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さみしい天使※
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「お世話になりました」
修道院を去る日、私は修道院長室で頭を下げていた。手には鞄を持っている。修道院長さまは、私をじっと見たあと、瞳を緩めた。
「思い出すわね」
「え?」
「最初にあなたがここにきた時のこと。少し緊張していて、とても可愛らしかったわ」
「シスターになる以外のことは、考えていませんでした」
自分には身寄りがなかった。修道院だけが心の拠り所だと思っていた。そして将来、ここを去るなんて思ってもいなかった。
「元気でね」
「はい」
修道院長室を出ようとしたら、背後から声をかけられた。
「坂口杏樹さん」
振り向くと、修道院長さまが十字を切った。
「あなたに神のご加護を」
「ありがとうございます」
修道院長室を出たら、同僚のシスターたちが紙袋を渡してきた。
「クッキーとお花です」
「ありがとうございます」
紙袋を受け取り、門に向かって歩き出す。門をくぐると、龍二が車にもたれて待っていた。例の、いかにもヤクザといわんばかりの、黒塗りの車ではない。そして、ダークスーツではなく洋服で、サングラスもしていなかった。彼は私が持っている紙袋に目をやって、
「なにそれ」
「クッキーだそうです。お花もいただきました」
「非難とかされねえんだな」
「はい。みんな家族のようなものですから」
「いいな」
龍二はそう言って目を細めた。
「龍二さん、ご家族は」
「いるけど、どこにいるかよくわかんねえ。高校出て、すぐ組に部屋住みし始めたから、それ以来会ってねえんだ」
つまりは絶縁状態ということか。
「……すいません」
私が目を伏せたら、龍二が不思議そうにこちらを見た。
「なんで謝るんだよ」
「龍二さんにとったら、組の人たちが家族だったんですよね」
もしかして、龍二は組をやめたのを後悔しているのではないかと思った。
「あそこしか居場所がなかったからな、俺には」
私が見上げたら、龍二はふっ、と笑い、ドアを開けた。
「乗れよ。なんか食いに行こうぜ」
私ははい、と言って、助手席に乗り込んだ。
☆
龍二が私を連れて行ったのは、以前来た路地裏の喫茶店だった。
「ねえ、あの人カッコよくない?」
ひそひそ声に目を向けたら、窓際の席に座っている女の子たちがこちらを見ていた。その視線は龍二に注いでいる。
「杏樹?」
声をかけられ、はっとする。
「あ、はい」
「注文決まったか」
「ええ」
龍二は手を挙げて店員を呼ぶ。注文を終えて、水を飲む。私はじっとその様子を見た。この人、かっこいいんだ。視線を感じたのか、切れ長の瞳がこちらを向いた。
「なんだよ」
「いえ。そういう格好をしていたら、普通の人に見えますね」
「もう普通の人だけどな」
龍二は懐からスマホを取り出して、見始めた。私は少しだけむっとする。話してるのに、携帯を出すなんて。手持ち無沙汰になった私は、メニューをパラパラとめくった。
「お待たせいたしました」
しばらくして、オムライスが運ばれてくる。龍二はスマホを見ながら、オムライスを食べ始めた。一口が大きい。私は思わず口を挟んだ。
「あの」
「あ?」
「食べる時は、スマホを見ない方がいいと思います」
「なんで」
「なんでって……」
私と一緒にいるのに、スマホばっかり見ないでください──そんなこと言えない。それじゃ、まるで携帯に嫉妬してるみたいじゃないか。
「お行儀が悪いです」
「おまえさ、学生の時学級委員だったろ」
「なんでわかるんですか」
「言い方がまるっきり学級委員だし。遊んでないで掃除してください! とか言ってそう」
声色を変えてみせた龍二にむっとする。
「あなたは掃除をサボってお喋りばかりしてる男子だったんでしょうね」
「掃除なんてやりたいやつがやればいいんだよ」
龍二は話しながらもスマホから目を離さない。私はますますむっとした。運ばれてきたパスタを黙々とすすっていたら、龍二がスマホを向けてきた。
「なんですか」
「いーから食ってろよ」
不可解に思いながらパスタをすすっていたら、パシャ、という音がした。そうして、こちらに画面を向けてくる。画面には、不機嫌そうにパスタをすすっている私が映っていた。
「見ろ、すげえ眉間にシワ」
私は赤くなり、くくく、と笑う龍二をにらんだ。
「そんな写真、消してください」
「気にしないで早く食えよ。のびるぞ」
彼は素知らぬ顔でパスタを指差す。しかもまたスマホに目を向ける
なんなの、一体。私は彼から視線を背け、眉をしかめてパスタをすすった。
☆
「あー、食った食った」
店を出た龍二は伸びをして、
「じゃ、うち行くか」
「はい」
車に乗り込んみ、龍二のマンションへと向かう。お邪魔します、と言って靴を脱いだら、おまえんちだろ、と笑われた。今日からここに住むのだと思うと、なんだか不思議だ。
「なんかいるもんあるか」
「とりあえず、夕飯の買い出しをしないと」
お米すらなかったことを思い出しつつ、そう言う。
「ああ、そっか。じゃあスーパー行くか?」
「はい」
すると、彼の懐にある携帯が鳴り始めた。
龍二は携帯を取り出し、耳に当てた。
「はい、阿久津です」
パッと表情を変えて、
「マジですか? はい、すぐに行きます」
慌てて車のキーを掴み、
「悪い、用事できた。すぐ戻るから、テレビでも見て待ってろ」
「え、あ」
素早く玄関から出て行った。私はポカンとしながら彼を見送る。手持ち無沙汰になった私は、リビングのソファーに腰掛けてテレビをつけた。
修道院では、こんな時間からのんびりしていることはまずない。なんとなく落ち着かない気分でいた私は、足元に置かれている紙袋に目をやった。なんだろう、これ。
「!」
袋の中には、シスター服を着た女性が、縛られているパッケージのDVDがあった。これはまさか。男性が好む、いやらしいビデオではないだろうか。
「こ、こんなものを堂々と置いておくなんて!」
何枚かあったが、全て同じようなパッケージだった。
しかし、なぜシスターなのだろう。思い当たる理由は一つしかなくて、私は真っ赤になった。
急いでDVDを紙袋に戻し、座り直す。意識しないよう、テーブルの上に置かれていた雑誌をパラパラとめくった。お酒の雑誌で、私にはよくわからない。
雑誌を閉じた私は、ちら、と紙袋を見て、再び手を伸ばした。
☆
玄関のドアが開閉する音がして、私はびくりとした。龍二が部屋に入ってくる。
「お、お帰りなさい」
私は、膝の上にある自分の両手に視線を落としながら言った。まともに顔が見られない。
「おまえ顔赤いぞ。大丈夫か」
「大丈夫です。どこに行ってたんですか?」
「仕事先決まったから、挨拶しに」
「えっ」
私は目を見開いた。
「そ、そんなすぐに、決まったんですか?」
「ああ。高校んときの先輩がバーやってんだけど、欠員が出たって言うから」
「おめでとうございます」
「ああ」
龍二はそう言って、頭を掻いた。
「で、今日の夜から出勤なんだよ。覚えること多いから、早く来いって言われてて。飯買ってきたから」
「龍二さんは」
「まかない出るから、店で食う。買い物は明日な」
彼はビニール袋をテーブルの上に置き、私の頭を撫でた。
「鍵、ちゃんと閉めろよ」
そう言って、再び玄関へと向かう。
「行ってらっしゃ……」
言い切る前に、扉が閉まった。
☆
その夜、私はベッドに座って龍二の帰りを待っていた。しかし、一向にドアが開く気配はしない。9時で寝る習慣の私には、深夜まで起きているのは辛い。うとうとと頭を揺らし、ベッドに倒れた。
翌朝、私は午前6時に目を覚ました。鍵が開閉する音のあとに、龍二が部屋に入ってくる。こんな時間まで仕事をしていたのか。彼はふらふらベッドの方へやってきて、私に抱きついた。
「ただいま」
「お帰りなさい」
私は龍二の背中を撫でた。それから、癖のない黒髪を撫でる。髪の毛、さらさらだ。龍二はされるがままになっていたが、目を閉じてつぶやいた。
「ねる」
「お風呂、入らないと」
「あした、はいる」
すぐさま寝息が聞こえてきた。疲れてるんだな。私は彼を起こさないよう、そっとベッドを離れた。近くのドラッグストアに行き、冷凍食品などを買ってきた。生野菜はあまり手に入らなかったのが残念だ。龍二が起きてきたのは、午後になってからだった。私はエプロンをつけながら言う。
「おはようございます」
「ん」
まだ寝ぼけているのか、目がトロンとしている。
「お風呂入りますか? 温めますが」
浴室に向かおうとしたら、龍二が後ろから抱きしめてきた。甘えるような声で言う。
「一緒に入ろう、杏樹」
「私は昨日入りましたから」
「ケチ」
なにがケチなのだろう。龍二は着替えを持って、ノロノロと浴室へ向かった。三十分たっても大丈夫だろうか。溺れてないだろうか。そっと浴室を覗くと、案の定龍二は船を漕いでいた。
「龍二さん、こんなところで寝たらダメです」
「ん」
私は龍二の腕を引っ張って浴室から出した。身体を拭くよう促していたら、龍二が私の胸元に手を這わせた。
「エプロン、かわいい」
「ちょ、龍二、さ」
胸を揉みしだかれたせいで、エプロンがしわくちゃになる。彼の手に翻弄されて、私はだんだん息を切らしていく。
「裸エプロン見たい」
「なに変なこと言ってるんですか、んっ」
龍二は私に口付けながら、身体を撫で回した。昨日見たビデオのことを思い出すと、身体がじわっと熱くなった。龍二は私のズボンのホックを外して、中に手を滑りこませた──が、唐突にその手が止まる。私は龍二を見上げた。
「龍二、さん?」
龍二は私の肩に顎を乗せて、すやすや寝息を立てていた。
☆
再び夢の世界へ旅立った龍二が起き出したのは、それから5時間後だった。私はあり合わせで夕飯を作り、死んだように寝ている龍二の肩を揺らした。
「龍二さん、晩御飯です」
「ん」
龍二はぼんやり目を開き、
「今何時」
「午後6時です」
「やべ、行かねえと」
慌てて起き上がった。着替えて玄関に向かう龍二を追いかける。
「ごはんは」
「明日食うから、冷蔵庫入れといて。先寝てろよ」
彼はそう言って、玄関を出て行った。ひとり残された私は、台所に向かい、龍二の分にラップをかけた。私はテレビを見ながら、一人で食事をする。なんだか味気ない。自転車で旅をする、という番組を目にしてつぶやいた。
「自転車を買おうかな」
龍二は忙しそうだし、車の免許を持ってない私の足になりそうなのは、自転車くらいしかなかった。明日、近くに自転車屋さんがないか調べよう。
☆
翌朝目覚めたら、龍二が私を抱きしめて寝ていた。私はそっと彼の髪を撫でる。かすかに甘い香りがして、ぴく、と肩を揺らした。この匂い……。眉を顰めていたら、龍二が身じろぎした。こちらを見て、不思議そうな顔をする。
「なにコエー顔してんだよ」
「女の人といたんですか? 香水の匂いがします」
「ああ、客だよ。酔って抱きついてくんの」
「……抱きついて、くる?」
むっとした私の顔を見て、龍二がおかしそうに笑った。
「おまえ、妬いてんの?」
「妬いてなんかいません」
「嘘つけ。風船みたいになってるぞ」
龍二が私のほほを突く。私はその手をぐい、と退けた。
「どうせ抱きつかれてデレデレしてるんでしょう」
「まあおっぱいのでかい女なら嬉しいけど」
「最低ね」
またほほを触ろうとしてくる龍二の手を、私は避ける。龍二はくすくす笑った。
「おまえ、やっぱ懐かない猫みてえ」
彼は起き上がって、
「なあ、買い物行くか」
「でも、疲れてるんでしょう?」
「初日ほどじゃない。明日非番だしな」
龍二はそう言って、私の髪を撫でた。
「相手しないと拗ねるだろ」
「私は猫じゃありません」
私はそうつぶやいて、彼の手に自分の手を重ねた。一緒に買い物に行けるのが嬉しかった。
私は龍二と一緒に、駅前にあるデパートへと向かった。食料品や雑貨を買い込み、自転車も売っていたので、ついでにのぞいていく。ブレーキの強度を真剣に査定していたら、龍二が少し呆れ気味に言った。
「おまえ自転車好きだな」
「便利ですから」
「服とか靴とかは? ブランドショップ二階にあるぞ」
「ブランドものってよくわからないので」
「女ってみんなブランドが好きなのかと思ってたわ」
修道院に入らなければ、私も興味を持っていたかもしれない。しかし、そういうものに触れる機会がなかった。ほとんど修道女服で過ごすので、私服もあまり必要なかったし。しかし、私にだってこだわりはある。
「ブランドといえば、お味噌はマルカメって決めてます」
「それ、なんかちがわね?」
エスカレーターで二階へ上っていたら、龍二の目が、ブランドショップの店員へと向いた。綺麗な人だ。もしかして、美人の店員を見たかっただけなのでは。
「龍二さん?」
名前を呼ばれた龍二が振り向く。
「ん?」
ブランドショップから出てきた女性が、龍二に近づいてきた。ロゴマークの入った紙袋を下げている。
「やっぱり龍二さんだー」
「こんちは」
龍二も愛想よく対応している。そうして、私にこう言った。
「店のお客さん」
彼女は私に目を向け、頭を下げてきた。
「どうもー」
「こんにちは」
「彼女さんですかあ? すっごいかわいい~」
さつきの胸が揺れた。おっぱいが、おっきい……。私が彼女の胸に気をとられている間に、龍二がさつきと会話をする。
「さつきさんってこの辺住んでんの?」
「そうなの~お二人は、もしかして一緒に住んでるんですかあ?」
「ああ。そう」
龍二が頷いたら、さつきが顔を引きつらせた。
「そ、そうなんだあ~いいですねっ」
そうして、手を振って去って行った。龍二も愛想よく手を振り返している。意外と接客が向いているのかもしれないな、この人。私がちら、と見たら、龍二がなんだよ、と尋ねてきた。
「……あの人に抱きつかれたんでしょう?」
「ああ、すげえおっぱいだった」
真顔で頷いている龍二の腕をぺしりと叩く。
「いてえ。なんだよ」
「こんなところでおっぱいとか言わないでください、ハレンチな」
「おまえも言ってるし」
エスカレーターの前、マネキンが飾られているショーウィンドウに、龍二と私の姿が映った。龍二は、さつきさんみたいな、ブランドものを着てる女の人が好きなんだろうか。
その夜、夕飯の用意をしていたら、ソファに座っていた龍二の携帯が鳴った。
「はい、龍二です。……今からですか。はい、わかりました」
龍二は携帯を切って、ソファから立ち上がった。私は彼に近づいていき、どうしたんですか、と尋ねた。龍二は肩をすくめ、
「ヘルプ頼まれた。行ってくる」
「え」
「客が俺呼べってうるせえんだって。ホストクラブじゃあるまいし」
そう言いつつ、彼は出かける準備をしている。
「でも、龍二さん、今日お休みなんですよね」
「しかたねえ。先輩には恩もあるしな」
「気をつけて行ってきてください」
「うん。悪いな」
私のことはいいが、龍二の身体が心配だった。昼夜逆転生活で、休みも返上なんて。
「そんな顔すんなよ、大丈夫だから」
龍二は私の頭をひとなでして、部屋を出て行った。
☆
ひとりベッドに横たわった私は、眠れずにいた。時計の刻む音がやけにはっきりと聞こえる。さっきから何回しているかわからない寝返りを打った。壁に掛けられたエプロンが目に入る。
ふと、龍二に抱きしめられた時の温度が蘇って、吐息を漏らす。
「龍二、さ……」
私は、パジャマの中にそっと手を入れて、胸に触れた。乳房を撫でながら、乳首に触れたら、下半身が疼き出す。自分でさわるなんて。だが、どうしても、身体が熱くてたまらなかった。ショーツの中に手を入れて、花芯に触れる。
触れるたびに蜜が溢れて、下半身がじんじんと痺れていく。私はシーツを掴んで、その快感にひたすら声を漏らした。
「龍二、さん、龍二さん」
その時、ガチャ、と扉が開く音がした。私は慌てて手を引いて、寝ているふりをした。足音がして、ベッドが軋んだ。ふわりと甘い匂いがしたあとに、額にちゅ、と唇が落ちる。龍二は私の額に唇をつけたまま囁いた。
「なあ、起きてんだろ、杏樹」
私は内心どきりとして、身体を縮こませた。彼はこちらに身を寄せながら、私の指を絡め取る。
「何してたの。指濡れてんだけど」
「なにも、してません」
「うそつけ」
龍二は私のパジャマに指を忍び込ませ、乳首を撫でた。
「あ、う」
「すっごいたってる。自分で乳首いじるとか、やらしいな」
「ちがいます」
「うそついていいのかよ、シスター」
「もう、シスターじゃないです」
「そうだった」
彼は私の胸を揉みながら、ショーツの上から指を這わしてくる。
「あ」
「クリもたってる」
「たって、ませ」
「この上からでもわかる。やらしい」
龍二の指先が、花芯を押しつぶした。
彼はショーツを脱がしながら、私の身体に唇を落としていく。足の間に黒い頭が埋まって、私は喉を鳴らした。龍二は花芯を舌で突いて、
「もうぬるぬる。舐める必要ねえな」
「や、龍二、さん」
龍二の舌が、私のひだをなぞるように動く。舐められるたびにぞくぞくして、思わず黒い髪をつかんだ。龍二の舌は花芯には触れずに、その下ばかりを舐めた。もどかしくてたまらなくなる。
「龍二、さ」
「なんだよ」
「龍二さんの、します」
私がそう言ったら、龍二が目を瞬いた。
「って、やり方わかんの」
「はい」
龍二は訝しげな顔をしたあと、ハッとした。
「まさか蝶次の舐め」
「そんなわけないでしょう!」
大体なぜ蝶次が出てくるのだ。
「なんで、やり方知ってんだ」
「……あそこにあったDVDを見ました」
「まじか」
彼はギョッとしたあと、ごくりと唾を飲む。龍二のものは大きくて、口に入るかどうかわからなかった。取り敢えず、DVDで見たのをまねて、舌を動かす。
「こっち見て」
舌を這わしながら見上げたら、眉をひそめた龍二と目があった。その表情にきゅんとする。気持ちいいのかな。先端を口に含んでちゅ、と吸ったら、ぴくりと震える。
龍二は私をベッドに押し倒して、私の濡れた部分に、熱いものを擦り付けてくる。欲に濡れた眼差しで、私を見つめた。
「なあ、エロビデオ見て覚えるとか、やっぱおまえ、やらしいな」
「やらしく、ない、です」
「じゃあなんで自分でしてたんだよ、クリこんなぬるぬるにして」
長い指先が、花芯に触れた。私はびくびく震えながら龍二を見上げる。
「だ、って」
「だって?」
「龍二さん、忙しそうで、さみし、かった、から」
龍二が目を緩めた。熱いものが私の蜜口を擦る。
「ここ、さみしかった?」
「は、い」
「じゃあ、どうしてほしいか言えよ」
「いれてください」
大きなものが、ゆっくり入ってきた。間髪入れずに揺らされて、私は鳴く。
「あ、あ」
「きもちいい?」
「きもち、いい、龍二さんの、きもちいい」
「かわいい。もっとデレて」
「ぎゅって、してください」
龍二は私の身体を抱きしめて、唇を合わせた。
「杏樹、おまえのなか、すごい締まってる」
「うれしい、から」
「なんで、今日はそんなかわいいわけ」
「いつも、かわいくない、ですか」
「ツンだからな、いつも」
「龍二さん、と一緒だと、素直になれないんです」
「なんで?」
「私ばっかり、龍二さんのこと、気にしてるから、悔しいんです」
「龍二さんが、他の女のひと、見てるだけで、ヤキモチ妬いて、自分が、すごく嫌になるから」
「ヤキモチ妬いたんだ」
「は、い」
「今日のおまえ、ほんとかわいい」
龍二は私の身体を抱き上げ、動いて、と囁いた。
「え」
「もっとかわいいとこ見せて」
私は龍二の肩に手を置いて、腰をゆらした。自分の胸が揺れているのが見えて、顔が熱くなる。龍二の肩に顔を埋めた。
「どうした?」
「これ、はずかしいです」
「かわいい」
きゅん、と中が締まる。
「かわいいって言われんのすき?」
「はい」
「かわいい」
「龍二、さん」
龍二は私の胸を掴んで、乳首を吸った。
「あ、あ、胸」
「なに?」
「おっきいほうが、いいですか」
「まあ、巨乳は好きだけど」
彼は私の胸を揉みながら、笑顔を浮かべた。
「おまえの胸が、1番好き」
そんな顔するの、ずるい。きゅん、と締まった中を、龍二が突き上げてきた。
「龍二、さ、ふあ」
長い指先が花芯をいじる。
「杏樹、すきだ」
「龍二、さ、龍二さん」
私はびくびく震えた。先に、いってしまった。龍二のものはまだ大きいままだ。
「さき、行くなよ」
「龍二さんが、さわるから」
「杏樹がエロいんだろ」
「エロく、な」
龍二は私のお尻を掴んで、激しく突き上げてきた。
「あ、あ」
「もっかい、いって。俺と一緒に」
彼の首にすがりつき、私は声を震わせる。
「龍二さん、すき」
「俺もすきだ。もう、神さまのもんじゃない、杏樹が、すきだ」
「あ、あっ……」
私は再び絶頂を迎えながら、龍二のものを締め付けた。と同時に龍二が呻いて、奥に熱いものが流れ込んできた。
修道院を去る日、私は修道院長室で頭を下げていた。手には鞄を持っている。修道院長さまは、私をじっと見たあと、瞳を緩めた。
「思い出すわね」
「え?」
「最初にあなたがここにきた時のこと。少し緊張していて、とても可愛らしかったわ」
「シスターになる以外のことは、考えていませんでした」
自分には身寄りがなかった。修道院だけが心の拠り所だと思っていた。そして将来、ここを去るなんて思ってもいなかった。
「元気でね」
「はい」
修道院長室を出ようとしたら、背後から声をかけられた。
「坂口杏樹さん」
振り向くと、修道院長さまが十字を切った。
「あなたに神のご加護を」
「ありがとうございます」
修道院長室を出たら、同僚のシスターたちが紙袋を渡してきた。
「クッキーとお花です」
「ありがとうございます」
紙袋を受け取り、門に向かって歩き出す。門をくぐると、龍二が車にもたれて待っていた。例の、いかにもヤクザといわんばかりの、黒塗りの車ではない。そして、ダークスーツではなく洋服で、サングラスもしていなかった。彼は私が持っている紙袋に目をやって、
「なにそれ」
「クッキーだそうです。お花もいただきました」
「非難とかされねえんだな」
「はい。みんな家族のようなものですから」
「いいな」
龍二はそう言って目を細めた。
「龍二さん、ご家族は」
「いるけど、どこにいるかよくわかんねえ。高校出て、すぐ組に部屋住みし始めたから、それ以来会ってねえんだ」
つまりは絶縁状態ということか。
「……すいません」
私が目を伏せたら、龍二が不思議そうにこちらを見た。
「なんで謝るんだよ」
「龍二さんにとったら、組の人たちが家族だったんですよね」
もしかして、龍二は組をやめたのを後悔しているのではないかと思った。
「あそこしか居場所がなかったからな、俺には」
私が見上げたら、龍二はふっ、と笑い、ドアを開けた。
「乗れよ。なんか食いに行こうぜ」
私ははい、と言って、助手席に乗り込んだ。
☆
龍二が私を連れて行ったのは、以前来た路地裏の喫茶店だった。
「ねえ、あの人カッコよくない?」
ひそひそ声に目を向けたら、窓際の席に座っている女の子たちがこちらを見ていた。その視線は龍二に注いでいる。
「杏樹?」
声をかけられ、はっとする。
「あ、はい」
「注文決まったか」
「ええ」
龍二は手を挙げて店員を呼ぶ。注文を終えて、水を飲む。私はじっとその様子を見た。この人、かっこいいんだ。視線を感じたのか、切れ長の瞳がこちらを向いた。
「なんだよ」
「いえ。そういう格好をしていたら、普通の人に見えますね」
「もう普通の人だけどな」
龍二は懐からスマホを取り出して、見始めた。私は少しだけむっとする。話してるのに、携帯を出すなんて。手持ち無沙汰になった私は、メニューをパラパラとめくった。
「お待たせいたしました」
しばらくして、オムライスが運ばれてくる。龍二はスマホを見ながら、オムライスを食べ始めた。一口が大きい。私は思わず口を挟んだ。
「あの」
「あ?」
「食べる時は、スマホを見ない方がいいと思います」
「なんで」
「なんでって……」
私と一緒にいるのに、スマホばっかり見ないでください──そんなこと言えない。それじゃ、まるで携帯に嫉妬してるみたいじゃないか。
「お行儀が悪いです」
「おまえさ、学生の時学級委員だったろ」
「なんでわかるんですか」
「言い方がまるっきり学級委員だし。遊んでないで掃除してください! とか言ってそう」
声色を変えてみせた龍二にむっとする。
「あなたは掃除をサボってお喋りばかりしてる男子だったんでしょうね」
「掃除なんてやりたいやつがやればいいんだよ」
龍二は話しながらもスマホから目を離さない。私はますますむっとした。運ばれてきたパスタを黙々とすすっていたら、龍二がスマホを向けてきた。
「なんですか」
「いーから食ってろよ」
不可解に思いながらパスタをすすっていたら、パシャ、という音がした。そうして、こちらに画面を向けてくる。画面には、不機嫌そうにパスタをすすっている私が映っていた。
「見ろ、すげえ眉間にシワ」
私は赤くなり、くくく、と笑う龍二をにらんだ。
「そんな写真、消してください」
「気にしないで早く食えよ。のびるぞ」
彼は素知らぬ顔でパスタを指差す。しかもまたスマホに目を向ける
なんなの、一体。私は彼から視線を背け、眉をしかめてパスタをすすった。
☆
「あー、食った食った」
店を出た龍二は伸びをして、
「じゃ、うち行くか」
「はい」
車に乗り込んみ、龍二のマンションへと向かう。お邪魔します、と言って靴を脱いだら、おまえんちだろ、と笑われた。今日からここに住むのだと思うと、なんだか不思議だ。
「なんかいるもんあるか」
「とりあえず、夕飯の買い出しをしないと」
お米すらなかったことを思い出しつつ、そう言う。
「ああ、そっか。じゃあスーパー行くか?」
「はい」
すると、彼の懐にある携帯が鳴り始めた。
龍二は携帯を取り出し、耳に当てた。
「はい、阿久津です」
パッと表情を変えて、
「マジですか? はい、すぐに行きます」
慌てて車のキーを掴み、
「悪い、用事できた。すぐ戻るから、テレビでも見て待ってろ」
「え、あ」
素早く玄関から出て行った。私はポカンとしながら彼を見送る。手持ち無沙汰になった私は、リビングのソファーに腰掛けてテレビをつけた。
修道院では、こんな時間からのんびりしていることはまずない。なんとなく落ち着かない気分でいた私は、足元に置かれている紙袋に目をやった。なんだろう、これ。
「!」
袋の中には、シスター服を着た女性が、縛られているパッケージのDVDがあった。これはまさか。男性が好む、いやらしいビデオではないだろうか。
「こ、こんなものを堂々と置いておくなんて!」
何枚かあったが、全て同じようなパッケージだった。
しかし、なぜシスターなのだろう。思い当たる理由は一つしかなくて、私は真っ赤になった。
急いでDVDを紙袋に戻し、座り直す。意識しないよう、テーブルの上に置かれていた雑誌をパラパラとめくった。お酒の雑誌で、私にはよくわからない。
雑誌を閉じた私は、ちら、と紙袋を見て、再び手を伸ばした。
☆
玄関のドアが開閉する音がして、私はびくりとした。龍二が部屋に入ってくる。
「お、お帰りなさい」
私は、膝の上にある自分の両手に視線を落としながら言った。まともに顔が見られない。
「おまえ顔赤いぞ。大丈夫か」
「大丈夫です。どこに行ってたんですか?」
「仕事先決まったから、挨拶しに」
「えっ」
私は目を見開いた。
「そ、そんなすぐに、決まったんですか?」
「ああ。高校んときの先輩がバーやってんだけど、欠員が出たって言うから」
「おめでとうございます」
「ああ」
龍二はそう言って、頭を掻いた。
「で、今日の夜から出勤なんだよ。覚えること多いから、早く来いって言われてて。飯買ってきたから」
「龍二さんは」
「まかない出るから、店で食う。買い物は明日な」
彼はビニール袋をテーブルの上に置き、私の頭を撫でた。
「鍵、ちゃんと閉めろよ」
そう言って、再び玄関へと向かう。
「行ってらっしゃ……」
言い切る前に、扉が閉まった。
☆
その夜、私はベッドに座って龍二の帰りを待っていた。しかし、一向にドアが開く気配はしない。9時で寝る習慣の私には、深夜まで起きているのは辛い。うとうとと頭を揺らし、ベッドに倒れた。
翌朝、私は午前6時に目を覚ました。鍵が開閉する音のあとに、龍二が部屋に入ってくる。こんな時間まで仕事をしていたのか。彼はふらふらベッドの方へやってきて、私に抱きついた。
「ただいま」
「お帰りなさい」
私は龍二の背中を撫でた。それから、癖のない黒髪を撫でる。髪の毛、さらさらだ。龍二はされるがままになっていたが、目を閉じてつぶやいた。
「ねる」
「お風呂、入らないと」
「あした、はいる」
すぐさま寝息が聞こえてきた。疲れてるんだな。私は彼を起こさないよう、そっとベッドを離れた。近くのドラッグストアに行き、冷凍食品などを買ってきた。生野菜はあまり手に入らなかったのが残念だ。龍二が起きてきたのは、午後になってからだった。私はエプロンをつけながら言う。
「おはようございます」
「ん」
まだ寝ぼけているのか、目がトロンとしている。
「お風呂入りますか? 温めますが」
浴室に向かおうとしたら、龍二が後ろから抱きしめてきた。甘えるような声で言う。
「一緒に入ろう、杏樹」
「私は昨日入りましたから」
「ケチ」
なにがケチなのだろう。龍二は着替えを持って、ノロノロと浴室へ向かった。三十分たっても大丈夫だろうか。溺れてないだろうか。そっと浴室を覗くと、案の定龍二は船を漕いでいた。
「龍二さん、こんなところで寝たらダメです」
「ん」
私は龍二の腕を引っ張って浴室から出した。身体を拭くよう促していたら、龍二が私の胸元に手を這わせた。
「エプロン、かわいい」
「ちょ、龍二、さ」
胸を揉みしだかれたせいで、エプロンがしわくちゃになる。彼の手に翻弄されて、私はだんだん息を切らしていく。
「裸エプロン見たい」
「なに変なこと言ってるんですか、んっ」
龍二は私に口付けながら、身体を撫で回した。昨日見たビデオのことを思い出すと、身体がじわっと熱くなった。龍二は私のズボンのホックを外して、中に手を滑りこませた──が、唐突にその手が止まる。私は龍二を見上げた。
「龍二、さん?」
龍二は私の肩に顎を乗せて、すやすや寝息を立てていた。
☆
再び夢の世界へ旅立った龍二が起き出したのは、それから5時間後だった。私はあり合わせで夕飯を作り、死んだように寝ている龍二の肩を揺らした。
「龍二さん、晩御飯です」
「ん」
龍二はぼんやり目を開き、
「今何時」
「午後6時です」
「やべ、行かねえと」
慌てて起き上がった。着替えて玄関に向かう龍二を追いかける。
「ごはんは」
「明日食うから、冷蔵庫入れといて。先寝てろよ」
彼はそう言って、玄関を出て行った。ひとり残された私は、台所に向かい、龍二の分にラップをかけた。私はテレビを見ながら、一人で食事をする。なんだか味気ない。自転車で旅をする、という番組を目にしてつぶやいた。
「自転車を買おうかな」
龍二は忙しそうだし、車の免許を持ってない私の足になりそうなのは、自転車くらいしかなかった。明日、近くに自転車屋さんがないか調べよう。
☆
翌朝目覚めたら、龍二が私を抱きしめて寝ていた。私はそっと彼の髪を撫でる。かすかに甘い香りがして、ぴく、と肩を揺らした。この匂い……。眉を顰めていたら、龍二が身じろぎした。こちらを見て、不思議そうな顔をする。
「なにコエー顔してんだよ」
「女の人といたんですか? 香水の匂いがします」
「ああ、客だよ。酔って抱きついてくんの」
「……抱きついて、くる?」
むっとした私の顔を見て、龍二がおかしそうに笑った。
「おまえ、妬いてんの?」
「妬いてなんかいません」
「嘘つけ。風船みたいになってるぞ」
龍二が私のほほを突く。私はその手をぐい、と退けた。
「どうせ抱きつかれてデレデレしてるんでしょう」
「まあおっぱいのでかい女なら嬉しいけど」
「最低ね」
またほほを触ろうとしてくる龍二の手を、私は避ける。龍二はくすくす笑った。
「おまえ、やっぱ懐かない猫みてえ」
彼は起き上がって、
「なあ、買い物行くか」
「でも、疲れてるんでしょう?」
「初日ほどじゃない。明日非番だしな」
龍二はそう言って、私の髪を撫でた。
「相手しないと拗ねるだろ」
「私は猫じゃありません」
私はそうつぶやいて、彼の手に自分の手を重ねた。一緒に買い物に行けるのが嬉しかった。
私は龍二と一緒に、駅前にあるデパートへと向かった。食料品や雑貨を買い込み、自転車も売っていたので、ついでにのぞいていく。ブレーキの強度を真剣に査定していたら、龍二が少し呆れ気味に言った。
「おまえ自転車好きだな」
「便利ですから」
「服とか靴とかは? ブランドショップ二階にあるぞ」
「ブランドものってよくわからないので」
「女ってみんなブランドが好きなのかと思ってたわ」
修道院に入らなければ、私も興味を持っていたかもしれない。しかし、そういうものに触れる機会がなかった。ほとんど修道女服で過ごすので、私服もあまり必要なかったし。しかし、私にだってこだわりはある。
「ブランドといえば、お味噌はマルカメって決めてます」
「それ、なんかちがわね?」
エスカレーターで二階へ上っていたら、龍二の目が、ブランドショップの店員へと向いた。綺麗な人だ。もしかして、美人の店員を見たかっただけなのでは。
「龍二さん?」
名前を呼ばれた龍二が振り向く。
「ん?」
ブランドショップから出てきた女性が、龍二に近づいてきた。ロゴマークの入った紙袋を下げている。
「やっぱり龍二さんだー」
「こんちは」
龍二も愛想よく対応している。そうして、私にこう言った。
「店のお客さん」
彼女は私に目を向け、頭を下げてきた。
「どうもー」
「こんにちは」
「彼女さんですかあ? すっごいかわいい~」
さつきの胸が揺れた。おっぱいが、おっきい……。私が彼女の胸に気をとられている間に、龍二がさつきと会話をする。
「さつきさんってこの辺住んでんの?」
「そうなの~お二人は、もしかして一緒に住んでるんですかあ?」
「ああ。そう」
龍二が頷いたら、さつきが顔を引きつらせた。
「そ、そうなんだあ~いいですねっ」
そうして、手を振って去って行った。龍二も愛想よく手を振り返している。意外と接客が向いているのかもしれないな、この人。私がちら、と見たら、龍二がなんだよ、と尋ねてきた。
「……あの人に抱きつかれたんでしょう?」
「ああ、すげえおっぱいだった」
真顔で頷いている龍二の腕をぺしりと叩く。
「いてえ。なんだよ」
「こんなところでおっぱいとか言わないでください、ハレンチな」
「おまえも言ってるし」
エスカレーターの前、マネキンが飾られているショーウィンドウに、龍二と私の姿が映った。龍二は、さつきさんみたいな、ブランドものを着てる女の人が好きなんだろうか。
その夜、夕飯の用意をしていたら、ソファに座っていた龍二の携帯が鳴った。
「はい、龍二です。……今からですか。はい、わかりました」
龍二は携帯を切って、ソファから立ち上がった。私は彼に近づいていき、どうしたんですか、と尋ねた。龍二は肩をすくめ、
「ヘルプ頼まれた。行ってくる」
「え」
「客が俺呼べってうるせえんだって。ホストクラブじゃあるまいし」
そう言いつつ、彼は出かける準備をしている。
「でも、龍二さん、今日お休みなんですよね」
「しかたねえ。先輩には恩もあるしな」
「気をつけて行ってきてください」
「うん。悪いな」
私のことはいいが、龍二の身体が心配だった。昼夜逆転生活で、休みも返上なんて。
「そんな顔すんなよ、大丈夫だから」
龍二は私の頭をひとなでして、部屋を出て行った。
☆
ひとりベッドに横たわった私は、眠れずにいた。時計の刻む音がやけにはっきりと聞こえる。さっきから何回しているかわからない寝返りを打った。壁に掛けられたエプロンが目に入る。
ふと、龍二に抱きしめられた時の温度が蘇って、吐息を漏らす。
「龍二、さ……」
私は、パジャマの中にそっと手を入れて、胸に触れた。乳房を撫でながら、乳首に触れたら、下半身が疼き出す。自分でさわるなんて。だが、どうしても、身体が熱くてたまらなかった。ショーツの中に手を入れて、花芯に触れる。
触れるたびに蜜が溢れて、下半身がじんじんと痺れていく。私はシーツを掴んで、その快感にひたすら声を漏らした。
「龍二、さん、龍二さん」
その時、ガチャ、と扉が開く音がした。私は慌てて手を引いて、寝ているふりをした。足音がして、ベッドが軋んだ。ふわりと甘い匂いがしたあとに、額にちゅ、と唇が落ちる。龍二は私の額に唇をつけたまま囁いた。
「なあ、起きてんだろ、杏樹」
私は内心どきりとして、身体を縮こませた。彼はこちらに身を寄せながら、私の指を絡め取る。
「何してたの。指濡れてんだけど」
「なにも、してません」
「うそつけ」
龍二は私のパジャマに指を忍び込ませ、乳首を撫でた。
「あ、う」
「すっごいたってる。自分で乳首いじるとか、やらしいな」
「ちがいます」
「うそついていいのかよ、シスター」
「もう、シスターじゃないです」
「そうだった」
彼は私の胸を揉みながら、ショーツの上から指を這わしてくる。
「あ」
「クリもたってる」
「たって、ませ」
「この上からでもわかる。やらしい」
龍二の指先が、花芯を押しつぶした。
彼はショーツを脱がしながら、私の身体に唇を落としていく。足の間に黒い頭が埋まって、私は喉を鳴らした。龍二は花芯を舌で突いて、
「もうぬるぬる。舐める必要ねえな」
「や、龍二、さん」
龍二の舌が、私のひだをなぞるように動く。舐められるたびにぞくぞくして、思わず黒い髪をつかんだ。龍二の舌は花芯には触れずに、その下ばかりを舐めた。もどかしくてたまらなくなる。
「龍二、さ」
「なんだよ」
「龍二さんの、します」
私がそう言ったら、龍二が目を瞬いた。
「って、やり方わかんの」
「はい」
龍二は訝しげな顔をしたあと、ハッとした。
「まさか蝶次の舐め」
「そんなわけないでしょう!」
大体なぜ蝶次が出てくるのだ。
「なんで、やり方知ってんだ」
「……あそこにあったDVDを見ました」
「まじか」
彼はギョッとしたあと、ごくりと唾を飲む。龍二のものは大きくて、口に入るかどうかわからなかった。取り敢えず、DVDで見たのをまねて、舌を動かす。
「こっち見て」
舌を這わしながら見上げたら、眉をひそめた龍二と目があった。その表情にきゅんとする。気持ちいいのかな。先端を口に含んでちゅ、と吸ったら、ぴくりと震える。
龍二は私をベッドに押し倒して、私の濡れた部分に、熱いものを擦り付けてくる。欲に濡れた眼差しで、私を見つめた。
「なあ、エロビデオ見て覚えるとか、やっぱおまえ、やらしいな」
「やらしく、ない、です」
「じゃあなんで自分でしてたんだよ、クリこんなぬるぬるにして」
長い指先が、花芯に触れた。私はびくびく震えながら龍二を見上げる。
「だ、って」
「だって?」
「龍二さん、忙しそうで、さみし、かった、から」
龍二が目を緩めた。熱いものが私の蜜口を擦る。
「ここ、さみしかった?」
「は、い」
「じゃあ、どうしてほしいか言えよ」
「いれてください」
大きなものが、ゆっくり入ってきた。間髪入れずに揺らされて、私は鳴く。
「あ、あ」
「きもちいい?」
「きもち、いい、龍二さんの、きもちいい」
「かわいい。もっとデレて」
「ぎゅって、してください」
龍二は私の身体を抱きしめて、唇を合わせた。
「杏樹、おまえのなか、すごい締まってる」
「うれしい、から」
「なんで、今日はそんなかわいいわけ」
「いつも、かわいくない、ですか」
「ツンだからな、いつも」
「龍二さん、と一緒だと、素直になれないんです」
「なんで?」
「私ばっかり、龍二さんのこと、気にしてるから、悔しいんです」
「龍二さんが、他の女のひと、見てるだけで、ヤキモチ妬いて、自分が、すごく嫌になるから」
「ヤキモチ妬いたんだ」
「は、い」
「今日のおまえ、ほんとかわいい」
龍二は私の身体を抱き上げ、動いて、と囁いた。
「え」
「もっとかわいいとこ見せて」
私は龍二の肩に手を置いて、腰をゆらした。自分の胸が揺れているのが見えて、顔が熱くなる。龍二の肩に顔を埋めた。
「どうした?」
「これ、はずかしいです」
「かわいい」
きゅん、と中が締まる。
「かわいいって言われんのすき?」
「はい」
「かわいい」
「龍二、さん」
龍二は私の胸を掴んで、乳首を吸った。
「あ、あ、胸」
「なに?」
「おっきいほうが、いいですか」
「まあ、巨乳は好きだけど」
彼は私の胸を揉みながら、笑顔を浮かべた。
「おまえの胸が、1番好き」
そんな顔するの、ずるい。きゅん、と締まった中を、龍二が突き上げてきた。
「龍二、さ、ふあ」
長い指先が花芯をいじる。
「杏樹、すきだ」
「龍二、さ、龍二さん」
私はびくびく震えた。先に、いってしまった。龍二のものはまだ大きいままだ。
「さき、行くなよ」
「龍二さんが、さわるから」
「杏樹がエロいんだろ」
「エロく、な」
龍二は私のお尻を掴んで、激しく突き上げてきた。
「あ、あ」
「もっかい、いって。俺と一緒に」
彼の首にすがりつき、私は声を震わせる。
「龍二さん、すき」
「俺もすきだ。もう、神さまのもんじゃない、杏樹が、すきだ」
「あ、あっ……」
私は再び絶頂を迎えながら、龍二のものを締め付けた。と同時に龍二が呻いて、奥に熱いものが流れ込んできた。
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