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第一章 王都絢爛

11.白い楽園(1) *アイカ視点

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 白い泡に覆われていく、黒狼のジロウ。

 一緒に洗ってくれてるクレイアさんのがブルンブルン揺れて、隣では、白狼のタロウを洗うアイシェさんとゼルフィアさんのが……。大きいおっぱいにも「種類」があるんですね。知らなかったです。心の中で手を合わせる。

 一緒にお風呂って、まさか全員だなんて思わなかったです。

 リティアさんは黒髪の衛騎士クロエさんに背中を流してもらってるし、どっちを見ても、眼福とはこのこと。ただ、隙あらば愛でたい私だけど、いきなりお風呂だなんて想定外。目のやり場に困りながら……、チラチラ見ちゃう。

 
「このくらいでどう?」


 タロウの背中越しに、紫ボブの侍女長アイシェさんがやり切った! という笑顔を向けてくれた。

 この笑顔は、アレだ。

 夏休みにみんなでプール掃除したときに『部長』が向けてくれる笑顔だ。何部か分からないけど、とにかく『部長』の笑顔だ。キラリと光る白い歯と、お顔にちょっと付いてる泡がまぶしいです。


「よし! みんなで流してやろう」


 と、リティアさんがいそいそと手桶でタロウの背中を流してくれる。王女さま、前も隠さずあけっぴろげですね。

 リティアさんの両脇は、クロエさんと第六騎士団の千騎兵長だというドーラさんって女の人が護衛してる。ドーラさんは赤黒く無造作な髪に同じ色の瞳で、陸上選手のような体つきでシンプルにスタイルがいい。

 大浴場は、やっぱり広かった。侍女の自室があの広さだもの、そりゃこうなりますよね。


「嫌がらないなら、タロウとジロウを先に湯に浸けてやれ」


 と、興味津々の笑顔で、リティアさんが言った。

 どうかな? と思いながら大きな浴槽に向かわせると、気持ち良さそうに浸かるな、お前たち。ビバノンノンか? だらしない顔をして、山奥からの道中、熊と格闘してた凛々しいお前たちは幻だったのか?

 そういえば、私も温かいお湯なんて日本にいたとき以来、7年浸かってない。


 ――私も早く身体を洗ってお湯に浸かろう! 


 と、思った途端に、頭から温かいお湯が落ちてきた。


「よし! 次はアイカだ」


 ぷはっとなって振り返ると、リティアさんが何度も見せてくれた悪戯っぽい笑顔で手桶を構えて立っていた。されるがまま、王女様自ら海綿のスポンジで背中を流してもらってドギマギしていると、急に合点がいった。


 ――そうか……。私、子供扱いされてるんだ。


 そりゃそうですよね。あてがわれた自室の鏡台の大きな鏡に映った自分の姿を思い返す。子供だ。私、子供だった。心の中の『よこしまな気持ち』を、全部反省するよ。

 13歳ってことは中学校に入りたて。ほぼ小学生のお子様が、高校生か大学生のお姉さま方と一緒にお風呂に入ってる感じ……。可愛がられて当然、とまでは思えないほど、ぼっち生活で染み着いた卑屈な気持ちもあるけど、子供らしく無邪気でいるべき――。


「殿下、ひどいじゃないですかぁ! 私だけのけ者にするなんてぇ!」


 と、湯煙で反対側の壁が見えない広さの大浴場に声を響かせたのは、仁王立ちする審神者さにわのメラニアさんだった。

 素っ裸で仁王立ちは……、けしからんですよ。

 無邪気、即、リタイア。

 淡褐色の肌にスラリと伸びた脚が長くて、シルエットが美しいですね。

 私の背中を流す手を止めたリティアさんは、苦笑いの美少女フェイスを上げた。

 
「すまんすまん。メラニアは正確には父上の配下だ。 無理を言ってはいかんと思って……」

「それは悲しいです。同じ第六騎士団の仲間だと思ってますのに」

「悪かった! 一緒に入ろう。こっちに来てアイカの横に並んでくれ。お詫びに背中を流させてもらおう」

「いいんですかぁ?」


 いそいそと私の横に腰を降ろすメラニアさん。お昼間に会ったときは、落ち着いた雰囲気のお姉さんだと思ってたのだけど、なんだか可愛い。


「アイカは、私が」


 と、まだ泡まみれのクレイアさんが後ろに回って、私の背中を海綿で泡だらけにしていく。

 真横には肌が触れそうな距離でメラニアさん。淡褐色でスベスベの肌が、笑顔のリティアさんの手で白い泡に覆われていく。

 広い大浴場では、皆さんがとりとめない会話で笑ってる。

 入りたくても入れず、近くても遠くから愛でることしか出来なかった「にぎやかさ」の輪の中に、私がいる。


「かゆい所はない?」


 私のよこしまな心の内なんて知らないクレイアさんが、優しく声をかけくれる。


「な、ないです……。へへっ」


 白い泡と白い肌と白い湯煙とに視界が埋め尽くされる。輝く白い靄に包まれるよう。

 通算24年間の人生一番の『楽園』で、妄想と緊張と多幸感がギュウギュウに詰め込まれた頭も真っ白になった――。
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