転生王子はダラけたい

朝比奈 和

文字の大きさ
上 下
317 / 340
第25章〜転生王子は2年生

2021年元日 特別編 新年のお祝いカード

しおりを挟む
 これは学校が始まる前。コルトフィアからステア王立学校へ戻る道中のお話である。
 
 宿屋の一室。机に向かう俺に向かって、ホタルが尋ねる。
 【フィル様、お勉強してるです?】
 俺は文字を書き終えてから、ホタルを振り返った。
 「これは勉強じゃないよ。グレスハートにいる父さんたち皆に、お祝いのカードを書いてるんだ」
 【何のお祝いっすか?】
 テンガは机に前足をかけ、背伸びをして覗き込む。
 俺は書き上げたばかりのカードを、テンガに見せた。
 「新しい年になったお祝いだよ。今年は直接会って、新年の挨拶ができないからね」
 この世界にも、元日のように一年のはじまりを祝う日がある。
 グレスハートでも神へ年初めの祈りをささげた後、家族そろってお祝いの食事を食べていた。
 しかし、今年は急遽コルトフィア旅行に行くことになったので、俺とアルフォンス兄さんは参加できない。
 ステラ姉さんがお嫁に行って、さらに俺たちもいないとなると、父さんたちも寂しいだろう。
 とくに、レイラ姉さんが沈んでるんじゃないかなぁ。
 新しい年の晴れやかな日に、しょんぼりとしているレイラ姉さんの姿が浮かぶ。
 だから、年賀状みたいに、せめて年初めのお祝いカードを送ろうかなって思ったんだよね。
 「アルフォンス兄さまたちにも家族皆へのお祝いカードを書いてもらってるんだ。アリスはお母さんのアリアに、カイルはお世話になっているスケさんとカクさんに書くって言ってた」
 【皆喜んでくれたらいいですわね】
 微笑むヒスイに、俺は頷く。
 「だから、テンガ。皆のカードが完成したら、ポケットを使ってお城のポストに送ってくれる?」
 【了解っす!皆の大事なお祝いカード、しっかり送り届けるっす】
 テンガは任せろとばかりに、前足で自分の胸を叩く。
 「ありがとう。よろしくね」
 俺が微笑んでそんなテンガを撫でていると、ザクロがおずおずと言った。
 【フィル様。オイラも城にいる兄貴にお祝いカード送りてぇんですが……】
 ザクロのお兄さんであるガァちゃんは、城で働く料理長の召喚獣だ。
 「僕が一言添えれば、ガァちゃんに渡してもらうことは可能だと思うよ。ちなみにだけど……氷亀だけでやり取りする文字みたいなものはないよね?」
 【それがねぇと、やっぱりカード作れねぇんですかぃ】
 シュンとするザクロを、慌てて抱き上げる。
 「大丈夫!方法を考えるから!」
 ……とは言ったものの、どうしたらしいだろう。
 俺が書いて、料理長に読んでもらう?
 いや、ガァちゃんが見て直接ザクロの気持ちが伝わるものの方がいいよな。
 だから当然、ザクロが人間の文字を書く方法も、ガァちゃんに伝わらなきゃダメなわけで……。
 「ん~。……あ!」
 抱き上げたザクロを見つめて、しばらく考え込んでいた俺は、不意に思いつく。
 そうして絵日記用に使っている画材を取り出し、絵の具をつけた筆でザクロの足の裏を塗り始めた。
 【うひゃひゃひゃひゃひゃ!】
 笑ってジタバタともがくザクロを、俺はなだめる。
 「ちょっとだけ我慢して。植物で作られた絵の具だから、ピリピリしないでしょ?」
 【ピリピリはしやせんが、くすぐってぇです!うひゃひゃ!】
 「待って待って……はい、終わったよ」
 ザクロの右前足の裏を水色に塗り終えて、俺は息を吐く。
 【綺麗なお空の色です!】
 ホタルが言い、飛んできたルリが俺の肩に降りて尋ねる。
 【フィル様、何やってるんですか?】
 「ガァちゃんにも伝わる、お祝いカード作りだよ。こうしてザクロの足をカードに押し付けて……」
 ハガキサイズのカードに、ぺったりと足形をスタンプする。
 「よし、綺麗に出来た!これに僕がザクロの絵を描いて……」
 【おぉぉぉ!ザクロのカードっす!】
 【フィル様、すごいです!】
 【絵もついてるから、ザクロからのお祝いカードだってわかりますわね】
 テンガとホタル感嘆の声を上げ、ヒスイが手を叩く。
 すると、コハクを頭に乗せたランドウが机によじ登ってきた。
 【何騒いでるかと思ったら、お祝いカードとか面白そうなことやってるなぁ】
 ザクロはそんなランドウに向かって「へへっ」と自慢げに笑ってから、足を拭く俺を見上げる。
 【ありがとうごぜぃやす。フィル様】
 ザクロが喜んでくれて良かった。もらったガァちゃんもきっと喜ぶだろう。
 【コハクもやる!】
 ランドウの頭から机に降り立ったコハクが、ピッと片翼を挙げる。
 「コハクも?いいけど。誰にあげるの?」
 コハクは挙げていた翼を、小首を傾げていた俺に向かって指し示した。
 「僕?」
 コハクは頷いて、フンスと鼻息を吐く。
 それを聞いて、ランドウは高々と前足を挙げた。
 【はいはーい!俺もやるー!!】
 【俺もあげたいっす!】
 【ボクもフィル様にあげるです!】
 【わ、わた、私も!】
 テンガも元気よく前足を挙げ、ホタルやルリも慌てて言う。
 【オイラももちろん、作りますぜ】
 ザクロはにっこりと笑い、ヒスイも微笑む。
 【私は足跡ではありませんが、植物をつかったカードにしますわ】
 俺はあたたかい気持ちで笑った。
 「嬉しいよ。もらうのが楽しみだ」
 そうして、皆で俺のためのお祝いカード作りが始まった。
 ヒスイは押し花のカードを作ってくれた。
 ザクロは一度作ったこともあり、綺麗な足跡のカードができた。
 テンガは元気のいい足跡のカード。
 ランドウは押す勢いが強すぎて、若干輪郭がブレていた。
 ホタルの足は埋もれるほど短いので手伝ってあげたのだが、それでも押すのになかなか苦労した。
 ルリはカードの上に着地したので、小さな足跡が真ん中に4つ。
 コハクはカードの上で動き回り、なかなか楽しい仕上がりになった。
 「わぁ、可愛いカードがいっぱいできたね。どうもありがとう!」
 カードを受け取った俺は、ホタルたちの頭を撫でる。
 【コクヨウのアニキは、フィル様にお祝いカード作らないっすか?】
 布巾で足を拭いていたテンガが、コクヨウに尋ねる。
 【誰が好き好んで足を汚すか】
 寝転がっていたコクヨウは、頭だけ持ち上げてフンと鼻を鳴らした。
 「え、コクヨウはくれないの?コクヨウの可愛い肉球スタンプ欲しかったのに」
 催促するものではないが、こんな機会はないから召喚獣皆のお祝いカードが欲しい。
 残念そうに呟くと、コクヨウはむくりと起き上がった。
 【……特別だぞ】
 そう言って机の上にひょいっと上がったコクヨウは、絵の具のパレットにタンッ、真っ白なカードにタンッ、とリズミカルに足を載せる。
 無造作に押したわりに、カードにはくっきり綺麗な足跡がついた。
 「やっぱりコクヨウの肉球絶妙に可愛い!ありがとう、コクヨウ」
 コクヨウを抱き上げ、足を拭きながら微笑む。
 【まぁ、新年の祝いだからな】
 尻尾を揺らしつつ、コクヨウは呟く。
 「うん。今年もよろしくね」
 
しおりを挟む
感想 4,643

あなたにおすすめの小説

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。

アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。 いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。 だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・ 「いつわたしが婚約破棄すると言った?」 私に飽きたんじゃなかったんですか!? …………………………… たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

病弱幼女は最強少女だった

如月花恋
ファンタジー
私は結菜(ゆいな) 一応…9歳なんだけど… 身長が全く伸びないっ!! 自分より年下の子に抜かされた!! ふぇぇん 私の身長伸びてよ~

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

どうぞ「ざまぁ」を続けてくださいな

こうやさい
ファンタジー
 わたくしは婚約者や義妹に断罪され、学園から追放を命じられました。  これが「ざまぁ」されるというものなんですのね。  義妹に冤罪着せられて殿下に皆の前で婚約破棄のうえ学園からの追放される令嬢とかいったら頑張ってる感じなんだけどなぁ。  とりあえずお兄さま頑張れ。  PCがエラーがどうこうほざいているので消えたら察してください、どのみち不定期だけど。  やっぱスマホでも更新できるようにしとかないとなぁ、と毎度の事を思うだけ思う。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

追放ですか?それは残念です。最後までワインを作りたかったのですが。 ~新たな地でやり直します~

アールグレイ
ファンタジー
ワイン作りの統括責任者として、城内で勤めていたイラリアだったが、突然のクビ宣告を受けた。この恵まれた大地があれば、誰にでも出来る簡単な仕事だと酷評を受けてしまう。城を追われることになった彼女は、寂寞の思いを胸に新たな旅立ちを決意した。そんな彼女の後任は、まさかのクーラ。美貌だけでこの地位まで上り詰めた、ワイン作りの素人だ。 誰にでも出来る簡単な作業だと高を括っていたが、実のところ、イラリアは自らの研究成果を駆使して、とんでもない作業を行っていたのだ。 彼女が居なくなったことで、国は多大なる損害を被ることになりそうだ。 これは、お酒の神様に愛された女性と、彼女を取り巻く人物の群像劇。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。