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プロローグ
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「ほら、あった!ベルモント公園!やっぱりこの道で正解だっただろう!」
健一が乗っている自転車は身の丈に合っていない。大人用の自転車を漕ぎながら、後ろを振り返る。健一の後ろからは、子供用とも大人用ともつかない自転車が四台続いていた。
「本当だ!やっと着いたね」
健一の少し後ろから、早苗がポニーテールを揺らしながら、感嘆の声を上げる。
「結構遠かったね」
「もう疲れちゃった。ジュース飲みたい」
和美と美穂が自転車を並走させている。二人は長かったサイクリングの道のりを振り返る。
隆史はみんなの一番後ろを走っていた。
五台の自転車の目指す先には、新緑鮮やかな公園が見えた。
「ここがベルモント公園」
一番乗りの健一が得意げに言った。最後尾の隆史も健一に追いついた。
「ベルモント」とは、隆史たちの住む足立区の姉妹都市に制定されたオーストラリアの街だ。それを記念して区内に「ベルモント公園」なる公園が造られた。隆史はその公園には、珍しい鳥がいると母親から訊いていた。隆史たちは鳥を見るために、はるばる自転車に乗ってやってきたのだった。
公園の柵の前に自転車を停めた。週末は区内の人でいっぱいになる。だから平日に来ようと計画を立てた。授業が他の曜日よりも一時間短い水曜日。学校から帰るとすぐに自転車に飛び乗った。急いでやってきたのだが、平日にも関わらず、公園内は賑わっていた。入り口の近くにひときわ人だかりができている場所が見える。
「あれ、こくちょう、じゃない?」
美穂が人だかりを指差す。
「行って見よう!」
人だかりの向こう側は池になっていた。その池に二羽、黒い白鳥がいた。
「これが黒鳥か」
初めて見る鳥だった。全身が真っ黒い羽根に覆われていて、くちばしは、艶やかな赤色をしている。一羽は池の中に浮かんでおり、もう一羽は岸の上だ。岸にいる方は頭をくの字に曲げて、羽根の中に顔を突っ込んでいる。隆史には、その様子は見物客をうるさがっているように見えた。
「なんか池がせまそうだね」
「元気ないね」
珍しい鳥を目にして興奮したのもつかの間、隆史たちは別のことを考えていた。
「飛んで逃げたりしないのかな?」
「逃げられないようになってるらしいよ」
「囲いがこんなに低いのに?」
「囲いじゃなくって、工夫してるらしいよ」
「何を?どんな工夫?」
「羽根を」
「羽根を何?」
「内側の羽根を、短く切っているらしいよ。飛べないように」
「……」
隆史の周りをぐるりと囲んでいた顔が、一様に暗い表情になった。
「かわいそうだね」
「それで元気ないんだね」
「怒ってるのかな」
「泣いてるんじゃない?」
「いや、きっと絶望しているんだよ」
「かわいそう」
隆史たちは、連なってベルモント公園の中を歩いた。遊べそうなものがあることを期待したが、滑り台やブランコといった遊具はなく、ただブロンドの羊のオブジェがあちこちに配置されているだけだった。
健一が乗っている自転車は身の丈に合っていない。大人用の自転車を漕ぎながら、後ろを振り返る。健一の後ろからは、子供用とも大人用ともつかない自転車が四台続いていた。
「本当だ!やっと着いたね」
健一の少し後ろから、早苗がポニーテールを揺らしながら、感嘆の声を上げる。
「結構遠かったね」
「もう疲れちゃった。ジュース飲みたい」
和美と美穂が自転車を並走させている。二人は長かったサイクリングの道のりを振り返る。
隆史はみんなの一番後ろを走っていた。
五台の自転車の目指す先には、新緑鮮やかな公園が見えた。
「ここがベルモント公園」
一番乗りの健一が得意げに言った。最後尾の隆史も健一に追いついた。
「ベルモント」とは、隆史たちの住む足立区の姉妹都市に制定されたオーストラリアの街だ。それを記念して区内に「ベルモント公園」なる公園が造られた。隆史はその公園には、珍しい鳥がいると母親から訊いていた。隆史たちは鳥を見るために、はるばる自転車に乗ってやってきたのだった。
公園の柵の前に自転車を停めた。週末は区内の人でいっぱいになる。だから平日に来ようと計画を立てた。授業が他の曜日よりも一時間短い水曜日。学校から帰るとすぐに自転車に飛び乗った。急いでやってきたのだが、平日にも関わらず、公園内は賑わっていた。入り口の近くにひときわ人だかりができている場所が見える。
「あれ、こくちょう、じゃない?」
美穂が人だかりを指差す。
「行って見よう!」
人だかりの向こう側は池になっていた。その池に二羽、黒い白鳥がいた。
「これが黒鳥か」
初めて見る鳥だった。全身が真っ黒い羽根に覆われていて、くちばしは、艶やかな赤色をしている。一羽は池の中に浮かんでおり、もう一羽は岸の上だ。岸にいる方は頭をくの字に曲げて、羽根の中に顔を突っ込んでいる。隆史には、その様子は見物客をうるさがっているように見えた。
「なんか池がせまそうだね」
「元気ないね」
珍しい鳥を目にして興奮したのもつかの間、隆史たちは別のことを考えていた。
「飛んで逃げたりしないのかな?」
「逃げられないようになってるらしいよ」
「囲いがこんなに低いのに?」
「囲いじゃなくって、工夫してるらしいよ」
「何を?どんな工夫?」
「羽根を」
「羽根を何?」
「内側の羽根を、短く切っているらしいよ。飛べないように」
「……」
隆史の周りをぐるりと囲んでいた顔が、一様に暗い表情になった。
「かわいそうだね」
「それで元気ないんだね」
「怒ってるのかな」
「泣いてるんじゃない?」
「いや、きっと絶望しているんだよ」
「かわいそう」
隆史たちは、連なってベルモント公園の中を歩いた。遊べそうなものがあることを期待したが、滑り台やブランコといった遊具はなく、ただブロンドの羊のオブジェがあちこちに配置されているだけだった。
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