ガーデン【加筆修正版】

いとくめ

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36・なつめ、ハスを叱る

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「参ったな、いくらむしっても追いつかない」

なつめは雑草を放り出して芝の上に倒れ込んだ。
どうなっているんだろう?
花や草木が元気なのは悪いことではないのだが、何かが変だ。
この庭の生命力は異様ともいえる。
杏の祖母・咲子も不安がっていた。

しかし一歩外へ出ると状況は一変する。
近所の植え込みも軒並み枯れているし、どこの家の花壇も全滅。
町中の草木や花がダメージを受けているのだ。
この家の庭以外は。

「やっぱりなんかおかしいよ」

なつめが途方に暮れてつぶやいた。
あれ以来杏がずっとぼんやりしたままなのも気になった。

『何も心配ないよ。ここにいる限り、もう悪いことなんか起きない。あの人は約束してくれたから』

杏の言葉を思い出し、なつめは芝の上に起き上がった。
まさか。
杏があの人と呼んだのは沼地の未亡人のことだろう。
石を渡した見返りは、解毒剤だけではなかったのかもしれない。
ハスと自分は地下室から放り出され詳細を知らない。
あのふたりの間で何か約束が交わされた結果だとしたら?

その結果がこれ?

こうしてはいられなかった。
ハスに知らせないと。
すっかりやる気を失ったハスは、なつめのテントでふて寝しているはず。

「ハス!」

なつめはテントの入り口から呼びかけた。
薄暗い中で2つの水色の目がきらりと光る。
続けて深いため息のような鼻息が聞こえる。

「あのさ、がっかりしてんのはわかるけどいい加減気持ちを切り替えなよ」

言葉はわからなくなったが、ハスがどんな気分でいるのかはわかる。

「あんたも気づいてるんでしょ?何かがおかしいって」

なつめは声をかけてみた。
返事が来ないのはわかっているが、ハスがその場にとどまっているので話を続けてみる。

「もしかしたら杏は石以外に大事な何かを手放しちゃったのかもしれない」

もう手遅れかもしれない。
でも、間に合うなら助けられるのはわたしたちだけだ。
ハスはじっとしたまま動かない。
しびれを切らしたなつめはハスの正面から叱りつけた。

「恩人と約束したんでしょ?しっかりしてよ!」

ハスがテントから出てきた。
まだ情けない顔をしているがそれはやる気を失ったからではない。
なつめには、ハスがどうしたらいいのか途方に暮れているように見えた。

「あたしも力になるからさ」

なつめはハスの頭に手をのせた。
嫌がるかなと思ったが、ハスは大人しく撫でさせてくれた。

「これから杏に会って話そう」

なつめの提案をハスは受け入れたようだ。
黙って一緒に歩き始めた。
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