君は僕だけの

アラレ

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14時30分

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僅かに聞こえる物音から、彼女が起きていることを察する


2回ノックをし、ドアを開けると、こちらに背を向けていて表情は見えないが、なんとなく泣いているのが分かった




「結希、お腹すいてない?ご飯どうする?」




昨日の夜から何も食べてなくて、お腹が空いているはずなのに、こちらに背を向けたまま首を振った彼女に胸が痛む





どうしていいか分からない





(彼氏が嫁さん持ちだったらしくてねぇ)




居酒屋の店主の声が頭をよぎる




そんな状況で、しかもどういう訳か帰る家もないなんて

結希は今ものすごく辛いはずなのに

そんなとき何も出来ないどころか、事情を話してすらもらえない自分が情けない







結希はいつまでここに居てくれるだろうか



これから、どう接すればいいだろうか






結希がいてくれてこんなに嬉しいんだってことを、どうやって伝えよう





















┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈






コンコン、ガチャ





「結希」



不意に呼ばれた自分の名前に目を覚ます





「…あ、伊央」



上半身だけ起き上がると、伊央がベットのすぐ横にしゃがみ、こちらを見上げる




昨日の自分の失態が頭によみがえる


「あー、伊央ごめん」


自分が情けなさすぎて伊央の顔が見れない

悶えつつ謝ると、伊央が少しだけ笑ったのが分かった






「食欲ないかもしれないけど、そろそろ食べないとさすがに死ぬからね、テーブルにおにぎり作って置いてるから食べて。あと冷蔵庫に昨日の晩ご飯の残りもあるから。」




明らかに昔とは違う彼に戸惑いつつ何も返せずにいると、聞いてるの?と言われ、咄嗟にうんと返す





「あとお風呂とかも自由に入って。服は俺のしかないけど好きに使っていいから。」




「あ、うん」




「うん、じゃあ俺は仕事に行くけど、何かあったらこの番号に電話して?」




「…うん」



頭が追いつかないまま、差し出された紙を受け取ると、彼は優しく微笑んだ



「遅くても6時には帰るから、好きにしてて。
横に俺の部屋があって、漫画とかもあるから。」




そう言いながら彼は私の髪に手を伸ばし、そっと寝癖をとかす


「うん…」


手から伝わる熱になんだか落ち着かなくて視線をそらすと、じゃあ、と言って立ち上がった伊央に、頭より先に口が動く




「伊央っ…あ、」



「ん?なに」


私の声に、もう一度しゃがんでこちらを見る





「…ほんとにごめん。迷惑ばっかり」


「…」



そう言うと、少し変な顔をして、私の頭を撫でる




「迷惑なことなんてないよ。結希には感謝しかない…」




そう言うのと同時に彼の目から大粒の涙が一筋零れた



「え?…伊央?」



「…うわ俺やっば。ごめん、何でもないから気にしないで。」


顔を覗き込むとその大きなで目を覆われた




「…伊央、ねぇ」




「じゃあ仕事行くね」




気にしないで、ともう一度言って部屋を出ていった








「…伊央が泣くとこ、初めて見た」




私を見るその表情が頭から離れない



伊央、ほんとにどうしたのかな


仕事が辛いのかな


それとも他になにか…

何でもなくないくせに何でもないって言う癖はあの時のまま



なんて、自分だって何も話してないくせに










そのあと考えてる間に寝てしまい、昼前に目が覚めた




「あ、おにぎり」


冷蔵庫にあったパスタをレンジで温めつつ、テーブルの上のおにぎりを一口食べる


「…おいしい」


やはり丸一日何も口にしないと死ぬほどお腹が空くらしく、おかずを温めている間に2つあったおにぎりを食べ尽くした



その横にはコーヒーの粉が入ったコップが置いてあり、''ポットはキッチン"と伊央の字でメモが残されていた




「はぁ、おいしそう」


温めたパスタを見て1人つぶやく




伊央ってこんなできる男だったっけ

あんなに面倒くさがりだったのに

こんなとんだ迷惑女な私に至れり尽くせり




…まぁ6年も会ってなけりゃそら変わるわな




嬉しいような、寂しいような






でもそんな伊央にも、泣くようなことが…?








切ったままだった携帯の電源を入れると、着信やらメールやらが山のように届いていた



「…はぁ」



それは全て見ないふりをして、たった一人にメールを送った

















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