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14.貴族令嬢のお遊びではなく
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悩みに悩んだ末、フリアを先に休ませた深夜、
ベアトリスをベッドに誘った。
「……私、マダレナとそういう関係になるつもり、ないんだけど?」
と、怪訝な顔をして、自分の胸を抱くベアトリス。
「バ、バカ! なに勘違いしてるのよ。……ほかに内緒話できそうな場所が、分からないのよ」
「内緒話?」
「入ったばかりの宿舎だし、外は夜の山だし……、一緒に布団かぶるくらいしか思い付かなかったの!」
「ふふふふふふふふ」
「な、なによ?」
「お任せください、ご主人様。すでに、内緒話スポットは見付けております」
「うそ、すごい」
「出来る侍女ですので」
と、案内してくれたのは、自習室を裏手に抜けた踊り場。
正面は断崖絶壁で、左右には石壁。
「おそらく、自習室は後から増築したもの。そのときに、この妙な空間ができたのではないかと」
「よく見付けたわね」
「出来る侍女ですから」
とはいえ、一応あたりを警戒して、ふたりでしゃがみ込み、ロレーナ殿下からおうかがいした話を、
ベアトリスに、ひそひそと聞いてもらった。
――第2皇子アルフォンソ殿下は、マダレナ・オルキデアに惚れている。
という話は、おそらく帝国の最高機密と言ってもいいんじゃないかと思う。
だけど、どうしてもひとりでは抱えきれなかったのだ。
ベアトリスは、うんうんと穏やかな調子のまま黙って聞いてくれた。
そして、
「現実感はないけど、違和感もないわね」
と、顔色を変えることなく、わたしに囁いた。
「そ、そう?」
「ええ。これまでアルフォンソ殿下が…………、ねえ」
「な、なに?」
「……暗号とか使う? 万一、誰かに聞かれてもいいように」
「たとえば?」
「うーん、アルちゃん……、とか?」
「……壊滅的にセンスないわね。バレバレじゃない」
「じゃあ、マダレナが考えてよ」
「うーん、珊瑚……、で、どう?」
「珊瑚?」
「コーラルよ。殿下にいただいたドレスの色」
「……なんだ」
「なによ?」
「マダレナも惚れてるんじゃない」
「正直……」
「うんうん、なになに」
と、ワクワクと目を輝かせて、わたしの顔をのぞき込むベアトリス。だけど、
「それは今、どっちでもいい」
「どっちでも?」
「……話が大きすぎて、ついていけてないってのが正直な感想で、わたしの気持ちとか、後からなんとでも折り合いつけるから、まずは落ち着きたいの」
「ふふっ。そっか」
「うん」
「じゃあさ、とりあえず大好きな教授と大好きな学問に、没頭するしかないんじゃない?」
「……うん」
「結局さ」
「うん」
「この環境を与えてくださったのも、アル……、いや、珊瑚な訳じゃない?」
「うん」
「で、学問に打ち込むことも、珊瑚のお望みに叶う訳じゃない?」
「う、うん……」
「……マダレナは新家を興して、帰れる実家もなくなっちゃった訳だしさ」
「正直、それはモヤモヤしてる」
「ん?」
「わたしの退路を断たれたみたいで」
わたしが、いちばん引っかかっているところだ。
もちろん、姓を賜り新家の当主になるなど、光栄なことこの上ない。
だけど、わたしが断りにくくするように、権力を使って孤立させられたような気もしてしまうのだ……。
「ふふっ。外戚ね」
「外戚?」
「珊瑚の妃の実家が王国侯爵家では、正直、弱過ぎるわ」
「あっ……。うん、そうね……」
「それなら、姓を下賜された王太后陛下が実質的な後見人になられる形の方がマダレナを護れるし、……もしマダレナが珊瑚の求婚を断っても、王太后陛下の庇護下に置くって宣言してくださっているのよ」
「……そうか」
「帝国での母親になるって仰ってくださったのは、そういう意味もあると思うわ。私はね」
「いや、わたしも、ベアの解釈の方が正しいと思った」
と、コソコソたくさん相談に乗ってもらい、これまでの出来事をつなぎ合わせていった結果、
――第2皇子、たぶん、めっちゃ惚れてる。
というのが、ふたりの結論になった。
「でも、マダレナ。こんな大切な話、私なんかに打ち明けて良かったの?」
「うん……、珊瑚にはロレーナ殿下と王太后陛下がいらっしゃるけど……、わたしには、ベアしかいないのよ……」
「そっか」
「ごめんね。なんだか、面倒なことに巻き込んで」
「ううん。信頼してくれて嬉しいわ」
と、ベアトリスの美しい微笑みが、朝のひかりに照らされた頃、
わたしの心はすっかり落ち着きを取り戻していた。
やっぱりベアトリスは頼れる侍女様で、ただひとりの親友だ。
「でも、勝手な話よね」
「え?」
「惚れたから、惚れられるに相応しい地位まで昇ってこいだなんて」
「ほんと、それ」
と、ふたりで眉間にしわを寄せ合って、クククッと笑った。
「マダレナ。こんこんと説教してやれるところまで、はやく出世しないとね」
「どんな恋バナよ」
「でも、こうなったら珊瑚から直接話を聞かないと、気が済まなくなってるでしょ?」
「それも、そう」
と、ベアトリスに指をさし、そっと辺りをうかがいながら、自室に戻った。
Ψ
「えへへ……」
「あはは」
と、ロレーナ殿下とふたり、まぬけに笑い合った。
わたしに接触するための口実としての家庭教師。
「前日の午後にビビアナ教授から習ったことを、そのまま教えてくれ」
と、仰られたロレーナ殿下だけど、
ビビアナ教授の個人講義は、今日の午後からなのだ。
つまり、今日の午前中は、まだお話しできることが何もない。
仕方ないので、わたしの卒業論文についてご説明させていただくことにした。
「そうか、お茶して雑談するだけでも良かったのだが、マダレナは真面目だな」
と、ロレーナ殿下は笑われて、
講義というには拙い、学生の発表のようなわたしの話を、うんうんと聞いてくださる。
だけど、突然、キリッと真剣な表情をされた。
「いまのところを、もう一度、頼む」
「あ、はい……。わたしの卒業研究の本題からは外れるのですが……」
「ああ」
「……ビビアナ・ナバーロ教授の構築された〈魔鉄制御理論〉いわゆるナバーロ法の応用によって、残存する魔導具から魔力を分離させられる可能性が導き出されます」
「……うむ」
「分離させたところで活用できる魔導師が、すでに世界から失われているので、理論上のお遊び、実現できたところで無駄な技術でしかありませんが……」
「これか……、兄上が見付けられたのは……」
「え?」
「……さすがアルフォンソ兄上。これを見落とさないとは……」
「あの……」
「うむ。講義をつづけてくれ。実に興味深い」
「はっ……、ありがとうございます」
そして、ロレーナ殿下はわたしの卒業論文〈魔鉄でつくるパン釜が、美味しいパンを焼ける可能性〉について、最後まで熱心に聞いてくださった。
Ψ
それから、午後にビビアナ教授の講義を受け、宿舎に戻って復習してまとめ、
翌日の午前にロレーナ殿下に講義……、というか報告する毎日が始まった。
「キミの侍女は……、すごいな」
と、ビビアナ教授が仰られたのは、そんな日々が始まって5日目のことだ。
乱雑だった教授の研究室を、ベアトリスとフリアのふたりが、きれいに掃除してしまったのだ。
「なにが、どこにあるのか良く分かる」
「恐れ入ります」
と、すまし顔で頭をさげるベアトリス。
スッキリした表情をしてるのはフリアも同じ。
わたしに講義するたび、全部をひっくり返す教授に我慢できなくなっていたのだ。
「お礼に、家政学の教授に推薦状を書いてやろう」
「ええっ!?」
「ボクがマダレナ嬢に講義してる間、ふたりとも暇だろう? 学都で家政学を修めたとなれば、侍女として箔がつく」
「あ、ありがとうございます」
と、恐縮した様子であたまを下げる、ベアトリスとフリア。
ビビアナ教授も目を輝かせながらペンを走らせる。
「貴族令嬢がお遊びでやるヤツではなく、本気の家政学が学べるように推薦状を書いておく」
「こ……、光栄にございます」
「せっかく学問以外にとりえのない、こんな山奥まで来たんだ。しっかり学んで帰ればいい」
「ゆ、夢みたいですぅ~~~」
と、泣き出したフリアの頭を、よしよしと撫でた。
とりあえずアルフォンソ殿下とのことは、いったん脇に置いておける、充実した日々が始まった。
Ψ
そんなある日――、
ロレーナ殿下のもとに訪れると、見覚えのない女性が、殿下の側に立っていた。
生気を感じられない白い肌、
真っ白な髪、いや、白いというより色のない髪の毛、
そして、燃えるような赤色をした紅蓮の瞳――、
ロレーナ殿下が、女性の肩をポンポンと叩かれた。
「紹介しておこう。白騎士のルシアだ」
「ルシア・カルデロンです」
と、かるく会釈してくださる、白銀と黒で出来た、魔鉄製の精緻な鎧に身を包んだ女性。
帝国の最高戦力、白騎士様のおひとりが、わたしに親しげに笑いかけてくださっていた。
「あ……、マダレナ・オルキデアです。お目にかかれて光栄です」
白騎士――、
世界に残存する希少な魔導具〈大聖女の涙〉を、子宮に埋め込むことで膨大な魔力を得る、
世界で6人だけの、魔導戦士。
非人道的ともいえる人体改造を受け入れて、その身を帝国に捧げる至高の存在。
物語のなかでしか知らない戦乙女が、わたしに微笑みかけていた。
そして、
「マダレナの研究には、ルシアたちを救う可能性が秘められているのだ」
と、ロレーナ殿下が真剣な表情で仰られるのを、
わたしはまたしても、呆然として聞いていた――。
ベアトリスをベッドに誘った。
「……私、マダレナとそういう関係になるつもり、ないんだけど?」
と、怪訝な顔をして、自分の胸を抱くベアトリス。
「バ、バカ! なに勘違いしてるのよ。……ほかに内緒話できそうな場所が、分からないのよ」
「内緒話?」
「入ったばかりの宿舎だし、外は夜の山だし……、一緒に布団かぶるくらいしか思い付かなかったの!」
「ふふふふふふふふ」
「な、なによ?」
「お任せください、ご主人様。すでに、内緒話スポットは見付けております」
「うそ、すごい」
「出来る侍女ですので」
と、案内してくれたのは、自習室を裏手に抜けた踊り場。
正面は断崖絶壁で、左右には石壁。
「おそらく、自習室は後から増築したもの。そのときに、この妙な空間ができたのではないかと」
「よく見付けたわね」
「出来る侍女ですから」
とはいえ、一応あたりを警戒して、ふたりでしゃがみ込み、ロレーナ殿下からおうかがいした話を、
ベアトリスに、ひそひそと聞いてもらった。
――第2皇子アルフォンソ殿下は、マダレナ・オルキデアに惚れている。
という話は、おそらく帝国の最高機密と言ってもいいんじゃないかと思う。
だけど、どうしてもひとりでは抱えきれなかったのだ。
ベアトリスは、うんうんと穏やかな調子のまま黙って聞いてくれた。
そして、
「現実感はないけど、違和感もないわね」
と、顔色を変えることなく、わたしに囁いた。
「そ、そう?」
「ええ。これまでアルフォンソ殿下が…………、ねえ」
「な、なに?」
「……暗号とか使う? 万一、誰かに聞かれてもいいように」
「たとえば?」
「うーん、アルちゃん……、とか?」
「……壊滅的にセンスないわね。バレバレじゃない」
「じゃあ、マダレナが考えてよ」
「うーん、珊瑚……、で、どう?」
「珊瑚?」
「コーラルよ。殿下にいただいたドレスの色」
「……なんだ」
「なによ?」
「マダレナも惚れてるんじゃない」
「正直……」
「うんうん、なになに」
と、ワクワクと目を輝かせて、わたしの顔をのぞき込むベアトリス。だけど、
「それは今、どっちでもいい」
「どっちでも?」
「……話が大きすぎて、ついていけてないってのが正直な感想で、わたしの気持ちとか、後からなんとでも折り合いつけるから、まずは落ち着きたいの」
「ふふっ。そっか」
「うん」
「じゃあさ、とりあえず大好きな教授と大好きな学問に、没頭するしかないんじゃない?」
「……うん」
「結局さ」
「うん」
「この環境を与えてくださったのも、アル……、いや、珊瑚な訳じゃない?」
「うん」
「で、学問に打ち込むことも、珊瑚のお望みに叶う訳じゃない?」
「う、うん……」
「……マダレナは新家を興して、帰れる実家もなくなっちゃった訳だしさ」
「正直、それはモヤモヤしてる」
「ん?」
「わたしの退路を断たれたみたいで」
わたしが、いちばん引っかかっているところだ。
もちろん、姓を賜り新家の当主になるなど、光栄なことこの上ない。
だけど、わたしが断りにくくするように、権力を使って孤立させられたような気もしてしまうのだ……。
「ふふっ。外戚ね」
「外戚?」
「珊瑚の妃の実家が王国侯爵家では、正直、弱過ぎるわ」
「あっ……。うん、そうね……」
「それなら、姓を下賜された王太后陛下が実質的な後見人になられる形の方がマダレナを護れるし、……もしマダレナが珊瑚の求婚を断っても、王太后陛下の庇護下に置くって宣言してくださっているのよ」
「……そうか」
「帝国での母親になるって仰ってくださったのは、そういう意味もあると思うわ。私はね」
「いや、わたしも、ベアの解釈の方が正しいと思った」
と、コソコソたくさん相談に乗ってもらい、これまでの出来事をつなぎ合わせていった結果、
――第2皇子、たぶん、めっちゃ惚れてる。
というのが、ふたりの結論になった。
「でも、マダレナ。こんな大切な話、私なんかに打ち明けて良かったの?」
「うん……、珊瑚にはロレーナ殿下と王太后陛下がいらっしゃるけど……、わたしには、ベアしかいないのよ……」
「そっか」
「ごめんね。なんだか、面倒なことに巻き込んで」
「ううん。信頼してくれて嬉しいわ」
と、ベアトリスの美しい微笑みが、朝のひかりに照らされた頃、
わたしの心はすっかり落ち着きを取り戻していた。
やっぱりベアトリスは頼れる侍女様で、ただひとりの親友だ。
「でも、勝手な話よね」
「え?」
「惚れたから、惚れられるに相応しい地位まで昇ってこいだなんて」
「ほんと、それ」
と、ふたりで眉間にしわを寄せ合って、クククッと笑った。
「マダレナ。こんこんと説教してやれるところまで、はやく出世しないとね」
「どんな恋バナよ」
「でも、こうなったら珊瑚から直接話を聞かないと、気が済まなくなってるでしょ?」
「それも、そう」
と、ベアトリスに指をさし、そっと辺りをうかがいながら、自室に戻った。
Ψ
「えへへ……」
「あはは」
と、ロレーナ殿下とふたり、まぬけに笑い合った。
わたしに接触するための口実としての家庭教師。
「前日の午後にビビアナ教授から習ったことを、そのまま教えてくれ」
と、仰られたロレーナ殿下だけど、
ビビアナ教授の個人講義は、今日の午後からなのだ。
つまり、今日の午前中は、まだお話しできることが何もない。
仕方ないので、わたしの卒業論文についてご説明させていただくことにした。
「そうか、お茶して雑談するだけでも良かったのだが、マダレナは真面目だな」
と、ロレーナ殿下は笑われて、
講義というには拙い、学生の発表のようなわたしの話を、うんうんと聞いてくださる。
だけど、突然、キリッと真剣な表情をされた。
「いまのところを、もう一度、頼む」
「あ、はい……。わたしの卒業研究の本題からは外れるのですが……」
「ああ」
「……ビビアナ・ナバーロ教授の構築された〈魔鉄制御理論〉いわゆるナバーロ法の応用によって、残存する魔導具から魔力を分離させられる可能性が導き出されます」
「……うむ」
「分離させたところで活用できる魔導師が、すでに世界から失われているので、理論上のお遊び、実現できたところで無駄な技術でしかありませんが……」
「これか……、兄上が見付けられたのは……」
「え?」
「……さすがアルフォンソ兄上。これを見落とさないとは……」
「あの……」
「うむ。講義をつづけてくれ。実に興味深い」
「はっ……、ありがとうございます」
そして、ロレーナ殿下はわたしの卒業論文〈魔鉄でつくるパン釜が、美味しいパンを焼ける可能性〉について、最後まで熱心に聞いてくださった。
Ψ
それから、午後にビビアナ教授の講義を受け、宿舎に戻って復習してまとめ、
翌日の午前にロレーナ殿下に講義……、というか報告する毎日が始まった。
「キミの侍女は……、すごいな」
と、ビビアナ教授が仰られたのは、そんな日々が始まって5日目のことだ。
乱雑だった教授の研究室を、ベアトリスとフリアのふたりが、きれいに掃除してしまったのだ。
「なにが、どこにあるのか良く分かる」
「恐れ入ります」
と、すまし顔で頭をさげるベアトリス。
スッキリした表情をしてるのはフリアも同じ。
わたしに講義するたび、全部をひっくり返す教授に我慢できなくなっていたのだ。
「お礼に、家政学の教授に推薦状を書いてやろう」
「ええっ!?」
「ボクがマダレナ嬢に講義してる間、ふたりとも暇だろう? 学都で家政学を修めたとなれば、侍女として箔がつく」
「あ、ありがとうございます」
と、恐縮した様子であたまを下げる、ベアトリスとフリア。
ビビアナ教授も目を輝かせながらペンを走らせる。
「貴族令嬢がお遊びでやるヤツではなく、本気の家政学が学べるように推薦状を書いておく」
「こ……、光栄にございます」
「せっかく学問以外にとりえのない、こんな山奥まで来たんだ。しっかり学んで帰ればいい」
「ゆ、夢みたいですぅ~~~」
と、泣き出したフリアの頭を、よしよしと撫でた。
とりあえずアルフォンソ殿下とのことは、いったん脇に置いておける、充実した日々が始まった。
Ψ
そんなある日――、
ロレーナ殿下のもとに訪れると、見覚えのない女性が、殿下の側に立っていた。
生気を感じられない白い肌、
真っ白な髪、いや、白いというより色のない髪の毛、
そして、燃えるような赤色をした紅蓮の瞳――、
ロレーナ殿下が、女性の肩をポンポンと叩かれた。
「紹介しておこう。白騎士のルシアだ」
「ルシア・カルデロンです」
と、かるく会釈してくださる、白銀と黒で出来た、魔鉄製の精緻な鎧に身を包んだ女性。
帝国の最高戦力、白騎士様のおひとりが、わたしに親しげに笑いかけてくださっていた。
「あ……、マダレナ・オルキデアです。お目にかかれて光栄です」
白騎士――、
世界に残存する希少な魔導具〈大聖女の涙〉を、子宮に埋め込むことで膨大な魔力を得る、
世界で6人だけの、魔導戦士。
非人道的ともいえる人体改造を受け入れて、その身を帝国に捧げる至高の存在。
物語のなかでしか知らない戦乙女が、わたしに微笑みかけていた。
そして、
「マダレナの研究には、ルシアたちを救う可能性が秘められているのだ」
と、ロレーナ殿下が真剣な表情で仰られるのを、
わたしはまたしても、呆然として聞いていた――。
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