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69・取り消した?!

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「やっぱり来てくれると思ったわ」

駅前で待ち構えていたような希さんが、満足そうにわたしにウインクして寄越した。

れはまるでわたしがやって来るのを待っていたような口ぶりで…、ってまさか。

「あ、あの…光太郎さんは大丈夫なんでしょうか」

おそるおそる尋ねると希さんは「うふふ」と笑ってかわいらしく舌を出した。

「青山さんにはわたしが無理に頼んだの」

と、いうことはつまり。

「電話の話は嘘ですか?」

「ごめんなさい。かのこさんと話したくて仕方なく」

なんてことだ。
希さんの仕掛けた罠にまんまとかかってしまったなんて。
立ち話もなんだし、と彼女に連れて行かれたのは洋太郎のカフェだった。

「かのちゃん!!!」

わたしを見るなり洋太郎が「会いたかったよう」と叫びかけよってきた。

「五十嵐先生は君の居場所も教えてくれないし心配したんだからな!君に会いたい一心で、俺はコイツと手を組むことに…」

「なによその言い草、洋太郎のしつこい貢ぎ物攻撃じゃ全然ダメだったからわたしが青山さんに頼んだのよ。やっぱり人徳よね。青山さんが電話一本かけてくれたおかげで、かのこさんはすぐ来てくれたもの」

「なんだと?!そんなことないよね、かのちゃん?俺が心を込めて選んだ差し入れがあったから、ここまで来てくれたんだよね?」

希さんにやり込められた洋太郎が、助けを求めるようにわたしを見た。とても言いにくいんだけど、わたしが来たのは青山くんの電話があったからで…、ていうかやっぱり洋太郎お前もか?!

みんなで寄ってたかってわたしを騙すとは!
どうしてくれようかと思わずこぶしを握りしめたその時だ。
視界のはしに入ってきたのは、五十嵐先生ではないか。
わたしと目があった先生は、申し訳なさそうな顔をして言う。

「ごめん、あたしも協力しちゃった。だって、希さんに頼まれると断れなくて…」

なんてことだ。
五十嵐先生あなたまで!
わたしは全身から力が抜けていくのを必死で耐えてテーブルに手をついた。

「…3人とも、そこに直ってください。いますぐ!」

「「「…!」」」

わたしに命じられ、希さん・洋太郎・五十嵐先生がおとなしく着席する。

「…つまり、皆さんは結託してわたしを騙したと?」

「騙したとというか、心配でつい」

「言い訳は結構!」

洋太郎を一喝したら、五十嵐先生が「でもね」とあわててフォローに入る。

「かのちゃんが出ていってから本当に池上さんの様子が変なのは確かよ。つきあいのあるプロデューサーから聞いたんだけど、収録中にぼんやりしてNG連発しまくりらしいわ。そんなの初めてだからみんな心配して…」

先生の話に光太郎のことが心配になる。
大丈夫だろうか?…でも、大事なことを忘れちゃいけない。

「わたしには関係ないことです。だって光太郎さんには、結婚の約束をした希さんがいるじゃないてすか」

「そのことだけど、取り消したの」

「え」

「プロポーズは取り消したの」

希さんがゆっくりと繰り返した。
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