上 下
18 / 30

18.

しおりを挟む
羽田空港行きの高速バスに乗った。一時間足らずで空港に到着する。搭乗手続きを済ませて、発車口へと向かった。飛行機に乗るは、久しぶりだった。軽装のため手荷物は預けていない。

飛行機に一時間半乗って、福岡空港へ到着する。九州に来たのは、小学生のとき以来だ。福岡空港は混雑していた。地方都市の一つだと思っていたので、人の多さに驚いた。東京よりも暖かいイメージがあったが、意外に寒かった。気候も東京とあまり変わらない。

博多駅も栄えていた。東京と同様にどこもかしこもビルが立ち並んでいる。忙しそうに人が往来していた。

電車に揺られて、しばらくすると状況は一変してくる。田園風景が広がり、都市の雰囲気から田舎の落ち着いた自然豊かな風景が飛び込んできた。

大学は高台にあった。敷地も東京の大学とは比べ物にならない。総合大学ということもあるだろうが、それにしても広さ過ぎる。正門の前には大きな案内板があった。文学部、教育学部、経済学部、法学部、経営学部、商学部、工学部、理学部、医学部があるようだ。父は理系だった。医学部ではないと思うので、工学部か理学部に在籍しているのだろうか。

守衛室があったので、太一は声をかけた。

「こんにちは。理学部か工学部はどちらですか?」

 守衛室の中にいた警備員が身を乗り出す。

「理学部はこの通りをまっすぐ行ってください。大きな講堂があります。その手前で右に曲がってください。工学部も同じ方向にありますが、工学部はこのキャンパスだけではないですよ」

「そうなんですか」

「お隣の大分県にもあります。今日は何のご用ですか?」

「研究の関係です。ありがとうございます」

 太一は早口でお礼を言って、守衛室を背に歩き出した。身分証や学生証などの提示を求められないかビクビクしながら、小走りに進む。幸い警備員は追いかけてもこなかったので、とりあえず理学部の研究室を目指すことにした。

 この大学も試験期間が終了しているのか、キャンパス内は閑散としている。構内の建物はどれも老朽化が進んでいた。太一の通う私立大学とは随分違うんだなと思った。都内の大学は、近代的な建物が多く、高層階の校舎が目立つ。太一の通う大学にもタワーマンションのような校舎がシンボルのように建っている。もちろん土地の問題もあるのだろう。東京は大学に限らず、建物がどんどん縦に伸びている。

 ようやく時計台がある大きな建物が見えてきた。これが講堂だろう。正方形で重厚な造りだ。建物自体に威厳があり、歴史と格調を醸し出している。一目でホールだとわかった。入学式や卒業式、演奏会などもここで開催してかもしれない。太一の大学では大人数を収容できるような会場はない。入学式は武道館で開かれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

僕と精霊

一般人
ファンタジー
 ある戦争から100年、魔法と科学は別々の道を歩みながらも共に発展したこの世界。  ジャン・バーン(15歳)は魔法学校通う普通の高校生。    魔法学校でジャンは様々な人や精霊と巡り会い心を成長させる。  初めて書いた小説なので、誤字や日本語がおかしい文があると思いますので、遠慮なくご指摘ください。 ご質問や感想、ご自由にどうぞ

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

処理中です...