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said ラト

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 ルイス様の側仕えになってからというもの、私の仕事と言えば、食事の用意と、時折図書棟に行かれる時に部屋を清掃するくらいのものになった。

 ルイス様が7歳の時、突然人を避けるようになった。少しでも人が近づくと、ものを投げたり、怒鳴ったりするようになり、部屋にこもりきりになってしまった。言葉使いも変わられて、簡潔に、突き放すような話し方になられた。

 ルイス様のお母様やお兄様方にも怒鳴り、暴れられるので手が付けられないと、誰も世話をしたがらなかったので、正直、誰にお仕えしようが、どうでもいいと思っていた私が引き受け、側仕えになったのだった。

 一定の距離を保てばルイス様は怒鳴ることも暴れることもせず、ただ黙って俯いているだけだった。
 毎日同じ言葉を発して、食事を運ぶ。時々お部屋をお掃除し、また同じことの繰り返し。
 いつものように、朝食をお持ちした時だった。

 「少しひとりにしてくださいっ」
 
 咄嗟に分かりましたと答え、部屋から出たものの、私は戸惑っていた。所在なさげに床に座り込んでいたルイス様。瞳が不安げに揺れていて、こちらが心配になるほどだった。

 いつものはずなのに、おひとりにすることがなんだか不安でたまらなかった。
 昼食時に再度部屋を訪ねると、返事がなかった。返事が帰ってくることの方が少ないけれど、妙に静かな気配にノックをしてドアを開ける。ルイス様が、いなかった。

 図書棟に行かれているかもしれないと探したが、そこにも居ない。
 どこへ行ってしまわれたのか、もっと遠くの方も探しにいこうと急ぐ。
 ルイス様は、お部屋から随分離れた、城の中心の方にいらっしゃった。
 リオン様もいらっしゃるようだ。駆け寄って声をかける。
 話を聞いていると、なんと私を探しにここまで来たのだという。
 帰る、とお部屋とまったく違う方向に歩き出されたルイス様に、リオン様は自分の部屋の位置も分からないのか、と問う。
 ルイス様が俯いた。たまらなくなって、お声をかけ、お部屋までお連れした。
 部屋に戻った時、ルイス様のお腹がクゥとなった。可愛らしい。食事をお持ちし、ルイス様はその日、すぐにお眠りになられたようだった。
 翌朝、部屋を訪ねると、なんだかお困りのようだったので、声をかけた。
 どうやら魔石の魔力がなくなってしまって、水が出なかったようだ。
 とりあえず、自分の魔力を込める。ただ魔力を込めるだけ、それなのに、ルイス様は目を輝かせて、私の手元を見つめていた。

 もっと、ルイス様のことが知りたい。当たり障りのないように生きてきた。感情の起伏が少なく、皆のように負の感情を向けることは無いけれど、良い感情を向けることもない私にとって、不思議な感覚。

 けれど、それからルイス様は図書棟に行くこともしなくなった。以前は数日に1度、通っていたのに。
 外を眺め、物憂げにため息を疲れることが多くなった。横顔がなんとも寂しげで、私は意を決して、お散歩をしませんかと声をかけた。

 ルイス様は迷っていたようだったが行く、と仰ってくれた。心なしか緊張しているルイス様をお庭に案内した。
 日差しの中で、ルイス様は花がほころぶように笑んだ。見るもの全てに瞳を輝かせ、というように。

 私はあることに気づき、ざぁっと血の気が引いた。暖かいはずなのに、背筋が凍る。 

 そう……まるで、では無い。ルイス様がお部屋にこもられてから10年、7歳だったルイス様の記憶が薄れてもおかしくない。
元々内気で穏やかな性格だったルイス様は積極的に外で遊ぶようなこともあまりなく、今のルイス様にとって、初めての外も同然なのだ。
 10年間、外に出ることがなかったという事実に今更ながら気づく。

 動揺しつつも、紅茶を用意し、クッキーも共にお出しした。
 するとルイス様がとても嬉しげに笑った。けれど、すぐに無表情にもどってしまった。
 クッキーがお好きなようだ。甘いものが、お好きなのかもしれない。
 幸いにも、この昼下がりのお散歩は日課になり、ささやかなお茶会は続いた。
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