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 翌朝、気を取り直し、頑張ろう!と気合を入れて、カーテンを開けた。

「ごふっ」

 ……忘れてた。吐血ってこんな感じなんだ。驚きすぎると、人って冷静になるって言うのは本当なんだなぁ。
 思ったよりもたくさん血が出てしまって、寝間着が汚れてしまった。
 ……事故にあった時、目を閉じていて良かった。目を開けていたら、トラウマになってたかもしれない。なんとか気持ちを持ち直した。
 急いで寝間着を脱いで、とりあえずシャツとズボンを着る。
 洗面台らしき所をみつけたので、水晶のボタンのようなものを押してみる。
 けれど、水は出なかった。ひねろうとしてみたり、押し込もうとしてみたり、色々しても水が出る気配は無い。途方に暮れた時だった、ノックの音が聞こえて、ラトさんの声がする。
 ラトさんっ!救いの手が……!そう思ったのもつかの間、僕は今、血の着いた寝間着をもっている上、口の周りも大惨事なんだった…
 大慌てで口の周りを拭いたり、寝間着をどこかの小部屋に放り込んだりしていると、

 「どうしましたか?」

「水が…出なくて」

「魔石の魔力が切れてしまったのかもしれませんね。」

 ラトさんが机の上にある宝石みたいな石をを手に取った。
魔石?魔法や魔力を閉じ込めて、魔道具に使ったりするとは知っているけど、ただ水を出すのにいるのかな。
 
「とりあえず、私の魔力を補充しておきます。後ほど、代わりをお持ちしますね。」

 ラトさんが魔石を握ると、キラキラと光る水の雫が周りに浮かび上がり、魔石に吸い込まれるようにして入っていく。
 初めて見た魔法に、僕の視線は釘付けになった。とても、綺麗だ。僕も使えるようになりたいと思った。

 「これで暫くは持つかと。」

 ラトさんがボタン?に魔石をかざして、トンっと叩くと、水が出てきた。
 そっか、ルイスは魔力がないから…魔力があれば、自分の魔力をほんの少しだけ流せばいいのだろう。
 
 「ん……」

 頷くと、ラトさんは失礼しますと頭を下げて、部屋を出ていった。
 
「ふぅ…」「あっ早く洗わないと!」

 血ってすぐ洗えば結構綺麗に落ちるんだけど、ちょっと時間経っちゃったから、落ちにくいなぁ。
 生活魔法のクリーンで、だいたいの物は綺麗になるから、もしかして、洗剤とかないのかも。これからの生活が思いやられる……

 実際、やることってあんまりないんだよね。何もしないことがやることみたいになっている気がする。
 暇になって部屋を探検していると、本がたくさんあることに気づいた。
 文字が読めなかったらどうしようと思ったけど、難なく読むことができて、安心した。
 本棚にあった本のジャンルは様々で、図鑑のようなものから、ノンフィクション、恋愛ものまで、手当り次第といった感じだ。魔法初心者に向けた本も、何冊かあった。
 その日は本を読んで過ごし、次の日も、また次の日も、部屋にあった本を読み耽る日々。
 ついに部屋にある本は全て読み切ってしまった。本格的に暇になってしまって、毎日外を眺めることくらいしか、することが無い。
 毎日、毎日、ラトさんが運んでくる食事が唯一の楽しみになってしまう程だった。
 そんなある日、いつもと違うことが起きた。
 
 「ルイス様、もしよろしければ、少しだけ、お庭をお散歩されませんか?」

 散歩…いいのかな…でも、正直このままじゃ健康にも悪い気がする。少し…だけなら、いいよね。

 「……行く。」

 ラトさんの顔がパッと明るくなった。
 
「かしこまりました!せっかくですので、東屋でお茶を召し上がってはいかがですか?」

 「うん」

 「では、参りましょうか」
 
 今更ながら、ドキドキしてきた。心臓が飛び出そうだ。外に出るまでは意外と近くて、僕は呆気なく外に出ることができた。

 ゆうるりと吹く風か、頬を撫でる。感じたことがない、でもいつも感じていたような香り。草花をみても知らないものばかりで、本当に僕は異世界に来てしまったんだ、と実感する。
 久しぶりの風や匂い、暖かい日差しに、知らず知らずのうちに強ばっていた自分が解けていくのがわかった。

 「お茶をお入れしますね。」

 ラトさんが紅茶を入れてくれた。そして、一緒に差し出されたのは、クッキー?
 この世界に来てから甘いものと言えばフルーツか時々朝食についているジャムくらいだった僕は嬉しくなってしまった。3時のおやつみたいだ。
 くふくふと笑みが零れてしまう。はっいかんいかんっと顔をキリッとさせ、まずは紅茶を1口。…美味しい。
 ラトさんの入れる紅茶はとっても美味しいのだ。僕はすっかりラトさんの紅茶のファンになってしまっていた。
 クッキーも、サクリ、美味しい。いつも食べていたような味の、クッキー。
 違うことだらけで、ワクワクすると同時に、少し不安もあった僕はなんだかほっとした。
 その日から、昼下がりに少しだけ、庭を散歩して、お茶をすることが、僕の日課になった。
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