62 / 307
第二章 旧都郷愁
57.西南伯の紋章(2) *アイカ視点
しおりを挟む
立ち上がったロマナさんが、私を見下ろした。
「アイカ。この度の狩りにおける弓矢の働き、見事であった」
おっと、急にお姫様。
確かに積んである獲物の半分は私が狩った。残りの3分の1は眼帯美少女のチーナさんが仕留めた。
「よって、褒美として、我が弓矢を授ける」
か、か、か、
かっけ――!
沈み切る直前の夕陽と紅に染まる空を背景に、弓と矢筒の肩紐を持った右手を、私に向けて伸ばしてる。
リティアさんが軽い口調で、口を挟んだ。
「ちょっと、ロマナ。有難いけど、西南伯の紋章入りの弓矢なんか、貰って大丈夫なの?」
ロマナさんが胸を張って応えた。
「無論! 第3王女リティア殿下の侍女殿に、遠い異国の弓矢の神の守護聖霊があることを、王太后陛下が直々に審神けられた。たまたま旧都に居合わせた西南伯公女が聞きつけて、祝いの品を贈るのだ」
自信満々に断言するロマナさんに、リティアさんも砕けた表情になって、
「だそうよ。いいから、いただいておきなさい」
と、私に言ってくれた。
ひぇー。なんか、光栄過ぎるヤツですよね、これ?
――うっ。どうやって受け取れば正解?
クロエさんをチラッと見たら、いただけば良いという風に頷いてくれた。
――違います。そうじゃない。
クレイアさんがいたら、察して教えてくれるのにぃ。
ええいっと、両膝を地面に着けて、両手を揃えて前に出した。
ほぼ、土下座。
「さすがに……」
と、ロマナさんを戸惑わせたらしく、はははっと、リティアさんが笑った。
「アイカは山育ちで、まだ知らないことが沢山あるんだ」
と、リティアさんが正しい作法を指導してくれる。
右膝を立てて、左膝は地に着ける。心臓のある左胸を差し出して恭順の意を示す意味がある。手は右手を下に、左手を上に。右手で受け止め、左手で支えるように受け取る。
リティアさんの説明を聞いていると、ロマナさんが顔を真っ赤にしてプルプルしていた。
「まだ? そろそろ私の右腕が限界なんだけど?」
か、かわいい……。
「一回、引っ込めればいいじゃないか?」
と、リティアさんが笑うと、ロマナさんが泣きそうな怒り顔で、
「天下の西南伯公女が、一回出したものを、引っ込められるかぁーっ!」
と、大きな声を上げたので、私は慌ててロマナさんの前で片膝着いて、手を差し出した。
プルプルと差し出していただいた、弓と矢筒を受け取る。
リティアさんは、笑い転げている。
失礼ですよ。殿下。
「隠すことはないぞ」
と、リティアさんを無視するように、ロマナさんが優しく語りかけてくれた。
「我が紋章がアイカと共にある限り、困ったときには、西南伯家がきっと助けるだろう」
「た、大切にします……。あ、ありがとうございますっ」
ロマナさんが、にっこりと微笑んでくれた。
ピカピカの弓矢と矢筒。
私が山奥で使ってたものを出来るだけそのままにというのが、リティア宮殿の方針なのか、ずっと同じものを使ってきた。使い慣れてたけど、クロエさんやヤニス少年が使う、ピカピカの弓矢が羨ましくないことはなかった。
鉄の鏃を少し怖く感じたけど、やっぱり嬉しい。
いただいた弓を、そっと撫でた。
そこに、西南伯家の荷馬車が来たので、狩りの獲物を積み込んだ。
「じゃあ、また。今度は王都で!」
と、沈んだ夕陽の気配を残した夕闇に、お姫様の笑顔を残して、ロマナさんたちは旧都に戻っていった。
眼帯美少女のチーナさんも、ペコリと頭を下げ去って行く。
同行はせず、少し時間を空けて私たちも旧都への帰路についた。
「あいつ……」
と、リティアさんが、悪戯っぽい笑顔になった。
「この時間に荷馬車を呼んでたってことは、狩りにこのくらい時間がかかること分かってたな」
むしろ痛快そうなリティアさんの笑い声が、聖山での狩りの締めくくりになった。
駆けるタロウの背中で、ロマナさんにいただいた弓を握り返す。
リティアさんとロマナさんとは幼い頃、旧都テノリクアに留学してた時に知り合ったそうだ。帰りの道々にリティアさんが教えてくれた。王家や列侯家の子女は、子供のうちに旧都で聖山神話や歴史を学ぶものらしい。
リティアさんの耳では、青い雫型のイヤリングが揺れている。
本日も、おキレイな方々をいっぱい堪能させていただき、いい一日でした。ヘトヘトだけど。
「アイカ。この度の狩りにおける弓矢の働き、見事であった」
おっと、急にお姫様。
確かに積んである獲物の半分は私が狩った。残りの3分の1は眼帯美少女のチーナさんが仕留めた。
「よって、褒美として、我が弓矢を授ける」
か、か、か、
かっけ――!
沈み切る直前の夕陽と紅に染まる空を背景に、弓と矢筒の肩紐を持った右手を、私に向けて伸ばしてる。
リティアさんが軽い口調で、口を挟んだ。
「ちょっと、ロマナ。有難いけど、西南伯の紋章入りの弓矢なんか、貰って大丈夫なの?」
ロマナさんが胸を張って応えた。
「無論! 第3王女リティア殿下の侍女殿に、遠い異国の弓矢の神の守護聖霊があることを、王太后陛下が直々に審神けられた。たまたま旧都に居合わせた西南伯公女が聞きつけて、祝いの品を贈るのだ」
自信満々に断言するロマナさんに、リティアさんも砕けた表情になって、
「だそうよ。いいから、いただいておきなさい」
と、私に言ってくれた。
ひぇー。なんか、光栄過ぎるヤツですよね、これ?
――うっ。どうやって受け取れば正解?
クロエさんをチラッと見たら、いただけば良いという風に頷いてくれた。
――違います。そうじゃない。
クレイアさんがいたら、察して教えてくれるのにぃ。
ええいっと、両膝を地面に着けて、両手を揃えて前に出した。
ほぼ、土下座。
「さすがに……」
と、ロマナさんを戸惑わせたらしく、はははっと、リティアさんが笑った。
「アイカは山育ちで、まだ知らないことが沢山あるんだ」
と、リティアさんが正しい作法を指導してくれる。
右膝を立てて、左膝は地に着ける。心臓のある左胸を差し出して恭順の意を示す意味がある。手は右手を下に、左手を上に。右手で受け止め、左手で支えるように受け取る。
リティアさんの説明を聞いていると、ロマナさんが顔を真っ赤にしてプルプルしていた。
「まだ? そろそろ私の右腕が限界なんだけど?」
か、かわいい……。
「一回、引っ込めればいいじゃないか?」
と、リティアさんが笑うと、ロマナさんが泣きそうな怒り顔で、
「天下の西南伯公女が、一回出したものを、引っ込められるかぁーっ!」
と、大きな声を上げたので、私は慌ててロマナさんの前で片膝着いて、手を差し出した。
プルプルと差し出していただいた、弓と矢筒を受け取る。
リティアさんは、笑い転げている。
失礼ですよ。殿下。
「隠すことはないぞ」
と、リティアさんを無視するように、ロマナさんが優しく語りかけてくれた。
「我が紋章がアイカと共にある限り、困ったときには、西南伯家がきっと助けるだろう」
「た、大切にします……。あ、ありがとうございますっ」
ロマナさんが、にっこりと微笑んでくれた。
ピカピカの弓矢と矢筒。
私が山奥で使ってたものを出来るだけそのままにというのが、リティア宮殿の方針なのか、ずっと同じものを使ってきた。使い慣れてたけど、クロエさんやヤニス少年が使う、ピカピカの弓矢が羨ましくないことはなかった。
鉄の鏃を少し怖く感じたけど、やっぱり嬉しい。
いただいた弓を、そっと撫でた。
そこに、西南伯家の荷馬車が来たので、狩りの獲物を積み込んだ。
「じゃあ、また。今度は王都で!」
と、沈んだ夕陽の気配を残した夕闇に、お姫様の笑顔を残して、ロマナさんたちは旧都に戻っていった。
眼帯美少女のチーナさんも、ペコリと頭を下げ去って行く。
同行はせず、少し時間を空けて私たちも旧都への帰路についた。
「あいつ……」
と、リティアさんが、悪戯っぽい笑顔になった。
「この時間に荷馬車を呼んでたってことは、狩りにこのくらい時間がかかること分かってたな」
むしろ痛快そうなリティアさんの笑い声が、聖山での狩りの締めくくりになった。
駆けるタロウの背中で、ロマナさんにいただいた弓を握り返す。
リティアさんとロマナさんとは幼い頃、旧都テノリクアに留学してた時に知り合ったそうだ。帰りの道々にリティアさんが教えてくれた。王家や列侯家の子女は、子供のうちに旧都で聖山神話や歴史を学ぶものらしい。
リティアさんの耳では、青い雫型のイヤリングが揺れている。
本日も、おキレイな方々をいっぱい堪能させていただき、いい一日でした。ヘトヘトだけど。
47
お気に入りに追加
439
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
ある化学者転生 記憶を駆使した錬成品は、規格外の良品です
黄舞
ファンタジー
祝書籍化ヾ(●´∇`●)ノ
3月25日発売日です!!
「嫌なら辞めろ。ただし、お前みたいな無能を使ってくれるところなんて他にない」
何回聞いたか分からないその言葉を聞いた俺の心は、ある日ポッキリ折れてしまった。
「分かりました。辞めます」
そう言って文字通り育ててもらった最大手ギルドを辞めた俺に、突然前世の記憶が襲う。
前世の俺は異世界で化学者《ケミスト》と呼ばれていた。
「なるほど。俺の独自の錬成方法は、無意識に前世の記憶を使っていたのか」
通常とは異なる手法で、普通の錬金術師《アルケミスト》では到底及ばぬ技能を身に付けていた俺。
さらに鮮明となった知識を駆使して様々な規格外の良品を作り上げていく。
ついでに『ホワイト』なギルドの経営者となり、これまで虐げられた鬱憤を晴らすことを決めた。
これはある化学者が錬金術師に転生して、前世の知識を使い絶品を作り出し、その高待遇から様々な優秀なメンバーが集うギルドを成り上がらせるお話。
お気に入り5000です!!
ありがとうございますヾ(●´∇`●)ノ
よろしければお気に入り登録お願いします!!
他のサイトでも掲載しています
※2月末にアルファポリスオンリーになります
2章まで完結済みです
3章からは不定期更新になります。
引き続きよろしくお願いします。
【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
転生してしまったので服チートを駆使してこの世界で得た家族と一緒に旅をしようと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
俺はクギミヤ タツミ。
今年で33歳の社畜でございます
俺はとても運がない人間だったがこの日をもって異世界に転生しました
しかし、そこは牢屋で見事にくそまみれになってしまう
汚れた囚人服に嫌気がさして、母さんの服を思い出していたのだが、現実を受け止めて抗ってみた。
すると、ステータスウィンドウが開けることに気づく。
そして、チートに気付いて無事にこの世界を気ままに旅することとなる。楽しい旅にしなくちゃな
世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない
猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。
まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。
ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。
財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。
なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。
※このお話は、日常系のギャグです。
※小説家になろう様にも掲載しています。
※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる