最上の番い

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最上の番い

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足元で、からからと枯れ葉が踊っている。俺は御子柴とともに、庭のベンチに腰掛けていた。手入れするものがいなくなった庭は荒れている。許そうとは微塵も思わないが、あの男の庭仕事の腕は本物だった。御子柴は上着の襟を立ててつぶやいた。

「七瀬がテロリストの一員だったなんて、信じられん話だな」
「ああ……」

信じられないのは、赤の教団がまだいるということだ。俺は、そのうちの一人を捕まえたにすぎない。これで、七瀬が浮かばれるとはとても思えなかった。うつむいている俺の背中を、御子柴がぽんと叩いた。
「おまえはよくやったよ」
「御子柴……」
御子柴は微笑んで、ベンチから立ち上がって伸びをする。
「あー、俺は元の世界に帰るとするか」
「アドラスが寂しがるな」
おそらく、御子柴自身も思うところがあったのだろう。彼は少し困ったような顔をしてみせた。
「……優秀な刑事が二人もいっぺんにいなくなったら、困るだろ?」
御子柴はそう言って、片手をあげて去っていった。20分後、血相を変えた御子柴がこちらに駆けてきた。

「おい、帰れないぞ! どうなってるんだっ」
「ああ……なんかそんな気がした。俺もそうだったし」
御子柴は頭を抱えて叫ぶ。
「どういうことだ、機械の故障か!? これだから非文明社会は!」
「大事な人がいると帰れないんだと」
その言葉に、御子柴がフリーズした。彼の顔が、みるみるうちに真っ赤になる。
「ば、馬鹿な……俺にはそんな趣味はない! しかもあんな、変態騎士団長を」
「アドラスとは言ってないが」
「うわーっ」
発狂している御子柴の声を聞きつけたのだろう。近づいてきたアドラスが、彼の肩を抱き寄せた。
「なに騒いでるんだ、ミコシバ」
「ぎゃあっ、俺に近寄るな!」
「おっ、鬼ごっこか。いい訓練になる」
真っ赤になって逃げる御子柴を、アドラスが楽しそうな表情で追いかける。にぎやかだな、あいつら。ふと、ベンチの背もたれに止まった蝶に気づく。俺はそっと蝶に触れようとしたが、指の間をすり抜けて、大空に飛んでいった。

後日、新しい園丁がやってきた。シエルは反省の意を汲まれ、園丁見習いとして働くことになった。園丁は先任に似てぶっきらぼうな男で、必要なこと以外は一切話そうとしなかった。ただアルファなので、赤の教団の可能性は皆無らしい。シエルは必死になって彼の後ろを追いかけていた。そして、更にその後ろを行くのがまるだった。庭が見違えるようにきれいになっていくのは、俺にとっても喜ばしいことだった。老人は赤の教団のことを一切吐かず、獄中で亡くなったらしい。殺してやろうとすら思った人間の死でも、やはり気分が沈むものだ。結局俺は、あの男の名前すら知ることはなかった。

真実を知ったニールは、静かに「そうか」とだけ言った。感情を読み取りにくい瞳が、悲しみの色に染まっているのがわかって、俺はニールを抱きしめた。ニールのせいではない。亡くなった彼の両親を責めても遅い。だから、俺達は七瀬のために悲しむしかなかった。
俺は自室の書斎机の引き出しに拳銃をしまい、鍵をかけた。二度とこれを使うときがないよう、願っている。
ふと、廊下が騒がしいので部屋を出ると、ニールの伴たちが騒いでいた。俺は彼らに近づいていって声をかける。

「なに騒いでるんだ?」
「陛下がいらっしゃらないのです」
「またかよ……仕方ないな。俺が見つけてくる」
「どこにいるかわかるのですか?」
「だいたいな」

ニールは一つのところにいるのが苦手だ。まるで蝶みたいに飛び回る。優雅で気まぐれなくせに、時々獰猛な獣みたいな俺の番い。俺は目を閉じて、空気を吸い込んだ。匂いがする。俺を欲情させる強い匂いが。
俺は小部屋のドアノブに手をかけて、戸を開いた。ニールは長椅子にもたれて寝息を立てていた。長いまつげが揺れている。少し開いた唇と、真っ白な首筋が俺の欲を刺激する。手にした本が落ちそうになっていたので、そっと抜き取った。長椅子の肘置きに腰をおろして、ページをめくる。ニールに字を教わったおかげで、ここに来たばかりのときよりは読めるようになった。俺が本を読んでいると、伸びてきた手がページを押さえた。色素の薄い瞳がこちらを見つめている。

「起きてたのかよ」
「ああ……匂いがした。おまえ、興奮しているだろう」
ニールはページを押さえていた手で俺の腕を掴み、胸元に引き寄せた。その拍子にばさりと音を立てて本が落ちる。俺は近づいてきたニールの唇を指で止めた。
「行かないとヤハウェに怒られるぜ」
「慣れているから構わない」
ニールはそう言って、俺の首筋に顔を埋めた。こいつになにか言ったところで、暖簾に腕押しなのだろうな。ヤハウェが気の毒になったが、首筋に噛みつかれると、何も考えられなくなった。上を脱ぐのが面倒で、ズボンと下着だけを雑な動作で脱いだ。長い指先がするりと双丘を割り開き、俺の中を探る。俺は彼の首に腕を回し、吐息を漏らす。
「――先輩」
耳元で響いたニールの声に、俺はびくりと震えた。

「い、ま、なんて言った」
「御子柴が言っていた。弟はおまえのことをそう呼んでいたと、だから、どんな反応をするのか試しに呼んでみた」
「そんな悪趣味なこと、試すなよ」
「マンネリはよくないらしい。これはアドラスが言っていた」
そんなこと聞かなくていいのに。だいたい、あいつらは他人にかまってないで、自分のことをなんとかしろよ。ニールがまた先輩、と囁いてきた。指を受け入れている部分が収縮し、俺が喉を鳴らすと、ニールが目を細めた。
「たしかに、反応がよくなったな」
「ん、なってない、あっ」
ぐちゅぐちゅと中をかき回されて、俺は背中をそらした。

「私と弟、どっちが好きだ。言え」
「馬鹿、そんなの……」
「即答できないのか。ひどいな」
ニールの声が不機嫌な色に染まった。仕方がないだろう。俺にとってはどちらも大切な存在なのだ。
「先輩、俺と兄さん、どっちが好きですか?」
口調も声も七瀬にそっくりで、頭の中が熱くなる。どうして、こんなに再現度が高いんだ。こんなところで、無駄に才能を発揮するな。
「好きの種類が違うって、ん」
「じゃあ、俺にはいかされないってことですよね?」

ニールの頭が脚の間に埋まって、俺の性器を口内で包み込んだ。舌で先端を舐め回し、彼がささやく。
「いきたかったらいっていいですよ、先輩」
「や、めろ、七瀬」
今目の前にいるのはニールのはずなのに、唇からは七瀬の名前がこぼれ落ちた。達した俺の中から指を引き抜き、ぐいっと脚を持ち上げた。そのまま突き入れられて、俺は高い声を上げる。
「先輩、中がぎゅうぎゅう締まってますよ。そんなに俺に犯されたかったんですね」
「アホ、ん、う……」
唇を塞がれて、断続的に突き上げられる。扱き上げられて、俺は簡単に達した。ニールは白濁に濡れた指をかざす。
「随分イクのが早いな」
「……知るか、あ、あっ」
上から突き上げられた。
「イイですか、先輩」
「先輩、って呼ぶのやめろよ」
「興奮しているくせに」
そのとおり、俺は興奮していた。まるで、七瀬とニールに同時に犯されているみたいだった。俺はニールの襟首にしがみついた。
「七瀬、いって、俺の中に、出して……」
がくがくと揺さぶられて、奥に白濁が溢れた。

俺はぼんやりと、ニールの胸に頭をもたせかけていた。白濁で汚れた下半身が気持ちが悪い。ニールは俺を抱きかかえ、童謡のような歌を歌っている。なんの歌かと尋ねたら、色恋の歌だと返ってきた。しかも、よくよく聞くと内容がえぐい。あの春画といい、こいつの趣味はどうなっているんだ……。
ニールの手が俺の腹を撫でる。その部分がじんわりと熱くなった気がした。
「早く私の子を産め、セイジ」
「お前が真面目に働いたらな」
そう言ったら、ニールが心外そうに眉をひそめた。
「私は真面目だ」
どの口が言ってんだ。呆れている俺に、ニールが唇を重ねてくる。彼の背後にある窓の向こうは、青く澄み渡っていた。

おわり

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