが、馬賊の数が多く劣勢である。

 アイラも駆け付け、矢を放ち始めたのを見て、チーナも剣を抜く。カリュも短剣を両手に抜いて、ジョルジュの援護に向かう。

 遅れて到着したアイカはとして、アイラに前を塞がれた。しかし、いざという時の覚悟として、眼鏡の母が遺した小刀を抜いた。

 その時、ネビと激しく刃を交わす女馬賊が素っ頓狂な声をあげた。


「あれ? おまえ、アイラかい?」


 アイラは狙いを定めていた手を緩めた。


「おっ――――、お母さん!?」

「あんた、こんなとこで何やってんだい?」


 と言う、女馬賊が剣を振るう手は止まらない。百騎兵長のネビも馬上から撃ち下ろされる剣に防戦一方である。


「お、お母さんこそ、なにやってるのよ!?」


 ――お母さん?


 と、その場にいた全員が思っていたが、襲い来る刃を躱して反撃するのに必死だった。


「いや、こいつらが賊だって決め付けてくるからさ。違うって言ってるのに」

「違うもなにも、一方的に斬りかかって来ておいて何を言う!」


 ネビが声を張り上げた。

 それに女馬賊が険しい声で応える。


「待ち伏せなんかしやがって。挟み討ちにするつもりだったんだろうけど、そうはいかないよ!」

「な、なにを!?」


 聞く耳を持たない女馬賊は、剣を振り続ける。


「アイラ」

「お母さん……」


 アイラは母に剣を止めろと言うのも忘れて呆然としていた。

 ミトクリア制圧の際、アイラが幼い頃に母と別れたことを聞かされていたアイカも、思わず顔を見上げた。


「アイラ、あんたは《王の曾孫》なんだから、内親王位にある私と違って王家に籍はないんだ。こんなとこで何してたのか知らないけど、自由に生きなよ!」

「…………は?」


 アイカはフェトクリシスで、廃太子アレクセイから、アイラが孫であると聞かされていた。

 また、親王・内親王位が王の孫までしか許されないテノリア王家では、王の曾孫は王族ではなくなる。それに抗おうと王弟カリストスが手練手管を駆使していた。

 ただ、アイラはすべてが初耳であった。

 アイカも急な展開に、何と説明してあげればいいか分からない。というか、女馬賊……内親王も剣の手を緩めない。

 そこに、森の奥から馬賊の仲間が増援に来る。


「ルクシア殿! ダメだ、後ろも押されてる! あいつら聞く耳、持たない!」


 そう女馬賊に叫んだ筋骨隆々の馬賊が、チーナを見て驚きの声を上げる。


「チーナ!?」

「ア、アーロン殿!?」


 その後ろを駆けていた馬賊からも、悲鳴のような驚きの声があがった。


「カリュ!!」

「お父様!?」


 頭を抱えたくなったアイカを、どこかで聞き覚えのある声が呼んだ。


「よう、チビッ娘! やっぱり、お前だったか!?」


 顔を上げると、見覚えのある顔だった。

 黒髪で飄々とした雰囲気の……。


「あ――っ! あの時のニイチャン!」

「ニイチャンとはご挨拶だな。これでもザノクリフ王国公子なんだぜ? まあいい、話は《山々の民》の聖地を荒らす賊を成敗してからだ」


 と、馬賊に斬りかかる男は、総候参朝の折、アイカに「チビだな」と言い放った聘問使クリストフであった。

 ルクシアと呼ばれた女馬賊内親王が応戦する。


「だから違うって言ってるだろう!?」

「うるさい。聖地《精霊の泉》を馬蹄で荒らすなど、言語道断。いずれにしても斬り捨てるまで」

「あんたらも馬に乗ってるじゃないか?」

「我らは聖地を守護するザノクリフ王家の者だ。どこの馬の骨とも分からぬ貴様らと一緒にするな」

「こっちだって、テノリア王家の内親王に、その娘もいるんだよ!」

「なにい!?」


 その時、アイカがパンパンパンと、手を打った。


「はい、はーい――っ! ちゅうも――っく!」


 皆の手が止まる。


「情報が渋滞しすぎで――っす! 全員、武器をしまって集合――っ!」


 皆、互いに顔を見合わせる。

 渋滞しすぎとは、的確な表現だった。


「殿下命令で――っす! はい、しゅうご――っ!」


 桃色髪の少女が、なぜ自分のことを「殿下」と言うのか、馬賊たちは怪訝な表情を浮かべつつ剣を鞘にしまった。

 しかし、クリストフは軽く驚きの表情を浮かべた後、率いる部下たちと視線を交わし小さく頷き合った――。
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