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一章◆お見合い

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大失恋をして会社を辞めた。
三浦杏奈にとってそれは思いきった決断だった。

一人娘で将来は養子を貰って家を継いでほしいという親の希望に逆らい、大学卒業後は大手の建築事務所へ就職し更に一人暮らしを始めた。
大学在学中に二級建築士の資格を取り、就職して二年後には一級建築士の資格も取った。
当時恋人だった早瀬雄大と、共に切磋琢磨したものだ。

だがその雄大とはお互い仕事を優先するあまりほとんど恋人らしいこともせず、いわゆる自然消滅状態に陥っていた。その事は杏奈も重々承知だった。それでも杏奈はずっと雄大が好きだったし、同じ会社の同じ部署で顔を付き合わせることで満足感を得ていた。

それなのに突如現れたパン屋の店員に雄大を取られ、杏奈は悔しさのあまりその相手を陥れようと意地悪をしてしまった。
恋は盲目とはよく言ったものだ。
もちろん雄大にはこっぴどくフラれた。
杏奈にとってその恋は、勉強と一緒だった。
まわりを蹴落としてでも自分が一番になりたい、いい点を取りたい、自分のものにしたい。
そんな気持ちだったのだ。

何事も万事上手くいくなんてことはなく、恋に敗れた杏奈はあんなに嫌だと思っていた自分の家が経営する三浦建設へ転職をした。
嫌だ嫌だと思いながらも建築士の道へ進んだのは、やはり家が建設関係の仕事をしているからに他ならない。
嫌いではないのだ。
むしろ好きで仕事に誇りを持って働いている。

三浦建設で働きたいと親に告げると、待ってましたとばかりに喜び、すんなり会社で働かせてもらえることになった。
だがいつの時代も社会というものはコネを嫌う。

社長の娘だから入れた。
いきなり役職有りかよ。
給料が高いんじゃないか。

そんな風に陰で言われ放題だ。
それでも、もともと愛想のいい杏奈は上手くやっていたつもりだった。
そんな陰口など気にしたら負けだ。
杏奈は前職のように、自由にバリバリ仕事がしたいだけ。
悔しかったら噂話に花咲かせないで仕事をしろと思っていた。
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