61 / 87
第二部
61.ひまわりのように鮮やかな黄色
しおりを挟む
満面の笑みを浮かべたフリアは、わたしに小瓶を捧げ上げる。
篝火の炎を反射して、美しく煌めく小瓶をわたしが受け取とると、かるく頭をさげたフリアが退出しようとした。
「フリア、いいのよ。ベアと白騎士ルシアさん――フリアのお友だちルウの間に立って、あなたも控えていて頂戴」
「け、けど……」
ススだらけの顔で戸惑う、わたしの超絶美少女侍女に、微笑みを返す。
「いいの。それは、あなたの勲章。今日は最後まで一部始終を見ていてちょうだい。あなたには、その資格があるわ」
「あ、ありがたき幸せ――っ!!」
全速力でベアトリスとルシアさんの側に駆けていく、フリアが着ている侍女のメイド服はヨレヨレで土埃まみれ。
目はすこし充血していて赤く、寝ずに馬を駆けさせてくれたのだろう。
――わたしの恋愛物語ったら、どうしてこう睡眠不足ばかり登場するのかしら?
思わずクスッと笑ってから、皇帝陛下に向き直る。
「陛下には、大変よきところをご覧いただくことができました」
「う、うむ……。そうであるか……」
「わが自慢の美少女侍女、フリア・アロンソが届けてくれました、この小瓶こそが、わたしの研究成果」
「おお……、そうであったか」
「皇宮書庫に眠る貴重な書物を紐解き、わたしが復活させた太古の魔導」
「なんと……」
庭園を埋め尽くす群臣たちにも、おおきなどよめきが起きる。
「名付けて〈真実を吐く魔導〉」
「う、うむ……」
「……白騎士ルシア様、こちらへ」
わたしが微笑を向けると、ベビーピンクのドレスにその身を包む白騎士ルシアさんは、戸惑いの表情を浮かべられた。
そして、おずおずとわたしの隣へと歩いてこられる。
主賓席にチラと目を向ければ、年老いた大賢者マルコス・アビル様の表情には怯えが浮かび、目を見開いてわたしを睨んでいた。
――知識と学問を権力闘争の道具としか見ぬ大賢者など、この程度のものか……。おとなりで無限の好奇心に目を輝かせる〈風の賢者〉インフィニト=ラミエル様を見習われてはいかがかしら?
わたしの隣に立ったルシアさんに微笑みを重ね、再び皇帝陛下へと向き直る。
「……いま、この崇高なる二重の円環――神聖なる皇宮内で、わたしが白騎士ルシア様の〈心を操った〉などという愚かな風聞が跋扈しているやに聞き及びます」
「う、うむ……」
「陛下のお側に侍る栄誉に浴しながら愚かな風聞に惑わされ、乙女の友情を曲解して貶める浅はかな者どもの目を覚ますため、いまこの場でこの〈魔導薬〉をわたしとルシア様が飲み干し、真実をお証しいたしましょう」
みなの視線がわたしの手元にあつまるなか、小瓶の蓋をあけ、なかに入った液体の半分を飲み干した。
「うっげ……、まっず……」
おもわず心の声をそのまま吐き出してしまったけど、動じずルシアさんに小瓶をさし出す。
「さあ、ルシアさん。わたしたちの友情の証しに、いかがですか? ……とても、まずいのですけど」
そのとき、甲高い声をあげたのは、薄髪薄髭、頬はこけてるのに腹の出た、マヌエル侯爵だった。
「そ、そのような怪しげなものを白騎士に飲ませるなど!」
「あら、マヌエル侯爵閣下。乙女の恋も愛も結婚も奪われたる白騎士様には、高度に自由意志が認められておりますわ?」
「うぬっ……」
「マヌエル侯爵閣下は、いま、わたし自身が飲んでみせた薬を飲むかどうかも、ルシア様ご自身がお決めになることを、邪魔されると?」
「い、いや、そういう訳では……」
「……マヌエル、控えよ。陛下の御前であるぞ」
マヌエル侯爵を制したのは、苦々しげな声ながら引きつった微笑を絶やさない第1皇子フェリペ殿下だった。
「さすがは、フェリペ殿下。太陽皇家にお生まれの尊きお方。すばらしきご差配にございますわ」
「……わが妃の縁者の者が、無礼を働いた。つづけるがいい」
「恐れ入ります」
フェリペ殿下にかるく頭をさげ、ルシアさんに向き直る。
「ルシアさん」
「は、はい」
「われらに、やましきことは一毫たりともありません。そうではありませんか?」
「もちろんです!」
「わたしと、ご一緒にいかが? わが超絶美少女侍女フリアの特製にございますのよ?」
「はいっ! 分かりました!」
すっきりと覚悟を決めた表情で、ルシアさんは小瓶を手に取られ、のこった液体を一気に飲み干された。
ただ、ルシアさんの表情が「うっ!」と歪まれたのは、まずさのせい。
わたしは浮かべた微笑に、苦笑いを重ねる。
「……味の方は、まだ改良の余地がございますの」
「ええ、とてもまずいです……、マダレナ閣下」
「ふふっ。ごめんなさいね」
ルシアさんと苦笑いを交しあってから、困惑を隠せない主賓席に向けて、姿勢をただす。
「……さて、陛下。薬が効いてくるのには、いましばらく時間が必要にございます。その間、わたしがこの魔導を復活させるに至った経緯を発表させていただきます」
「う、うむ……」
「皇宮書庫にて、貴重な文献、古文書に触れる機会をいただき、わたしの胸は躍りました」
目のまえにそびえ立つ、本宮を見上げた。
「わたしが、どうしても知りたかったのは〈白騎士とは何者であるのか?〉ということにございます」
「……うむ」
「太陽帝国の建国と共に、歴史に突然現れた白騎士。魔導の時代に封印されていた魔導具〈大聖女の涙〉を初代皇帝陛下が発見されたとだけ伝わっております」
「……そう、であるな」
「皇宮書庫にのみ遺された、断片的な魔導の時代の記録。魔族を退け、神の不在が証明され、魔導が失われる前、魔導の時代の最終期――、328人の聖女が覇を競った〈聖女大戦〉の時代の文献に、わたしは行き着きました」
「そ、そんな文献が、皇宮書庫に眠っておったのか……」
「ええ。……かつて、魔界の門に蓋をしたと伝わる大聖女様など、時代時代にひとりしか現われなかった聖女が、なぜ突然、328人も現われたのか――。魔導が失われた後の戦乱期の混乱もあり、いまとなっては大きな謎とされております」
「うむ……。その謎のことは、朕もインフィニトより聞かせてもらったことがあるぞ」
「わたしが着目したのは民俗学。ときの民が書き残した、日記のような走り書きが散り散りになった数多の紙片。そのすべてに目を通したのでございます」
「おお……、相当な数であったのではないのか?」
「丁寧さこそ、学究の要。労を惜しんで、真実にたどりつくことはできません」
「うむ、見事な覚悟。……すまぬ。続きを聞かせてくれぬか、マダレナよ」
「恐れ入ります。無数に残された紙片のすべてに目を通すなか、わたしは見つけたのです……」
「う、うむ……」
「〈人工聖女〉……、という記述を」
隣に立つルシアさんが「うっ……」と、かるく呻き声を漏らされた。
――はじまったわね……。わたしも一緒だから。少しだけ我慢してね、ルシアさん……。
目立たないように、ルシアさんの手を握ると、苦しげな表情のなかに穏やかな微笑みを返してくださった。
そのとき、我慢できなくなったのか〈風の賢者〉インフィニト=ラミエル様が声をあげられた。
「マダレナの考えは、白騎士とは魔導によって人工的につくられた聖女であると?」
「ラミエル様。……結論は、もう少し先にございます」
「う~ん。すまなかった。つづけてくれ」
「はい。……当時の民をしても、恐れおののいた禁断の技術。ただの乙女を聖女にかえる、その方法を解き明かさねば〈白騎士とは何者か?〉にはいたりません」
シーンと静まり返った〈陛下の庭園〉には、篝火にくべられた薪のはぜる音だけが響く。
「それは、下々の民にまで明かされるような技術ではございませんでした」
「うむ……。そうであろうな」
「魔導師に向けた魔導書のなかにも記述がなく、あらゆる文献に目を通す中で、わたしが行き着きましたのは、神学です」
「神学……」
うっうっ……、と苦しげな呻き声を隠せなくなったルシアさんが、わたしの手を握ったまま、腰を落とされる。
ただ、わたしを見上げた紅蓮の瞳には、わたしへの篤い信頼を浮かべてくださっていた。
地に伏せたルシアさんに、怪訝な目を向ける群臣に向けて、穏やかに語りかける。
「……真実を吐き出すとは、ときに苦しきもの。みな様の口が吐く言葉が真実であるのなら、何の心配もございませんわ」
優雅にニッコリと微笑んでみせると、群臣は皆、口をつぐんだ。
「……発表を続けさせていただきます」
「うむ……」
「神の不在が証明された今、神学を学ぶものはおりません」
「……いかにも」
「聖とは、邪なきこと。魔はあっても神はいない。すでに解き明かされた真実のひとつでございます」
「うむ、ゆえに帝国は太陽こそが神聖と定めたのだ」
「遺された神話も、ただの物語扱い」
「……そうであるな」
「しかし、〈聖女大戦〉の時代、神は普遍の存在と広く信じられておりました。……魔導を用いた過酷な戦乱の世。大地に民の血を吸わせ続ける、罪深き人間を許す、神の存在を必要としたのでしょう」
「で、あろうな……」
「民は神に祈り、みずから犯した罪への許しを乞い、戦乱の終わりを願いました」
「うむ……。いたましき時代である」
「その、神に許しを請う文脈のなかに、こうありました……」
「……うむ」
「〈聖女の呪い〉……、と」
「呪い……」
「つまり、ただの乙女を聖女に変えるのは魔導ではなく、呪い――。魔族の遺した強力な呪いを改造した、みずから信じる神の教えにも背く、禁断の呪法だったのです」
「なんと……」
「したがって〈大聖女の涙〉とは、魔導具ではなく、呪具。それも特別強力な呪いをその身に宿らせることで乙女を聖女――白騎士に変える、恐るべき呪いの呪具だったのでございます」
わたしはそっと膝を折ってしゃがみ込み、
うっ、うっ、と、苦しみつづけるルシアさんの背中に、手をあてた。
「……聖女大戦の時代、おそらくは魔導による隷属魔法で〈人工聖女〉を従わせていたのでしょう。おぞましきことです。……しかし、魔導は失われました」
ルシアさんの背中は小刻みに震え、こみ上げてくる〈真実〉の脈動に突き動かされていた。
「封印された〈大聖女の涙〉を復活させ、魔導で心を縛るのではなく、その大きな器――人徳で従わせた初代皇帝陛下の偉大さに、卑小なわが身を顧みて、ただただ恐れ入るばかりにございます」
「……そ、そうであるな」
「結論を申し上げます」
「うむ」
「〈大聖女の涙〉を、白騎士の胎から安全に剥がすために必要なのは、胎を裂くことでも、魔導の復活でもなく、強力な〈解呪〉だったのです。エンカンターダス――、皮肉にも〈魔導〉を意味するその名を付けられた地の秘湯にて、答えが湧き出しておりました」
グボワァ!!!!
と、ルシアさんが嘔吐される音が、庭園に響いた。そして――、
カラン――……、
と、人工池の周囲に張られた石畳に鳴るちいさな音。
美しく煌めく、宝玉の欠片が落ちていた。
わたしは、それを慎重に拾い上げ、捧げ持つ。
「エンカンターダスの秘湯に湧き出す解呪成分を、煮詰めて濃縮した〈魔導薬〉が、ルシア様より〈真実〉を吐き出させてございます……」
わたしは主賓席に目を向けた。
「大賢者様……。いえ、風の賢者インフィニト=ラミエル様。お改めくださいませ。……解呪により、胎から腹に遷して吐き出された真実……、〈大聖女の涙〉にございます」
好奇心に目をキラキラと輝かせたラミエル様が、駆け寄ってこられる。
「う、うん!! まちがいない……。〈大聖女の涙〉だ!!!!」
興奮を隠せないラミエル様の声に、おおぉ――っと、群臣たちの声が重なる。
「ラミエル様。〈大聖女の涙〉を収めておくための、特別な櫃があるのでは?」
「うん。その通りだ! すぐに持ってこさせよう!!」
慌ただしく騒ぎ始める人々。
〈大聖女の涙〉をラミエル様にお渡しし、わたしはまだ脈打つルシアさんの背中に手をやった。
わたしの着たドレスから伸びるトレーンが、さらにひろがるかのように、
色の戻ったルシアさん本来の髪色が、美しいコーラルピンクに石畳を染めていた。
やがて顔をあげ、わたしに微笑んだルシアさんの瞳は、
夜の闇を晴らす朝陽のように澄んだ、太陽と大地の恵みをいっぱいに受けて花開かせたひまわりのように、
鮮やかな黄色をしていて、わたしを真っ直ぐに見詰めてくれていた。
わたしも微笑みを返し、ルシアさんを抱き締める。
あたたかで、やわらかで、華奢な乙女の身体の温もりを、存分に味わい合う。
そして、立ち上がり、驚愕した表情が解けない皇帝陛下に、微笑みを向けた。
「太陽帝国が戴く偉大なる皇帝、太陽皇帝イグナシオ・デ・ラ・ソレイユ陛下に、カルドーゾ公爵マダレナ・オルキデアが献言いたします」
「う、うむ。献言を許す」
「その身を挺し〈大聖女の涙〉の安全な分離を成功させたルシア様の絶大なる功績に報いるため、すみやかなる叙爵を献言申し上げます」
「……よ、よき献言である。侯爵……、いや公爵に、ルシア・カルデロンを叙する」
「ありがたき幸せ。……ルシア公爵閣下。陛下にお礼を」
「……あ、ありがとう……ござい……ます……けほっ」
突然ごめんなさいね、ルシアさん。
でもこれで、公爵になったルシアさんには、誰も手出しできなくなったわ。
「マ、マダレナ。み、見事な挨拶であった……」
「陛下。恐れながら、わたしから申し上げたき〈挨拶〉は、これで終わりではありません」
「う、うむ……」
キッと、すべての礼容から外れた、凛々しく端正過ぎるわたし本来の表情を、皇帝陛下に向けた。
いや、太陽帝国のすべてに向けた。
「この才媛マダレナ!!! 必ずや〈大聖女の涙〉の働きを解き明かし、女子の子宮に収めるなどいう――、
クッッッソッ!!!!!!!!!!!!
趣味の悪い方法を用いずとも、その力を帝国の安寧ため、民の平和のために役立てることが出来るようにすると……、必ずしてみせると、お誓い申し上げます!!」
「お、おお……」
「皇家の方におかれましても、急ぎの〈お遣い〉のご用などがございましたら『ちょっと、白騎士になってよぉ~』と仰られるだけで済む世を、必ずや拓いてみせるとお約束申し上げます」
「み、見事じゃ……」
「恐れ入ります」
庭園を囲むご令嬢たちから、ちいさな拍手が起きた。
それは大きな拍手の渦となり〈陛下の庭園〉を、埋め尽くしていく。
「うむ。朕は決めたぞ……」
と、席からお立ちになられた皇帝陛下が、わたしのフォレストグリーンの瞳を真っ直ぐに、お見詰めになられた――。
篝火の炎を反射して、美しく煌めく小瓶をわたしが受け取とると、かるく頭をさげたフリアが退出しようとした。
「フリア、いいのよ。ベアと白騎士ルシアさん――フリアのお友だちルウの間に立って、あなたも控えていて頂戴」
「け、けど……」
ススだらけの顔で戸惑う、わたしの超絶美少女侍女に、微笑みを返す。
「いいの。それは、あなたの勲章。今日は最後まで一部始終を見ていてちょうだい。あなたには、その資格があるわ」
「あ、ありがたき幸せ――っ!!」
全速力でベアトリスとルシアさんの側に駆けていく、フリアが着ている侍女のメイド服はヨレヨレで土埃まみれ。
目はすこし充血していて赤く、寝ずに馬を駆けさせてくれたのだろう。
――わたしの恋愛物語ったら、どうしてこう睡眠不足ばかり登場するのかしら?
思わずクスッと笑ってから、皇帝陛下に向き直る。
「陛下には、大変よきところをご覧いただくことができました」
「う、うむ……。そうであるか……」
「わが自慢の美少女侍女、フリア・アロンソが届けてくれました、この小瓶こそが、わたしの研究成果」
「おお……、そうであったか」
「皇宮書庫に眠る貴重な書物を紐解き、わたしが復活させた太古の魔導」
「なんと……」
庭園を埋め尽くす群臣たちにも、おおきなどよめきが起きる。
「名付けて〈真実を吐く魔導〉」
「う、うむ……」
「……白騎士ルシア様、こちらへ」
わたしが微笑を向けると、ベビーピンクのドレスにその身を包む白騎士ルシアさんは、戸惑いの表情を浮かべられた。
そして、おずおずとわたしの隣へと歩いてこられる。
主賓席にチラと目を向ければ、年老いた大賢者マルコス・アビル様の表情には怯えが浮かび、目を見開いてわたしを睨んでいた。
――知識と学問を権力闘争の道具としか見ぬ大賢者など、この程度のものか……。おとなりで無限の好奇心に目を輝かせる〈風の賢者〉インフィニト=ラミエル様を見習われてはいかがかしら?
わたしの隣に立ったルシアさんに微笑みを重ね、再び皇帝陛下へと向き直る。
「……いま、この崇高なる二重の円環――神聖なる皇宮内で、わたしが白騎士ルシア様の〈心を操った〉などという愚かな風聞が跋扈しているやに聞き及びます」
「う、うむ……」
「陛下のお側に侍る栄誉に浴しながら愚かな風聞に惑わされ、乙女の友情を曲解して貶める浅はかな者どもの目を覚ますため、いまこの場でこの〈魔導薬〉をわたしとルシア様が飲み干し、真実をお証しいたしましょう」
みなの視線がわたしの手元にあつまるなか、小瓶の蓋をあけ、なかに入った液体の半分を飲み干した。
「うっげ……、まっず……」
おもわず心の声をそのまま吐き出してしまったけど、動じずルシアさんに小瓶をさし出す。
「さあ、ルシアさん。わたしたちの友情の証しに、いかがですか? ……とても、まずいのですけど」
そのとき、甲高い声をあげたのは、薄髪薄髭、頬はこけてるのに腹の出た、マヌエル侯爵だった。
「そ、そのような怪しげなものを白騎士に飲ませるなど!」
「あら、マヌエル侯爵閣下。乙女の恋も愛も結婚も奪われたる白騎士様には、高度に自由意志が認められておりますわ?」
「うぬっ……」
「マヌエル侯爵閣下は、いま、わたし自身が飲んでみせた薬を飲むかどうかも、ルシア様ご自身がお決めになることを、邪魔されると?」
「い、いや、そういう訳では……」
「……マヌエル、控えよ。陛下の御前であるぞ」
マヌエル侯爵を制したのは、苦々しげな声ながら引きつった微笑を絶やさない第1皇子フェリペ殿下だった。
「さすがは、フェリペ殿下。太陽皇家にお生まれの尊きお方。すばらしきご差配にございますわ」
「……わが妃の縁者の者が、無礼を働いた。つづけるがいい」
「恐れ入ります」
フェリペ殿下にかるく頭をさげ、ルシアさんに向き直る。
「ルシアさん」
「は、はい」
「われらに、やましきことは一毫たりともありません。そうではありませんか?」
「もちろんです!」
「わたしと、ご一緒にいかが? わが超絶美少女侍女フリアの特製にございますのよ?」
「はいっ! 分かりました!」
すっきりと覚悟を決めた表情で、ルシアさんは小瓶を手に取られ、のこった液体を一気に飲み干された。
ただ、ルシアさんの表情が「うっ!」と歪まれたのは、まずさのせい。
わたしは浮かべた微笑に、苦笑いを重ねる。
「……味の方は、まだ改良の余地がございますの」
「ええ、とてもまずいです……、マダレナ閣下」
「ふふっ。ごめんなさいね」
ルシアさんと苦笑いを交しあってから、困惑を隠せない主賓席に向けて、姿勢をただす。
「……さて、陛下。薬が効いてくるのには、いましばらく時間が必要にございます。その間、わたしがこの魔導を復活させるに至った経緯を発表させていただきます」
「う、うむ……」
「皇宮書庫にて、貴重な文献、古文書に触れる機会をいただき、わたしの胸は躍りました」
目のまえにそびえ立つ、本宮を見上げた。
「わたしが、どうしても知りたかったのは〈白騎士とは何者であるのか?〉ということにございます」
「……うむ」
「太陽帝国の建国と共に、歴史に突然現れた白騎士。魔導の時代に封印されていた魔導具〈大聖女の涙〉を初代皇帝陛下が発見されたとだけ伝わっております」
「……そう、であるな」
「皇宮書庫にのみ遺された、断片的な魔導の時代の記録。魔族を退け、神の不在が証明され、魔導が失われる前、魔導の時代の最終期――、328人の聖女が覇を競った〈聖女大戦〉の時代の文献に、わたしは行き着きました」
「そ、そんな文献が、皇宮書庫に眠っておったのか……」
「ええ。……かつて、魔界の門に蓋をしたと伝わる大聖女様など、時代時代にひとりしか現われなかった聖女が、なぜ突然、328人も現われたのか――。魔導が失われた後の戦乱期の混乱もあり、いまとなっては大きな謎とされております」
「うむ……。その謎のことは、朕もインフィニトより聞かせてもらったことがあるぞ」
「わたしが着目したのは民俗学。ときの民が書き残した、日記のような走り書きが散り散りになった数多の紙片。そのすべてに目を通したのでございます」
「おお……、相当な数であったのではないのか?」
「丁寧さこそ、学究の要。労を惜しんで、真実にたどりつくことはできません」
「うむ、見事な覚悟。……すまぬ。続きを聞かせてくれぬか、マダレナよ」
「恐れ入ります。無数に残された紙片のすべてに目を通すなか、わたしは見つけたのです……」
「う、うむ……」
「〈人工聖女〉……、という記述を」
隣に立つルシアさんが「うっ……」と、かるく呻き声を漏らされた。
――はじまったわね……。わたしも一緒だから。少しだけ我慢してね、ルシアさん……。
目立たないように、ルシアさんの手を握ると、苦しげな表情のなかに穏やかな微笑みを返してくださった。
そのとき、我慢できなくなったのか〈風の賢者〉インフィニト=ラミエル様が声をあげられた。
「マダレナの考えは、白騎士とは魔導によって人工的につくられた聖女であると?」
「ラミエル様。……結論は、もう少し先にございます」
「う~ん。すまなかった。つづけてくれ」
「はい。……当時の民をしても、恐れおののいた禁断の技術。ただの乙女を聖女にかえる、その方法を解き明かさねば〈白騎士とは何者か?〉にはいたりません」
シーンと静まり返った〈陛下の庭園〉には、篝火にくべられた薪のはぜる音だけが響く。
「それは、下々の民にまで明かされるような技術ではございませんでした」
「うむ……。そうであろうな」
「魔導師に向けた魔導書のなかにも記述がなく、あらゆる文献に目を通す中で、わたしが行き着きましたのは、神学です」
「神学……」
うっうっ……、と苦しげな呻き声を隠せなくなったルシアさんが、わたしの手を握ったまま、腰を落とされる。
ただ、わたしを見上げた紅蓮の瞳には、わたしへの篤い信頼を浮かべてくださっていた。
地に伏せたルシアさんに、怪訝な目を向ける群臣に向けて、穏やかに語りかける。
「……真実を吐き出すとは、ときに苦しきもの。みな様の口が吐く言葉が真実であるのなら、何の心配もございませんわ」
優雅にニッコリと微笑んでみせると、群臣は皆、口をつぐんだ。
「……発表を続けさせていただきます」
「うむ……」
「神の不在が証明された今、神学を学ぶものはおりません」
「……いかにも」
「聖とは、邪なきこと。魔はあっても神はいない。すでに解き明かされた真実のひとつでございます」
「うむ、ゆえに帝国は太陽こそが神聖と定めたのだ」
「遺された神話も、ただの物語扱い」
「……そうであるな」
「しかし、〈聖女大戦〉の時代、神は普遍の存在と広く信じられておりました。……魔導を用いた過酷な戦乱の世。大地に民の血を吸わせ続ける、罪深き人間を許す、神の存在を必要としたのでしょう」
「で、あろうな……」
「民は神に祈り、みずから犯した罪への許しを乞い、戦乱の終わりを願いました」
「うむ……。いたましき時代である」
「その、神に許しを請う文脈のなかに、こうありました……」
「……うむ」
「〈聖女の呪い〉……、と」
「呪い……」
「つまり、ただの乙女を聖女に変えるのは魔導ではなく、呪い――。魔族の遺した強力な呪いを改造した、みずから信じる神の教えにも背く、禁断の呪法だったのです」
「なんと……」
「したがって〈大聖女の涙〉とは、魔導具ではなく、呪具。それも特別強力な呪いをその身に宿らせることで乙女を聖女――白騎士に変える、恐るべき呪いの呪具だったのでございます」
わたしはそっと膝を折ってしゃがみ込み、
うっ、うっ、と、苦しみつづけるルシアさんの背中に、手をあてた。
「……聖女大戦の時代、おそらくは魔導による隷属魔法で〈人工聖女〉を従わせていたのでしょう。おぞましきことです。……しかし、魔導は失われました」
ルシアさんの背中は小刻みに震え、こみ上げてくる〈真実〉の脈動に突き動かされていた。
「封印された〈大聖女の涙〉を復活させ、魔導で心を縛るのではなく、その大きな器――人徳で従わせた初代皇帝陛下の偉大さに、卑小なわが身を顧みて、ただただ恐れ入るばかりにございます」
「……そ、そうであるな」
「結論を申し上げます」
「うむ」
「〈大聖女の涙〉を、白騎士の胎から安全に剥がすために必要なのは、胎を裂くことでも、魔導の復活でもなく、強力な〈解呪〉だったのです。エンカンターダス――、皮肉にも〈魔導〉を意味するその名を付けられた地の秘湯にて、答えが湧き出しておりました」
グボワァ!!!!
と、ルシアさんが嘔吐される音が、庭園に響いた。そして――、
カラン――……、
と、人工池の周囲に張られた石畳に鳴るちいさな音。
美しく煌めく、宝玉の欠片が落ちていた。
わたしは、それを慎重に拾い上げ、捧げ持つ。
「エンカンターダスの秘湯に湧き出す解呪成分を、煮詰めて濃縮した〈魔導薬〉が、ルシア様より〈真実〉を吐き出させてございます……」
わたしは主賓席に目を向けた。
「大賢者様……。いえ、風の賢者インフィニト=ラミエル様。お改めくださいませ。……解呪により、胎から腹に遷して吐き出された真実……、〈大聖女の涙〉にございます」
好奇心に目をキラキラと輝かせたラミエル様が、駆け寄ってこられる。
「う、うん!! まちがいない……。〈大聖女の涙〉だ!!!!」
興奮を隠せないラミエル様の声に、おおぉ――っと、群臣たちの声が重なる。
「ラミエル様。〈大聖女の涙〉を収めておくための、特別な櫃があるのでは?」
「うん。その通りだ! すぐに持ってこさせよう!!」
慌ただしく騒ぎ始める人々。
〈大聖女の涙〉をラミエル様にお渡しし、わたしはまだ脈打つルシアさんの背中に手をやった。
わたしの着たドレスから伸びるトレーンが、さらにひろがるかのように、
色の戻ったルシアさん本来の髪色が、美しいコーラルピンクに石畳を染めていた。
やがて顔をあげ、わたしに微笑んだルシアさんの瞳は、
夜の闇を晴らす朝陽のように澄んだ、太陽と大地の恵みをいっぱいに受けて花開かせたひまわりのように、
鮮やかな黄色をしていて、わたしを真っ直ぐに見詰めてくれていた。
わたしも微笑みを返し、ルシアさんを抱き締める。
あたたかで、やわらかで、華奢な乙女の身体の温もりを、存分に味わい合う。
そして、立ち上がり、驚愕した表情が解けない皇帝陛下に、微笑みを向けた。
「太陽帝国が戴く偉大なる皇帝、太陽皇帝イグナシオ・デ・ラ・ソレイユ陛下に、カルドーゾ公爵マダレナ・オルキデアが献言いたします」
「う、うむ。献言を許す」
「その身を挺し〈大聖女の涙〉の安全な分離を成功させたルシア様の絶大なる功績に報いるため、すみやかなる叙爵を献言申し上げます」
「……よ、よき献言である。侯爵……、いや公爵に、ルシア・カルデロンを叙する」
「ありがたき幸せ。……ルシア公爵閣下。陛下にお礼を」
「……あ、ありがとう……ござい……ます……けほっ」
突然ごめんなさいね、ルシアさん。
でもこれで、公爵になったルシアさんには、誰も手出しできなくなったわ。
「マ、マダレナ。み、見事な挨拶であった……」
「陛下。恐れながら、わたしから申し上げたき〈挨拶〉は、これで終わりではありません」
「う、うむ……」
キッと、すべての礼容から外れた、凛々しく端正過ぎるわたし本来の表情を、皇帝陛下に向けた。
いや、太陽帝国のすべてに向けた。
「この才媛マダレナ!!! 必ずや〈大聖女の涙〉の働きを解き明かし、女子の子宮に収めるなどいう――、
クッッッソッ!!!!!!!!!!!!
趣味の悪い方法を用いずとも、その力を帝国の安寧ため、民の平和のために役立てることが出来るようにすると……、必ずしてみせると、お誓い申し上げます!!」
「お、おお……」
「皇家の方におかれましても、急ぎの〈お遣い〉のご用などがございましたら『ちょっと、白騎士になってよぉ~』と仰られるだけで済む世を、必ずや拓いてみせるとお約束申し上げます」
「み、見事じゃ……」
「恐れ入ります」
庭園を囲むご令嬢たちから、ちいさな拍手が起きた。
それは大きな拍手の渦となり〈陛下の庭園〉を、埋め尽くしていく。
「うむ。朕は決めたぞ……」
と、席からお立ちになられた皇帝陛下が、わたしのフォレストグリーンの瞳を真っ直ぐに、お見詰めになられた――。
687
お気に入りに追加
4,164
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
家から追い出された後、私は皇帝陛下の隠し子だったということが判明したらしいです。
新野乃花(大舟)
恋愛
13歳の少女レベッカは物心ついた時から、自分の父だと名乗るリーゲルから虐げられていた。その最中、リーゲルはセレスティンという女性と結ばれることとなり、その時のセレスティンの連れ子がマイアであった。それ以降、レベッカは父リーゲル、母セレスティン、義妹マイアの3人からそれまで以上に虐げられる生活を送らなければならなくなった…。
そんなある日の事、些細なきっかけから機嫌を損ねたリーゲルはレベッカに対し、今すぐ家から出ていくよう言い放った。レベッカはその言葉に従い、弱弱しい体を引きずって家を出ていくほかなかった…。
しかしその後、リーゲルたちのもとに信じられない知らせがもたらされることとなる。これまで自分たちが虐げていたレベッカは、時の皇帝であるグローリアの隠し子だったのだと…。その知らせを聞いて顔を青くする3人だったが、もうすべてが手遅れなのだった…。
※カクヨムにも投稿しています!
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
妹に婚約者を取られましたが、辺境で楽しく暮らしています
今川幸乃
ファンタジー
おいしい物が大好きのオルロンド公爵家の長女エリサは次期国王と目されているケビン王子と婚約していた。
それを羨んだ妹のシシリーは悪い噂を流してエリサとケビンの婚約を破棄させ、自分がケビンの婚約者に収まる。
そしてエリサは田舎・偏屈・頑固と恐れられる辺境伯レリクスの元に厄介払い同然で嫁に出された。
当初は見向きもされないエリサだったが、次第に料理や作物の知識で周囲を驚かせていく。
一方、ケビンは極度のナルシストで、エリサはそれを知っていたからこそシシリーにケビンを譲らなかった。ケビンと結ばれたシシリーはすぐに彼の本性を知り、後悔することになる。
婚約破棄され家を出た傷心令嬢は辺境伯に拾われ溺愛されるそうです 〜今更謝っても、もう遅いですよ?〜
八代奏多
恋愛
「フィーナ、すまないが貴女との婚約を破棄させてもらう」
侯爵令嬢のフィーナ・アストリアがパーティー中に婚約者のクラウス王太子から告げられたのはそんな言葉だった。
その王太子は隣に寄り添う公爵令嬢に愛おしげな視線を向けていて、フィーナが捨てられたのは明らかだった。
フィーナは失意してパーティー会場から逃げるように抜け出す。
そして、婚約破棄されてしまった自分のせいで家族に迷惑がかからないように侯爵家当主の父に勘当するようにお願いした。
そうして身分を捨てたフィーナは生活費を稼ぐために魔法技術が発達していない隣国に渡ろうとするも、道中で魔物に襲われて意識を失ってしまう。
死にたくないと思いながら目を開けると、若い男に助け出されていて……
※小説家になろう様・カクヨム様でも公開しております。
【完結】婚約破棄されたユニコーンの乙女は、神殿に向かいます。
秋月一花
恋愛
「イザベラ。君との婚約破棄を、ここに宣言する!」
「かしこまりました。わたくしは神殿へ向かいます」
「……え?」
あっさりと婚約破棄を認めたわたくしに、ディラン殿下は目を瞬かせた。
「ほ、本当に良いのか? 王妃になりたくないのか?」
「……何か誤解なさっているようですが……。ディラン殿下が王太子なのは、わたくしがユニコーンの乙女だからですわ」
そう言い残して、その場から去った。呆然とした表情を浮かべていたディラン殿下を見て、本当に気付いてなかったのかと呆れたけれど――……。おめでとうございます、ディラン殿下。あなたは明日から王太子ではありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる