超短編小説集 2024

闇の中

消去法では誰も残らず、投票率は低下し続けた。
選ばれるのは資質も品位も欠けた強欲な目立ちたがり屋か暇な無能ばかりで、到底仕事を任せることはできなかった。
自分の生活と仕事に忙しくて身動きが取れずにいる者が大半だから、
いくら座り込みやらデモやら呼びかけてもやってくるのはほんのひと握り。

このまま放っておくわけにはいかないのはわかっていた。
ただ憂い危惧してみたところで、都合よく登場して助けてくれる英雄はいない。
嘆くだけではもはや何も解決はしないと思い至った国民はついに立ち上がった。

深刻な人材不足に政治腐敗、これらの問題を一掃するために前代未聞の試みは実行に移された。
そんなことが本当にできるのかと危惧する声もあったが、いまは小型の通信端末が広く行き渡っている。
暇さえあれば誰もがそれをのぞき込んでばかりいるのだから、実際のところ少しも難しくはなった。

選挙の投票用紙と同じ要領で、一枚の用紙が配達される。
そこに印刷してあるコードを読み取って、アプリをインストールすれば完了だ。
アプリ開発費など諸々の費用は、議員たちに使われる予定だった金で賄われた。

アプリを起動すればいつでも始められる。
巨大な会議場では、名前も性別も年齢も職業も経歴も識別できない。
互いの素性を知ることは不可能だ。
この状態ですべての国民が政治に参加する。
忖度なく無駄なく遠慮もなく差別も区別もない。
声や態度が大きいからとか
見た目が素敵だからとか人気者だからとか
便宜を図ってくれるからとか
仲良しだからとか
そういうものは判断材料として一切使えない。
真っ暗な闇の中で
問題を解決するために必要なのは
各自が考え抜いた自分の意見だけとなる。