超短編小説集 2024

短縮されるわたし

扱いがどんどん雑になっていくのを悲しい気持ちで見ているしかない。
それが結婚なのだと言い聞かせる。
「ノリ」と背中を向けたまま夫がわたしを呼ぶ。
なるほどとことん手間を省く気か。
わたしの名前は典子だ。
「子」をつける手間さえかけたくないということか？
言ってやりたいが、そんなことで喧嘩になるのも疲れるから黙って夫のそばへいく。
気づかいや敬語はすでにない。
じっと見つめても、何を考えているのかわからないことが多かった。
生活を共にしたいまもよくわからない。
もっと親密になれると思っていたのにとんだ間違いだった。
本心は絶対に教えてくれないし話さない。
ただぞんざいになっただけだ。
わたしの名前がどんな漢字を使っているのかさえあやふやで
そのうちわたしがいたことだって夫は忘れてしまうのだろう。