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ママに促され奥の扉を開ければ、向こうとは違って太陽の日差しが降り注ぐ明るいキッチン。やはりまだ昼間だ。ていうかあんなに働いたのにまだ昼間なの? それに、やりっぱなしの食材があちこちゴロリと転がっているのが目に入る。

そうだった、にんじんを切っている途中で指を切ったんだった。わたしはため息ひとつ、下ごしらえを再開した。さっきまで向こうで働いていたというのに、わたしってばタフだなぁ。これは一応勇者をやっていたから鍛わった体力なのかもしれないな。そう思うと勇者も時には役に立つもんだ。

それにしても、あの扉の向こうにもうひとつのお店があったなんて驚きだった。どう見ても、あの扉の向こうにお店があるとは思えない。だって扉のすぐ側の窓からは外の景色が見えるのだ。誰だって、あの扉を開ければ外に繋がってると思うでしょう?

「てことは、あれはもうひとつの世界? ……異世界ってこと……?」

この「じゃがいも」も「にんじん」も「たまねぎ」も、さっきの世界の食べ物なのだろうか。人の見た目はわたしたちと何ら変わらないように思う。それなのに食べ物は全然違うだなんて――。

あ、だけど着ている服は違ったかな。うん、何かよくわからない格好をしていた。

「……わたし、異世界にいっちゃった?!」

今さらになってドキドキと緊張と興奮が押し寄せてくる。もしかしてすごい体験をしたんじゃないかと心躍ったときだった。

ガチャリと奥の扉が開いてママが帰ってきた。
手にはたくさんの袋を提げている。

「あっ、ママ! おかえりなさい」

「おかえりなさい、じゃないわよ。このマヌケが」

「ええー。わたし頑張ったのに」

「誰があっちに行っていいって言ったのよ。そうやって今までも失敗してきたクチね」

「うっ……」

思い当たる節はある。
むやみやたらに宝箱を開けてトラップに引っ掛かったり、扉という扉を開けてモンスターに出くわしたり、結構いろいろとやらかし経験しているのだ。

「だってまさかあの扉の奥にもうひとつお店があるなんて思わないじゃない」

「そういうことを言ってるんじゃないわよ。まったく、これだから好奇心大勢な小娘は困るわ」

「ええー、でもわたしがんばって働いたよ?」

「半人前が偉そうなこと言ってるんじゃないわよ。アンタはこっちの世界で働いてりゃいいの」

ふん、とママは鼻息荒く、持っていた袋から食材を取り出し片付け始める。これまた見たことがないものだらけで好奇心がわいたけれど、これ以上叱られるのはごめんなのでわたしは大人しく下ごしらえの続きを始めた。

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