8 / 307
第一章 王都絢爛
6.おじさん探偵 *アイカ視点
しおりを挟む「アイカよ」
緊張してる私に、王様が直接声をかけてくれた。
「はい……」
いや。ほんとは「はっ」って言うんだよね、たぶん。分かります。分かってるんだけど、まだ恥ずかしいよ、それ。
「タロウとジロウに触ってみても良いか?」
「あ……、はい。大丈夫です」
「陛下……」と、奥の側妃様とは別の美人さんが口を開いた。目鼻立ちのしっかりした、すこし遊ばせた黒髪が艶っぽい、姐さん! と呼びたくなる美人さん。
「危ないのではありませんか?」
「かまわぬ。こんな小さな子供に懐いている狼に怯む私ではないわ」
そうですね。小さな子供ですね、私。でも、姐さんがご懸念の点も重々分かりますとも。狼ですもんね。
私はタロウとジロウに「伏せ!」と合図して、その大きな身体を地に伏せさせた。これでどうです?
「賢いな」
王様の微笑みは優しかった。筋骨隆々の力持ち系男前ヤンキーの笑顔って素敵です。王様にヤンキーはないか。でも、情に熱くてヤンチャそうな雰囲気にヤンキーって言葉がしっくりきて、少し落ち着いてしまった。
「ジリコ、ヤニス」と、リティアさんの指示で、王様の左右を護るように2人が立ち上がった。
王様はタロウとジロウの側にかがんで、優しげな手つきで背中を撫でる。近くに来た王様からは、ちょっといい匂いがした。
「筋肉がよく付いている。王宮の犬たちとは大違いだ」
「山奥を駆け回っていたようですから」
と、リティアさん。なぜ、ちょっとドヤ顔?
とっても可愛らしいドヤ顔ですけどっ。
「陛下」
と、そこに、ハードボイルドなおじさん探偵のような男の人が現れた。タバコと強いお酒を嗜んでそうな雰囲気。
「ジアンか」
リティアさんがスッと私の側に寄って耳打ちしてくれる。
「ジアンはメラニアと同じ審神者で、この王宮内の審神者を束ねる王宮審神長だ」
美少女の吐息が、耳に……。
「今からアイカとタロウ、ジロウを審神けてもらう。アイカはそのままジッとしておいてくれ」
飽くまでも笑顔。どこまでも私のことを気遣ってくれるんですね。
ん? ていうかタロウとジロウも?
「たしかに、分かりませんな」
しばしの沈黙の後、ジアンさんが口を開いた。
「メラニアの申す通り守護聖霊のあることは確かです。が、御名は聞き取れず姿も確とは分かりません」
「ふむ」
と、王様が思案顔をした。渋い。初めてお年寄りにドキっとしたかも。
「それに、リティア殿下の仰る通りで……」と、ジアンさんが呆れたように笑った。「狼どもにも守護聖霊があります」
「動物に守護聖霊があるというのは初めて聞いたな」
王様は感心したような笑みでジアンさんに応えた。
「私も初めて審神ました。娘の守護聖霊とは異なるようですが……。いや、正確に申し上げますと、恐らく娘には複数の守護聖霊があり、狼どもには一柱の守護聖霊があります。白狼と黒狼の守護聖霊は同一のものです」
「不思議なことだ」
「ええ、まことに」
おおっ! タロウ、ジロウ。お前たち、なんだか特別な狼のようだよ。リティアさんも目をキラキラ輝かせて見てくれてるよ。おじさん探偵、なんかありがとう!
「うむ。タロウとジロウと申したか?」
「はっ」
うわ、私。王様に「はっ」って応えちゃった。
呑まれてる。
雰囲気に呑まれてる。
王様は立ち上がってタロウとジロウから離れた。
最終判断が出るんだろうなって気配で分かる。タロウとジロウと離れ離れにならなきゃいけないのか、私の立場はどうなるのか。ゴクリと唾を飲み込んで、王様の動きを目で追った――。
77
お気に入りに追加
439
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
転生してしまったので服チートを駆使してこの世界で得た家族と一緒に旅をしようと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
俺はクギミヤ タツミ。
今年で33歳の社畜でございます
俺はとても運がない人間だったがこの日をもって異世界に転生しました
しかし、そこは牢屋で見事にくそまみれになってしまう
汚れた囚人服に嫌気がさして、母さんの服を思い出していたのだが、現実を受け止めて抗ってみた。
すると、ステータスウィンドウが開けることに気づく。
そして、チートに気付いて無事にこの世界を気ままに旅することとなる。楽しい旅にしなくちゃな
転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る(旧題|剣は光より速い-社畜異世界転生)
丁鹿イノ
ファンタジー
【ファンタジア文庫にて1巻発売中!】
深夜の職場で人生を終えた青桐 恒(25)は、気づいたらファンタジーな異世界に転生していた。
前世の社畜人生のお陰で圧倒的な精神力を持ち、生後から持ち前の社畜精神で頑張りすぎて魔力と気力を異常に成長させてしまう。
そのうち元Sクラス冒険者である両親も自重しなくなり、魔術と剣術もとんでもないことに……
異世界に転生しても働くのをやめられない!
剣と魔術が存在するファンタジーな異世界で持ち前の社畜精神で努力を積み重ね成り上がっていく、成長物語。
■カクヨムでも連載中です■
本作品をお読みいただき、また多く感想をいただき、誠にありがとうございます。
中々お返しできておりませんが、お寄せいただいたコメントは全て拝見し、執筆の糧にしています。
いつもありがとうございます。
◆
書籍化に伴いタイトルが変更となりました。
剣は光より速い - 社畜異世界転生 ~社畜は異世界でも無休で最強へ至る~
↓
転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる