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8・夜の庭で
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夕食の支度を終えた杏は毛布を抱え、なつめのいるテントを訪ねた。
「風邪ひかないように、っておばあちゃんが。それからこれは夜食」
夕食のおかずを詰めた弁当箱を見たなつめはぱあっと顔を輝かせた。
「うわあ、ありがとう!晩ごはんは家から持ってきた食糧と缶詰でキャンプ飯作って食べたんだけど、あたしすぐお腹空いちゃうんだ。育ち盛りってやつだねきっと。ねえ杏、せっかくだから寄って行ってよ、あたしんち!」
自慢の我が家なのだろう。
なつめはテントの入り口を上げ、杏に手招きした。
本当は早く家に戻って家事の続きをしたかったが、せっかくの招待を断るのは悪い気がする。
「じゃ、ちょっとだけおじゃまするね」
「さあ、遠慮しないでゆっくりしてってよ!」
なつめに手を取られ招き入れられたテント内は思っていたより暖かかった。
床には柔らかいマットが敷いてあり、寝袋の横ではランタンが優しく光を放ち居心地が良さそうだ。
「ちゃんとお家になってる…」
杏は思わず声にして感心してしまった。
なつめが自慢したくなるのもよくわかる。
テントにはビニル素材の小さな窓もついていて、幼稚園児時代になつめと作った小さな秘密基地を思い出す。
それを伝えるとなつめは「やっぱりそう思う?」とうれしそうに目を輝かせた。
「あの頃は楽しかったよね。毎日遊んでさ、勉強もお手伝いもしなくて良くて」
なつめは懐かしそうに言ったが、杏は答えに困った。
楽しかったあの頃の思い出には母がいる。
だからできるだけ遠ざけたいと思っていた。
「そうだ、杏も泊まって行きなよ!」
「いや、それは遠慮します」
テントの中から外を見れば庭の暗さがかえって際立つ。
杏は心配になった。
「ひとりで怖くない?大丈夫?」
なつめがテントを設営した場所は、母屋から少し離れており周りは真っ暗だ。
家の明かりは届かず、小さなランタンではとても頼りない。
なんなら家の中で休んでもいいんだよと言ってみたが、なつめは全く動じる様子はなかった。
「うるさい親も兄弟もいないし、ここは最高に落ち着く場所だよ。不便なのもキャンプの醍醐味だし、それに仲間もいるから平気」
なつめはテントの辺りをうろついていた例のハスキー犬にぱっと抱きついた。
あまりに素早く捕獲され驚いたのだろう。
犬はなつめの腕の中から逃れようともがいたが、がっちり抱え込まれわしわし頭をなでられるうちにあきらめおとなしくなった。
しかし、なつめとじゃれ合うつもりは一切ないようだ。
観念した表情で水色の目は遠くを見ている。
余計なお世話と思いつつも、杏は聞かずにはいられなかった。
「ちゃんと仲良くしてる?大丈夫?」
「晩ごはん分け合った仲だもん、仲良しに決まってるじゃーん」
笑顔で答えるのはもちろんなつめだけだった。
ハスキー犬はそっぽを向いて聞こえないふりをしている。
「名前もつけちゃった」
「早いね」
「うん、うちら仲良しだもん。ね、ハス」
「ハ…ハス?」
ハスキー犬だからに違いない。
安直な名づけをどう評価しようか杏が迷っている間も、なつめはハスをなでまわしていた。
ハスのほうはじっと耐えおとなしくしている。
賢くて忍耐強い犬で良かった。
噛みつきあいの喧嘩に発展していないようなので放っておくことにした。
「風邪ひかないように、っておばあちゃんが。それからこれは夜食」
夕食のおかずを詰めた弁当箱を見たなつめはぱあっと顔を輝かせた。
「うわあ、ありがとう!晩ごはんは家から持ってきた食糧と缶詰でキャンプ飯作って食べたんだけど、あたしすぐお腹空いちゃうんだ。育ち盛りってやつだねきっと。ねえ杏、せっかくだから寄って行ってよ、あたしんち!」
自慢の我が家なのだろう。
なつめはテントの入り口を上げ、杏に手招きした。
本当は早く家に戻って家事の続きをしたかったが、せっかくの招待を断るのは悪い気がする。
「じゃ、ちょっとだけおじゃまするね」
「さあ、遠慮しないでゆっくりしてってよ!」
なつめに手を取られ招き入れられたテント内は思っていたより暖かかった。
床には柔らかいマットが敷いてあり、寝袋の横ではランタンが優しく光を放ち居心地が良さそうだ。
「ちゃんとお家になってる…」
杏は思わず声にして感心してしまった。
なつめが自慢したくなるのもよくわかる。
テントにはビニル素材の小さな窓もついていて、幼稚園児時代になつめと作った小さな秘密基地を思い出す。
それを伝えるとなつめは「やっぱりそう思う?」とうれしそうに目を輝かせた。
「あの頃は楽しかったよね。毎日遊んでさ、勉強もお手伝いもしなくて良くて」
なつめは懐かしそうに言ったが、杏は答えに困った。
楽しかったあの頃の思い出には母がいる。
だからできるだけ遠ざけたいと思っていた。
「そうだ、杏も泊まって行きなよ!」
「いや、それは遠慮します」
テントの中から外を見れば庭の暗さがかえって際立つ。
杏は心配になった。
「ひとりで怖くない?大丈夫?」
なつめがテントを設営した場所は、母屋から少し離れており周りは真っ暗だ。
家の明かりは届かず、小さなランタンではとても頼りない。
なんなら家の中で休んでもいいんだよと言ってみたが、なつめは全く動じる様子はなかった。
「うるさい親も兄弟もいないし、ここは最高に落ち着く場所だよ。不便なのもキャンプの醍醐味だし、それに仲間もいるから平気」
なつめはテントの辺りをうろついていた例のハスキー犬にぱっと抱きついた。
あまりに素早く捕獲され驚いたのだろう。
犬はなつめの腕の中から逃れようともがいたが、がっちり抱え込まれわしわし頭をなでられるうちにあきらめおとなしくなった。
しかし、なつめとじゃれ合うつもりは一切ないようだ。
観念した表情で水色の目は遠くを見ている。
余計なお世話と思いつつも、杏は聞かずにはいられなかった。
「ちゃんと仲良くしてる?大丈夫?」
「晩ごはん分け合った仲だもん、仲良しに決まってるじゃーん」
笑顔で答えるのはもちろんなつめだけだった。
ハスキー犬はそっぽを向いて聞こえないふりをしている。
「名前もつけちゃった」
「早いね」
「うん、うちら仲良しだもん。ね、ハス」
「ハ…ハス?」
ハスキー犬だからに違いない。
安直な名づけをどう評価しようか杏が迷っている間も、なつめはハスをなでまわしていた。
ハスのほうはじっと耐えおとなしくしている。
賢くて忍耐強い犬で良かった。
噛みつきあいの喧嘩に発展していないようなので放っておくことにした。
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