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第二章 旧都郷愁

41.王女と公女

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 ――すっげぇ! 異世界感マシマシです。


 旧都テノリクアの公宮を貫く長い廊下は、アイカの気分を高揚させた。リティア達に従って、謁見の間に進んでいる。

 旧都の公宮は、城郭に造詣が深くなくともそれと分かる、威厳ある風格を備えた王城だった。柱に彫り込まれた魔物のような獣の像は、人々を災いから守る願いを託したものだろうか。

 街を囲む城壁は苔むし、旧都の長い歩みを物語っていた。

 ところで、王都には街を囲む城壁がない。王国の首都として列候に開かれているという演出であり、王弟カリストスの政略であった。

 その分、王宮は堅牢なつくりになっており、1階には、ほとんど窓もない。

 それに比べると、城壁に守られた旧都の市街は静穏で落ち着きが感じられ、王都の常に賑やかで若々しさに満ちた喧騒と対照的であった。

 テノリア王国発祥の故地として、 700年近い歴史を持つのに相応しい佇まいを見せていた。

 また、公宮の瀟洒なつくりは、アイカの思い描いていた『異世界』感をくすぐる。


 ――うぉ。なんか、お姫様来た。


 広い廊下の向かい側から、金髪でマリンブルーに光る瞳の美少女が、侍女を従えこちらに向かって歩いて来た。

 胸元のオレンジ色から、広がる裾の青色まで、グラデーションの美しいドレスがトラディショナルな石造りの廊下に映えている。

 お付きの侍女の1人は空色の髪の奥に、黒いレザーの眼帯で片目を覆っている。


 ――眼帯だ! 眼帯美少女だ!


 ドレスの美少女はリティアに道を譲り、片足を引きスカートを広げてお辞儀した。


 ――姫だ! 姫! 姫!


 いつもながら、アイカの心の内は忙しくて騒がしい。


「これは、リティア殿下。ご尊顔を拝し恐悦にございます」

「久しいな、ロマナ殿。こちらには今日?」


 と、リティアも王侯貴族の礼に則った微笑をもって返礼する。

 ロマナと呼ばれた金髪美少女も、


「いえ、昨晩遅くに到着いたしましたので、ステファノス殿下へのご挨拶が今になってしまいましたの」


 と、つつがなく応じた。


「それは、お疲れでしょう」

「公用なれば、致し方ございません」

「御用は明日?」

「いえ、明日は身を清めて過ごし、明後日に」


 高い身分の方が、高い身分の方と型通りの挨拶を交わす。それだけのことが、アイカの目には新鮮に映った。

 ロマナは、西南伯ヴール候ベスニクの孫娘にあたる公女である。

 ベスニクには、第2王子ステファノスの同腹の妹である第2王女ウラニアが嫁いでおり、ロマナは国王ファウロスから見れば外曾孫、リティアから見れば甥の娘、姪孫てっそんにあたるが2歳年長の17歳である。

 ベスニクが治めるヴールは、王国の西南端にあり、旧都テノリクアとは王国をおよそ南北の端と端に隔てる、強兵で知られる列侯領である。

 『聖山戦争』においては14年間に渡る激戦、ヴール戦役を繰り広げた。

 最終的に王弟カリストスの交渉によって、近隣60の列候を国王の裁可なく討てる大権を有した『方伯』の地位を与えることと、ウラニアの輿入れを条件として、王国への参朝に応じ戦役が終結した。

 ヴール候は、王国西南地域の列候を従える方伯ということで西南伯と号し、王国で唯一特別な地位にある列侯である。

 それを不満に思う列侯がなかった訳ではないが、実際ヴールは強かった。

 王国との間に戦戈を交えた緊張感は今も残るが、参朝するにしても格別の配慮が与えられたことで、最後まで徹底的に抗戦したアルナヴィスに比べれば、友好的な立ち位置にある。

 ごきげんようと、再び優雅に頭を下げリティアを見送るロマナも、それを背に進むリティアも、アイカには格別な美しさを纏っているように映った。


 ――ふおぉぉぉ。ウチの無頼姫の、外向きの公式なお振る舞いを初めて拝みました!


 そして、興奮していた。
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