上 下
18 / 19

16

しおりを挟む
 パーティに出ると、あいもかわらず僕の周りはぽっかりと空いていて、進むとざぁっとさざ波のように避けていく。
 
 「ルイス様!」

 人混みの中から、ディヴィス様がこちらに来た。ぽっかり空いた中に、ディヴィス様と僕だけになる。

 「ディヴィス様、良かった、渡したい物があったんです。」

 「俺に、なんでしょう?」

 レシピと設計図、マジックバックに入った魔道具を渡した。
 
 「これは……つまり、その、オリュ草が食べられるようになる、ということですか?」

 「はい、まずは食べてみてください」

 「美味い……このレシピどうりにすればオリュ草がこんなに美味しく食べられるようになると……」

 「マジックバックの中に、精米するための魔道具が入っています。」

 「素晴らしいレシピです。使用料はどれくらいなのでしょうか。」

 「いりません、少しでも足しになれば」
 「精米以外は鍋で作れるようになっています。」

「っありがとう、ございます!」

 ディヴィス様が僕の前に跪いて、お礼を述べた。

 「顔を上げてください!」

 「いえ、これくらいでは足りません、俺に出来ることであれば、またいずれお礼を。」

 ざわざわ……周りの人が騒ぎ出した。

 「私も、食べてみていいかな?」

 アーサー様がこちらに向かってきた。

 「美味しい!これはすごいね、ルイス。」

 リオン様も食べて、なにか考え込んでいた。美味しくなかったかな……

 「あの、美味しくなかったですか?」

 「いや、美味かった。」

 また黙ってしまったリオン様。
 アーサー様が食べたことで、周りの人も食べてくれた。
 美味しいと言ってくれる人が多くて、とても良かった。
 
 ディヴィス様と最後にお話をした、もう会うことはないだろう……ぎゅうっと胸が締め付けらる。

 部屋に戻ったあと、なんだか現実味がなくて、ふわふわとしていた。
 よく分からない気持ちがぐしゃぐしゃで、疲れていた体はあっという間に眠りに落ちていった。




 しばらく僕はふわふわ、ぼーっとする日々を過ごしてしまった。
 夜になって、窓の外を見ながら考える。物語を変えることができた……
 なんだか今まで、夢を見ているような気分だったのだ。現実味がなくて、ふわふわとしていた。
 
 「死ぬまでに、もう出来ることはないかな……」

 この世界に生きているということ、今更ながら、死んでしまったという事実を僕はやっと実感した。
 もう姉さんに会うことも出来ない。姉さん……寄りによって僕まで事故で死ぬなんて。
 気丈に振舞っていたけれど、夜中に父さんと母さんの写真の前で泣いていたのを知っている。
 
「もっと……一緒にいたかったっ
もっと、一緒にご飯食べたかったっもっと話したかったっもっと……」

 後から後から涙が溢れてきて、止まらない。僕はその時、異世界に転生してから初めて、泣くことができた。

 「ふぅっく、うっく、ひっ」

 なかなか涙が止まらなくて、ようやく落ち着いたのは明け方の、空がしらみ出した頃だった。
 泣き明かしてしまった……でも、少しだけ前向きな気持ちになれた。
 ゆっくり、受け止めようと思う。
そう、本でも読んで。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

攻略対象者に転生したので全力で悪役を口説いていこうと思います

りりぃ
BL
俺、百都 涼音は某歌舞伎町の人気№1ホストそして、、、隠れ腐男子である。 仕事から帰る途中で刺されてわりと呆気なく26年間の生涯に幕を閉じた、、、、、、、、、はずだったが! 転生して自分が最もやりこんでいたBLゲームの世界に転生することとなったw まあ転生したのは仕方ない!!仕方ないから俺の最推し 雅きゅん(悪役)を口説こうではないか(( ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーキリトリーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー タイトルどうりの内容になってます、、、 完全不定期更新でございます。暇つぶしに書き始めたものなので、いろいろゆるゆるです、、、 作者はリバが大好物です。基本的に主人公攻めですが、後々ifなどで出すかも知れません、、、 コメント下さると更新頑張ります。誤字脱字の報告でもいいので、、、 R18は保険です、、、 宜しくお願い致します、、、

買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます

瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。 そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。 そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。

残虐悪徳一族に転生した

白鳩 唯斗
BL
 前世で読んでいた小説の世界。  男主人公とヒロインを阻む、悪徳一族に転生してしまった。  第三皇子として新たな生を受けた主人公は、残虐な兄弟や、悪政を敷く皇帝から生き残る為に、残虐な人物を演じる。  そんな中、主人公は皇城に訪れた男主人公に遭遇する。  ガッツリBLでは無く、愛情よりも友情に近いかもしれません。 *残虐な描写があります。

悪役王子の幼少期が天使なのですが

しらはね
BL
何日にも渡る高熱で苦しめられている間に前世を思い出した主人公。前世では男子高校生をしていて、いつもの学校の帰り道に自動車が正面から向かってきたところで記憶が途切れている。記憶が戻ってからは今いる世界が前世で妹としていた乙女ゲームの世界に類似していることに気づく。一つだけ違うのは自分の名前がゲーム内になかったことだ。名前のないモブかもしれないと思ったが、自分の家は王族に次ぎ身分のある公爵家で幼馴染は第一王子である。そんな人物が描かれないことがあるのかと不思議に思っていたが・・・

転生したら、ラスボス様が俺の婚約者だった!!

ミクリ21
BL
前世で、プレイしたことのあるRPGによく似た世界に転生したジオルド。 ゲームだったとしたら、ジオルドは所謂モブである。 ジオルドの婚約者は、このゲームのラスボスのシルビアだ。 笑顔で迫るヤンデレラスボスに、いろんな意味でドキドキしているよ。 「ジオルド、浮気したら………相手を拷問してから殺しちゃうぞ☆」

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

人生二度目の悪役令息は、ヤンデレ義弟に執着されて逃げられない

佐倉海斗
BL
 王国を敵に回し、悪役と罵られ、恥を知れと煽られても気にしなかった。死に際は貴族らしく散ってやるつもりだった。――それなのに、最後に義弟の泣き顔を見たのがいけなかったんだろう。まだ、生きてみたいと思ってしまった。  一度、死んだはずだった。  それなのに、四年前に戻っていた。  どうやら、やり直しの機会を与えられたらしい。しかも、二度目の人生を与えられたのは俺だけではないようだ。  ※悪役令息(主人公)が受けになります。  ※ヤンデレ執着義弟×元悪役義兄(主人公)です。  ※主人公に好意を抱く登場人物は複数いますが、固定CPです。それ以外のCPは本編完結後のIFストーリーとして書くかもしれませんが、約束はできません。

嫌われ悪役令息に転生したけど手遅れでした。

ゆゆり
BL
俺、成海 流唯 (なるみ るい)は今流行りの異世界転生をするも転生先の悪役令息はもう断罪された後。せめて断罪中とかじゃない⁉︎  騎士団長×悪役令息 処女作で作者が学生なこともあり、投稿頻度が乏しいです。誤字脱字など等がたくさんあると思いますが、あたたかいめで見てくださればなと思います!物語はそんなに長くする予定ではないです。

処理中です...