【完結】すべてを妹に奪われたら、第2皇子から手順を踏んで溺愛されてました。【番外編完結】

三矢さくら

文字の大きさ
上 下
72 / 87
番外編

ベアトリス・エスコバルの交遊録①

しおりを挟む
「……おめでとう」


という姉は、見るからに不機嫌でした。

妹であるわたし、ベアトリスの幸福が受け入れられないのです。

わざわざ不機嫌な顔を見せるために、とおく帝都まで、わたしの結婚式に足を運んだのでしょう。

姉らしい話です。


「……お姉様に、なにか無礼なことがあっただろうか?」


と、心配してくださる夫フェデリコ様に申し訳ない気持ちでいっぱいです。


「わたしたちは、ずっとこうなのです。お気になさらないでください」

「……ベアトリスがそう言うのなら」


耳元でささやいてくださるフェデリコ様。

わたしたちが仲睦まじい仕草を見せるのも、姉には気に喰わないようで、顔を歪めて下を向きます。

フェデリコ様は〈庭園の騎士〉でいらっしゃいます。

そのため結婚にあたっては、皇宮にある〈陛下の庭園〉で、披露宴的な園遊会をひらくことが許されます。

そんな場所で、礼容にかなわない不機嫌を隠さないのですから、わたしの姉もたいしたものです。

ロシャ伯爵家の次女に生まれたわたしは、

幼いころからずっと、姉イネスに虐げられてきました。


「ベアトリスがいると、私まで可愛くないように見える! 私に近寄らないで!」

「はあ~っ!? お姉様が可愛くないのは、わたしのせいじゃないでしょ!?」


……わたしも、負けてませんでしたが。


「……お姉ちゃん、泣いちゃってるじゃないの。謝りなさい、ベアトリス」


ウソ泣きの上手な姉は、いつも母を味方に付けます。

兄も気の強いわたしのことを敬遠し、わたしの味方は父だけでした。

調子のいい兄と、かわいこぶる姉は、しょっちゅうわたしを放って友だちと遊び、

わたしはいつもひとりでした。

父から、わたしも入れてやるようにと言われても、


「だって、あいつ可愛くないんだもん」


と、兄も姉も悪びれるところはありません。そして母も、そんなふたりを咎めることはありませんでした。

父は男爵家から入った婿養子。

貧乏貴族とはいえ、ロシャ伯爵家では母の方が立場が強かったのです。

わたしが王立学院でマダレナと親しくなっても、


「キツい顔の女がふたりも並んでたら、よけいに嫁の貰い手がなくなるぞ?」

「私の妹だって言わないでよね? 私の結婚がダメになったら、ベアトリスのせいだからね!?」


と、兄も姉も、ひどいものでした。


――学院を卒業したら家を出る。


そればかりを考えて過ごし、

といっても縁談が期待できる訳でもないので、どこかで侍女として雇ってもらえるようにと、家政学ばかり一生懸命に学んだ学院生活でした。

もちろん、親友で名門カルドーゾ侯爵家を継承する予定のマダレナに雇ってもらうのが、いちばんの夢でした。

最終学年になって、マダレナの妹パトリシアが入学してくると、


――ほお~っ! お姉様も、このくらいキレイなウソ泣きをしてくれたら、まだ許せるのに。


という、見事なウソ泣きを見せてもらいました。

というか、もとの顔のつくりが段違いです。

パトリシアほど可愛らしければ、ウソ泣きでも絵になるというものです。

ウソ泣きは見慣れていたので、わたしは騙されませんでしたけど。

マダレナも可愛らしい妹を可愛がっていて、良好な姉妹関係がすこし羨ましかったものです。

もちろん、パトリシアのウソ泣きは、マダレナにも通じません。それどころか、モーションに入るや否やにっこりと叩き落とされていました。

ただ、最初に会ったころのパトリシアは、すこし小狡いところはあっても、一国を滅ぼしてしまうほどではありませんでした。

ものごとが自分の思う通りにいかないときに、わざとらしい涙をこぼして同情をかう――、といった程度の、

まあ、すこし鼻にはつきましたけど、どこにでもいるような、ふつうの女子でした。

ところが、一緒に学院時代を過ごした1年のあいだに、少しずつ気配が変わっていきました。

そしていつの間にか、マダレナの結婚を壊す謀略を張り巡らせ、さらには王位さえ武力で奪おうとするような娘になっていたのです。

ただ、パトリシアは最後の最後まで、マダレナのことを他人に悪く言うことはありませんでした。

わたしの悪口を言い触らしまくった姉とは大違いです。

パトリシアも、マダレナ自身に対しては「ズルい」とか言ってましたけど、

他の人のことは、やれ「帝国の横暴」だの、やれ「アルフォンソ殿下が謀叛を企んでいる」だの、言いたい放題でしたが、

決して、マダレナの悪口を言い触らしたりはしなかったのです。


――賢い姉は白騎士の心を操る秘法にたどり着こうとしている。アルフォンソ殿下はそんな純朴な姉を誘惑し、利用しようとしているのです!


どこにもマダレナを貶める要素はありませんでした。

心の奥底にはマダレナに対する強い憧れがあって、

たぶん、憧れの姉にダダをこねて、甘えていたんだと思います。

迷惑な話です。

それでネヴィス王国は廃絶となってしまったのですから、常軌を逸した大迷惑です。

けれど、パトリシアとわたしは妹同士。

憧れられる姉を持ったパトリシアのことが、正直うらやましいです。

わたしの幸せを妬んで不機嫌になる姉イネスを見て、ざまあみろと思っている自分はすこし嫌いです。

ですが、わたしは心の底から、ざまあみろと思っています。

姉は、自分の結婚式にわたしを招待してくれませんでした。


――それほどまでにキライなのね……。


と、苦い思いをして、マダレナに慰めてもらったものです。

しかし、姉の夫はパトリシアの起こした軍事クーデターに加担した罪で身分をはく奪され、強制労働の罰を受けました。

ほんのすこしだけですが、


――パトリシア、よくやった。


と思ったのは、マダレナにも内緒です。

結局、離縁になった姉は、帝国貴族になったロシャ伯爵家に戻っています。

嫌々ながらわたしの結婚式に足を運んだのは、父からなにか言われたのでしょう。

父が帝国伯爵に叙爵されたのは父自身の功績によるものです。母との力関係もガラリと変わりました。


「あら? ベアトリスのお姉様? こんな美人の妹がいたら、さぞかし自慢なことでしょうねぇ~?」


と、にこやかな声で姉イネスに声をかけてくださったのは、侯爵令嬢パウラ様でした――。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています

綾森れん
恋愛
「リラ・プリマヴェーラ、お前と交わした婚約を破棄させてもらう!」 公爵家主催の夜会にて、リラ・プリマヴェーラ伯爵令嬢はグイード・ブライデン公爵令息から言い渡された。 「お前のような真面目くさった女はいらない!」 ギャンブルに財産を賭ける婚約者の姿に公爵家の将来を憂いたリラは、彼をいさめたのだが逆恨みされて婚約破棄されてしまったのだ。 リラとグイードの婚約は政略結婚であり、そこに愛はなかった。リラは今でも7歳のころ茶会で出会ったアルベルト王子の優しさと可愛らしさを覚えていた。しかしアルベルト王子はそのすぐあとに、毒殺されてしまった。 夜会で恥をさらし、居場所を失った彼女を救ったのは、美しい青年歌手アルカンジェロだった。 心優しいアルカンジェロに惹かれていくリラだが、彼は高い声を保つため、少年時代に残酷な手術を受けた「カストラート(去勢歌手)」と呼ばれる存在。教会は、子孫を残せない彼らに結婚を禁じていた。 禁断の恋に悩むリラのもとへ、父親が新たな婚約話をもってくる。相手の男性は親子ほども歳の離れた下級貴族で子だくさん。数年前に妻を亡くし、後妻に入ってくれる女性を探しているという、悪い条件の相手だった。 望まぬ婚姻を強いられ未来に希望を持てなくなったリラは、アルカンジェロと二人、教会の勢力が及ばない国外へ逃げ出す計画を立てる。 仮面舞踏会の夜、二人の愛は通じ合い、結ばれる。だがアルカンジェロが自身の秘密を打ち明けた。彼の正体は歌手などではなく、十年前に毒殺されたはずのアルベルト王子その人だった。 しかし再び、王権転覆を狙う暗殺者が迫りくる。 これは、愛し合うリラとアルベルト王子が二人で幸せをつかむまでの物語である。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

処理中です...