規格外の螺子

cassisband

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「こないだ、終電間際の北千住で、隆史を見かけたんだよね」
「へえ。まあ、隆史は仕事だろうな。でも、美穂が残業でそんな遅いっていうのはありえないよな」
 にやにやと、健一の嫌味をこめた問いかけにも、今回は美穂はやりかえさなかった。
「それは、そうよ。私が終電の時間まで残業するなんてありえないわよ。合コンよ。それも、収穫なしの」
 そうだろうよ。という顔で健一は話を聞いている。
「でもね、隆史だって、仕事帰りって感じじゃなかったのよ。もうひとり一緒にいたのよ」
「誰が?」
 健一も身を乗り出してきた。
「女の子よ。それも、すごくキレイな子」
 早苗は自分の思考が停止するような思いに駆られた。
「仕事じゃないよね?きっと。その子の見た目もバリバリのシステムエンジニアっていうより、普通のOL風だったし。何より、北千住みたいなローカルな場所にそんな時間に一緒にいるなんて、仕事関係じゃないよねえ」
「人違いじゃないの?」
 健一の言葉の返答を、早苗は祈るような気持ちで聞いた。
「いや、絶対それはないね。ほら、あのあとすぐだよ。先週、飲んだ次の日の夜よ」
「声かけた?」
 思わず、早苗も問いかけた。
「それが、なんか、付き合い始めなのかなんなのかわかんないけど、その二人が近寄りにくい雰囲気だったから、遠めで見てどきどきしてただけなんだけどね」
「本人か確かめてないんだろ。じゃあ、隆史じゃないかもしれないぜ。美穂は相当酔ってたんだろうし」
 健一は、あくまで人違いの線を消したがらない。
「いやいや、そんな飲んでないって。年上の会計士相手っていうから、遠い二子玉川まで行ったのに、全員コントで使う鼻眼鏡してるみたいな顔でさ。全然盛り上がらない合コンだったんだもん。めいっぱい食べてきただけ」
 美穂と健一の押し問答は続いている。美穂の話し方が、相手の女性を隆史の彼女、あるいはこれから彼女になりそうな人物と想定していることは、早苗にはあまりにショックなことだった。
 結局、深夜に隆史が女性と一緒にいたかどうかについて、本人に確認もできないこの場での結論はでなかった。その後の会話はほとんど覚えていない。できるだけ丁寧に、自分のために集まってくれた二人に礼を言い、この会はお開きとなった。二人は、またいつでも遠慮なく誘ってと、別れ間際まで温かかった。
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