影の薄い悪役に転生してしまった僕と大食らい竜公爵様

佐藤 あまり

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 「ルイス?」
 
 
 後ろから突然声をかけられた、整えたはずの呼吸が大暴れして、僕は恐る恐る振り向く。
 まさかのまさかだ、主人公登場である。第1王子様のアーサー様。金色の髪に優しい緑の瞳の、いかにも王子様といった風貌だ。
 それにしてもリオン様といい、王族は後ろから声をかけなくてはいけない掟でもあるのだろうか。
 

 「最近、外に出るようになったと聞いて、会いに来たんだ。元気かい?」 

 戸惑いながらも頷く。

 「そうか、それは良かった。」
 
 ……気まずい、もじり、と手を擦り合わせた。
 
 「っ……怪我してるじゃないか!」
 
 走っている時に枝にでもひっかけたのだろうか、手から少し血が出ていた。
 アーサー様が近づいてきて、僕の手を取ろうとする。
 あれ……待って、僕、今手に毒付いてない?一気に血の気が引いていく、油断してた、ラトさんの距離感に慣れてしまって、突然近づかれた僕は頭が真っ白になった。

 「触っちゃだめ!」
 
 すんでのところで手を引いて、後ろに隠した。アーサー様がなにか言っていたみたいだけど、僕はもう少しで最悪なことが起こってしまいそうでだった恐怖で、耳に入ってこない。はっはっと息が乱れて、暑いんだか寒いんだか分からない。

 「すまない。私が近づいたからだよね。今離れるから。」

 普通にしているアーサー様に、少し安心した。

 「……具合、悪くないですか」

 「ん?元気だよ。どうして?」

 「えっ……と、さっき、僕にも聞いたから」

 何とか誤魔化せたかな……とりあえず手を洗わないと。アーサー様をおいて、一目散に走り出す。
 自分の部屋に帰ってきて、手が真っ赤になるまで洗った。傷に水がしみて痛い。
 もう少しでアーサー様の命を奪うところだった。非日常に突き落とされた気分に恐ろしくなる。
 もう迂闊に知らないものには触りません、と僕は固く心に誓った。
 
 
 コンコンッ

 ノックの音がして、ラトさんが入ってきた。

 「大丈夫ですか?先程アーサー様にお会い致しまして、驚かせてしまったと」

 ラトさんの声に安心し、大丈夫と答えて、今日はもう寝てしまうことにした。最近寝てばかりな気がするけど、することが無いので、寝ることが気持ちを整える手段になっているのだ。
 
 あ……お米、落としてきちゃった。ずっと抱えてた気がするけど、走ってた時に落としちゃったかも。
 明日……また見てみよう……

 そんなことを考えながら、僕は微睡みの中に落ちていった。
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