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第二章 旧都郷愁

53.拝礼服

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 リティアは、王太后カタリナの審神さにわの結果を聞くと、感嘆の声を上げた。


 ――アイカの守護聖霊は、御名おんなは分からないが遠い異国の弓矢の神である。


 同じくタロウとジロウの守護聖霊は、道案内の神であるという。

 王太后をして御名が審神みわけられなかったという結果は、むしろアイカと狼たちの神秘性を高めた。アイカがどの騎士にも勝る弓矢の達人であることも、守護聖霊によるものと聞けば納得がいった。


 ――これは、いずれタロウとジロウも、とんでもなく素敵な場所に案内してくれるかもしれないぞ。


 と、リティアは胸を弾ませた。

 しばらくその場で、ウロウロしたり飛んだり跳ねたりしていたリティアは、今夕の内に正殿参詣を済ませると宣言して、宿舎になっている離宮に戻った。

 そして、明日一日休息を取ったら王都に戻ると一堂に告げ、アイカの審神の結果と、帰還を早めることを国王に報告する急使を、王都に飛ばした。


 ――また、隠し事が増えてしまった。


 イリアスの指図通りに白色の拝礼服に着替えるリティアを見ながら、アイカは後ろめたい気持ちになった。

 だけども、王太后さまとの約束と思い返し、心の中で『八幡さん』に柏手を打った。

 拝礼服は白色といっても玉虫色に光る布地で、羽根か木葉のような装飾が腕と裾に縫い込まれた荘厳なデザインのドレスで、リティアの赤茶色に伸びる髪を引き立たせる。

 全身が輝くようにも錯覚させるドレスに、アイカは、


 ――そういえば、神宮皇后さんのこと、もっとしっかり愛でさせてもらえば良かった。


 と、悔やんでいた。

 自家発光できる別嬪さんなど、この先もそうそうお目にかかれそうにない。いや、二度とないって考える方が普通だ。惜しいことをしたと、拳をギュッと握った。

 真面目に悔やむアイカだが、はた目から見ると、リティアとお揃いの拝礼服を着せてもらい感無量といった態に見え、大人たちの顔をほころばせた。

 アイカも侍女の務めとして、クレイアと共にリティアに付き従い、3人で王国の主祭神『天空神ラトゥパヌ』の正殿に参詣した。

 リティアは、御魂を運ぶ形代に、エディンに貰ったブローチと、アイカに貰ったイヤリングのどちらを用いるか迷った。


 ――どちらの『小動物』も、可愛くて仕方がないのだが……。


 が、王都の神殿に納めなくてはならなくなることを思い起こして、従前より使っていたアメジストの指輪にした。成人したときに王太后から贈られた品で、どの方向にも当たり障りがない。

 イリアスが張り切って――怖い顔で――儀式を執り行ってくれ、無事に依代は神櫃に収まった。

 儀典官は神官ではなく、祭祀を厳かに彩るいわば演出家だ。『聖山の神々』への信仰には教義も聖典もなく、吟遊詩人たちが謡い継ぐ神話だけがある。

 信仰は統治に深く関わっており、統治機構そのものと言ってよい騎士団には、それぞれ儀典官が任じられている。

 そして、自身『養蜂神リタイスア』という珍しい守護聖霊のあるイリアスが、第六騎士団の儀典官を務めている。

 離宮に戻ると、アイカはリティアに誘われて女子大入浴会 in 旧都に参加した。

 クレイアとは毎日一緒させてもらっていたが、リティア宮殿に入った日以来になるリティアもクロエも、相変わらず美しい。アイカは顔を赤らめながら、存分に愛でた。

 リティア宮殿の大浴場に比べると小ぶりな浴室で、肩と柔らかなものが触れ合う距離でキャッキャした。


 色々と満たされたアイカが、自分にあてがわれた寝室のベッドに潜り込むと、夜半を過ぎている。

 窓から、虫の声が微かに聞こえてくる。


 ――日本の母は、どうしているだろう?


 7年ぶりに母親のことを想った。

 弟は? 父は? 愛でさせてもらった同級生たちは?

 スッパリ断ち切られたと考えていた日本の家族や同級生たちとの縁が、守護聖霊という形で残っていた。

 そのことが、突然に郷愁を掻き立ててきた。


 ――でも。


 アイカは思う。

 あのままでは、ダメだった。

 王都に戻ったら、どこかの庭を借りよう。

 山奥の結界の中でサバイバル生活を送っていたときと同じような、家庭菜園を造らせてもらおう。

 そう考えながら、静かな旧都の夜に包まれて、眠りに落ちて行った――。
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