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第三章 総候参朝
68.実在限界 *アイカ視点
しおりを挟む――今も愛らしいのです!
と、第2王子のステファノスさんが力説してた、妹のウラニアさん。
西南伯ヴール候のお昼間の宴にご招待されて、間近でご尊顔を拝したら、マジ美魔女。
ロリババア寄りの美魔女。
いや、ロリババアの実在限界っ!
隣に並ぶ孫のロマナさんと姉妹って言われても信じてしまうわーっ。
仕草のひとつひとつが可愛らしい。
しかも、淑女の要素もある。
王太子妃のエカテリニさんもロリババア寄りだったけど、こっちは真正。真正ロリババア。
――くぁ――。もう、妖怪でもいいな。
リティアさんが最初に臨席する宴は、主祭神の『狩猟神パイパル』を祀るヴールの神殿にお呼ばれ。
王家の大神殿とは比較にならないけど、神殿群の中では一番規模が大きい。
神殿街に立ち並ぶ列候領の神殿は、累代の神像を祀ると同時に、列侯の王都屋敷の役割もある。
それにしても、豪勢なお料理をいただくのに、お箸を珍しがって受け入れてくれて、内心胸をなで下ろした。
ロザリーさん、サラナさん、カリュさんに、いい報告できそうで良かった。
皆さん高貴な笑顔でお料理をいただいてるし、たぶん、誰の顔も潰さなかったよね?
と、ウラニアさんの夫で、西南伯ヴール候のベスミクさんが口を開いた。
「今年は、まがりなりにも3聘問使が揃って良かったですな」
黒々とした長髪に白髪の横髪が鋭く光ってる59歳。好物だというオリーブのピクルスを美味しそうに頬張ってる。
「聘問使が揃うのは、いつ以来になりますかな?」
テノリア王国と国境を接する3つの国と都市からは『総候参朝』に聘問使が送られる習わし。
北のザノクリフ王国、西のリーヤボルク王国からは、共に内戦のせいで中断していたらしい。
リティアさんが口元を拭いたナプキンを置いて応えた。
「とはいえ、リーヤボルクの聘問使は隊商のマエルが代行。西域が落ち着くのには、まだ時間が必要そうですね」
マエルというのは、昨日、祝祭の開幕に大神殿で開かれた祭典で、ルーファの大首長セミールさんと一緒に壇上に並んでた長い髭で恰幅のいいお爺さん。
――ぶさいくさんを使って、ラウラさんを連れ去ろうとしてた人だよね?
踊り巫女のラウラさんを、ビア樽みたいなぶさいくが、強引に連れて行こうとしてた。
「ヴールは、ザノクリフと縁が薄い」
と、ベスニクさんが微笑を浮かべたままで言った。
「ザノクリフから送られてきた、クリストフという若僧は何者ですかな?」
――くぅ! あの、ニイチャン!
昨日、儀式の合間にテラスで休憩してた私に、ツカツカツカと無遠慮に寄って来た人。
グイッと人の顔を覗き込んだと思ったら、いきなり、
――チビだな。
って言い放った、飄々とした雰囲気の黒髪のニイチャン。
似たような『飄々』でも吟遊詩人のリュシアンさんとは違う、口の悪いのが様になるタイプで、それが余計に腹立った。
「私もまだよくは聞いていないのですが、ザノクリフで東候を称するエドゥアルド殿の縁者だとか」
と、リティアさんがベスミクさんに応えた。
「ふむ。西候セルジュ殿と示し合わせてのことであろうか?」
思案顔をするベスミクさんに、リティアさんは少し冷たさを加えた微笑で応えた。
「恐らく、あの口上から察するに東候の独断でしょう。大きくは2つに分裂しているザノクリフに、テノリアは手出しするなよ。あまよくばこっちに付けと言うのですから、虫のいい話です」
リティアさんの分析に、大きめの鼻が目立つ面長で渋い男前のベスミクさんが、興味深げな笑みを返す。
「リティア殿下はそう読み取られましたか。しかし、人を喰った物言いの若僧でしたな」
「あら」と、ウラニアさんが小さく笑った。
か、かわええ……。
奇跡を超えて天変地異レベルの58歳。
兄嫁で同い年のユーデリケさんも『たいがい』だったけど、これは夫婦で推すね。
妹、推すね。
よく分かりましたわ。
リティアさんとベスニクさんの難しい話より、ウラニアさんを愛でてしまいます――。
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