転生王子はダラけたい

朝比奈 和

文字の大きさ
上 下
311 / 327
第20章~転生王子と後期授業

GW企画 特別編 カルロスと友だちの証

しおりを挟む

 これは、マクベアー先輩たち三年生の中等部卒業が間近となった、ある日の出来事。

 秘密基地として使用している旧教務室では、フィルやその友人たちの召喚獣が留守番をしていた。
 留守番するメンバーは、その時々で違う。
 今日のメンバーはフィルの召喚獣のテンガ・ホタル・ザクロ・コハク・ヒスイ。
 ライラの召喚獣のラグールというアライグマに似た種のナッシュ。
 レイの召喚獣の砂猿のロイ。トーマの召喚獣の長耳兎のエリザベスだ。
 
 留守番中は、たいてい皆で話をしたり遊んだりしている。
 今日の話題はマクベアー先輩の召喚獣、三日月熊のカルロスのことだった。
 【もうすぐ卒業ってことは、カルロスとも会う回数が減っちゃうっすねぇ】
 袋鼠のテンガが悲しげに呟くと、氷亀のザクロもしんみりとため息を吐いた。
 【今だってお互いに召喚されている時くれぇしか会えねぇのに、もっと会えなくなっちまうんだなぁ】
 毛玉猫のホタルも、元気なく耳を下げる。
 【ひなたぼっこの時、カルロスは大きな体で枕になってくれたです。いっぱいお話もしたです。寂しいです】
 そんなテンガたちの中でも一番しょんぼりしているのは、カルロスと一番仲の良いコハクだ。
 【……カルロス】
 いつになく元気のない声で呟く。
 そうして落ち込むコハクたちを、ナッシュが二本足で立って見下ろす。
 【随分しょんぼりさんやなぁ。気持ちは分かるけど、ぱあっと明るく送り出してやらな。カルロスかて、別れがたくなるやろ。ほら、皆でぱあっと明るくしよーや】
 ナッシュは「ぱあっと、ぱあっと」と繰り返しながら、前足を上に挙げる。
 だが、コハクたちはそれに返さず、重いため息をついた。それを見て、ナッシュは挙げていた前足を力なく下ろす。
 【あかん。俺の言葉が、全然届いてないわ】
 悲しげなナッシュに、ヒスイは困り顔で微笑む。
 【仕方ないわ。テンガとホタルとザクロとコハクは、カルロスととても親しくしていたもの。入学前に知り合って、お付き合いが長いから寂しいのよね】
 【僕もカルロスさんには、仲良くしてもらったから寂しいです】
 ロイが小さな声で言うので、ナッシュは「はうぁ~」と嘆く。
 【ロイもかーいっ!ここには、しょんぼりさん以外おらんのかぁ】
 エリザベスはそんな皆に、タンタンと足を鳴らす。
 【もう!卒業って言っても、同じ敷地内でしょ。会おうと思えば会えるわよ!】
 【お、エリザベスは寂しないんか?エリザベスかて、付き合い長いんやろ?】
 意外そうに言うナッシュに、エリザベスはフンと鼻息をつく。
 【私だって寂しいわよ。だけど、しっかり送ってあげたいもの】
 【えらい!エリザベスの言うとおりや。な!自分らも明るくいこ!】
 ナッシュは大きく前足を広げ、テンガたちに言う。
 【会えなくなったら、俺たちのこと忘れちゃうかもしれないっす】
 テンガは悲しそうに呟き、コハクたちも「うんうん」と頷く。
 【この、困ったしょんぼりさんたちめーっ!俺かて寂しいんやぞーっ!】
 堂々巡りにナッシュが頭を抱えたその時、フィルたちが部屋に戻ってきた。
 【あぁぁ!ぼん待っとったわぁ。この重い空気から、助けてぇぇ】
 ナッシュがそう言いながら、フィルの足に抱きつく。
 「え?何事!?」
 突然の救助依頼に、フィルが目を瞬かせた。
 【実はですね……】
 ヒスイは苦笑しつつ、フィルたち全員に人の言葉で部屋であった出来事を話して聞かせた。
 「そっかぁ。カルロスと別れるのは皆も寂しいよね」
 エリザベスを膝に抱っこしながら、トーマが言う。
 「会う機会が減るのは確かだしな」
 カイルが渋い顔で言い、アリスも表情を曇らす。
 「そうね。離れたら忘れられちゃうんじゃないかって不安になる気持ちわかるわ」
 「皆、カルロスと仲が良かったものねぇ」
 「ロイだって面倒見てもらったしな」
 ライラやレイもそう言って、ナッシュやロイの頭を撫でる。
 フィルはしばし考える仕草をしていたが、ふと思いついた顔をする。
 「そうだ。カルロスにお友だちの証をあげたら、それを見るたびに皆のこと思い出してくれるんじゃないかな?」
 その提案に、その場にいた皆の顔が嬉しそうに輝いた。

 その日の放課後、フィルたちはマクベアー先輩を呼び出した。
 「カルロスに用事があるってことだったが、何だ?」
 【召喚獣の皆もそろって、どうしたのぉ?】
 首を傾げるマクベアー先輩とカルロスに、フィルたちは微笑む。
 「カルロスにあげたい物があるんです。召喚獣の皆から代表して……コハク」
 キョトンとするカルロスに、色紙を頭に載せたコハクが、バランスを取りつつよろよろと歩いてきた。
 「おい、大丈夫か?」
 マクベアー先輩が心配そうにしたが、フィルは困り顔で言う。
 「どうしても頑張るみたいで、あたたかく見守ってください」
 よろよろ運ぶコハクの後ろでは、ナッシュたちが応援していた。
 【転びそうでハラハラするわぁ】
 【コハク、頑張れっす!】
 【あと少しでぃ!】
 テンガやザクロの声援を受けつつ、コハクは何とかカルロスのもとへ色紙を届ける。
 【これ僕にくれるの?】
 カルロスが尋ねると、コハクは大きく頷いて色紙を指した。
 【ともだちのあかし!】
 【友だちの証?】
 そう言って、カルロスが色紙を見つめる。マクベアー先輩もそれをのぞき込んだ。
 そこにはコハクをはじめとする召喚獣たちの、足型が押されていた。
 「これは?」
 マクベアー先輩が尋ねると、フィルはその色紙について説明する。
 「離れていても、ずっとカルロスとお友だちだっていう証です。カルロスと離れるのが寂しそうだったので、皆で作りました」
 「なるほどな。良かったなカルロス。高等部の俺の部屋に飾っておこう」
 マクベアー先輩がカルロスの頭を撫でると、カルロスは色紙を見つめながら嬉しそうに「グガァ」と鳴いた。
 【この肉球は、ホタル。この丸いのはザクロかな?この小枝みたいな足型が、コハクだね。他にもいっぱい足型がついてる。嬉しいなぁ】
 【俺はこの足型っす!】
 【俺はこれや!】
 カルロスの近くに来て、テンガやナッシュが色紙を前足で指す。それに続いて、エリザベスやロイなど、他の召喚獣たちも自分の足型を指した。
 【ありがとうね。すごく嬉しいよ】
 お礼を言うカルロスに、コハクはフンスと息を吐いて言った。
 【カルロス、ともだち!】
 それに頷く他の皆に、カルロスは言った。
 【うん。離れても友だちだね!】
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど

富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。 「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。 魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。 ――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?! ――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの? 私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。 今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。 重複投稿ですが、改稿してます

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

【完結】聖女ディアの処刑

大盛★無料
ファンタジー
平民のディアは、聖女の力を持っていた。 枯れた草木を蘇らせ、結界を張って魔獣を防ぎ、人々の病や傷を癒し、教会で朝から晩まで働いていた。 「怪我をしても、鍛錬しなくても、きちんと作物を育てなくても大丈夫。あの平民の聖女がなんとかしてくれる」 聖女に助けてもらうのが当たり前になり、みんな感謝を忘れていく。「ありがとう」の一言さえもらえないのに、無垢で心優しいディアは奇跡を起こし続ける。 そんななか、イルミテラという公爵令嬢に、聖女の印が現れた。 ディアは偽物と糾弾され、国民の前で処刑されることになるのだが―― ※ざまあちょっぴり!←ちょっぴりじゃなくなってきました(;´・ω・) ※サクッとかる~くお楽しみくださいませ!(*´ω`*)←ちょっと重くなってきました(;´・ω・) ★追記 ※残酷なシーンがちょっぴりありますが、週刊少年ジャンプレベルなので特に年齢制限は設けておりません。 ※乳児が地面に落っこちる、運河の氾濫など災害の描写が数行あります。ご留意くださいませ。 ※ちょこちょこ書き直しています。セリフをカッコ良くしたり、状況を補足したりする程度なので、本筋には大きく影響なくお楽しみ頂けると思います。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。