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39・恋敵に花束を
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「じゃあ行ってくる」
今日は青山くんの個展初日。
わたしが用意した花束と菓子折りを手にした光太郎が、玄関を出る前にもう一度聞いた。
「本当に一緒に来ないのか?」
何度も聞いても、答えは変わらない。
「はい」
「ご夫婦で来てください、と青山氏は言ってたぞ。本当にいいのか?」
「行きません。新しい企画書の仕事にとりかかったばかりなんです。それにわたし、“家内”じゃないので」
「…そうか」
光太郎が傷ついたような顔をしたように見えた。
ちょっとキツく言い過ぎたかな。
いや、このくらい言ってもバチは当たらないはずだ。
青山くんの写真、わたしだって本当は見たかったもの。
「どうぞひとりで行ってください。きっと青山くんは喜びます」
「そうか」
わたしの言葉を聞いた光太郎は、満足そうにうなずいた。
それを見たわたしは「ほらね」と内心思う。
わたし抜きで青山くんと会えるのがうれしいのだろう。
そうでなければわざわざ貴重な撮影オフ日に光太郎が外出なんてするわけがないもの。
それに、わたしは知っている。
光太郎はこの日のためにわざわざスタイリストさんに頼んで、着ていく服を選んでもらったようなのだ。
仕事で用意されたものを黙って着るだけで服にはほとんど興味がない、あの光太郎がである。
こんなことはこの家で働くようになってから初めてだ。
おしゃれな服を完璧に着こなして花束を手に玄関に立つ光太郎はファッション誌から抜け出したようだった。
好きな人に会うためとはいえ、気合い入りまくりだ。
「どうだろう、おかしくないか?」
見た目を気にするなんてこれも初めてだ。
心なしか緊張しているようにも見える。
そんなに青山くんのことが好きなのかあ。
「大丈夫、とってもかっこいいですよ」
わたしが親指を立てて励ますと、光太郎はうれしそうに笑った。
「なるべく早く帰る」
「いーえ、ごゆっくりどうぞ」
「いってき…」
光太郎がいってきますを全部言う前に、わたしは玄関のドアを閉めた。
大きく息を吐き、少しだけ気持ちを整理する。
「よし、仕事するぞ」
本と紙の散乱している自分の部屋に戻り作業を再開した。
わたしは決めたのだ、仕事の鬼になると。
なぜなら。
机の上には届いたばかりの製本された決定稿が載っている。
例の、わたしが企画書・プロットそして第一稿まで関わった脚本だ。
そっと手に取りページを開くと、そこには五十嵐先生の名前の下にわたしの名前がちゃんと印刷されている。
ああ、何度見てもいい気分だ。
五十嵐先生によると、ドラマの撮影は順調に進行しているそうだ。
放送日が決まったら志麻子や恵子さんにも知らせよう。
新たな企画書をバリバリ書いて、またチャンスをつかもう。
うるさいご主人様が留守なので、今日は集中できそうだ。
数時間後、洗濯物を取り込んで、ついでにお茶でも飲もうとキッチンへ入ったときだ。
「しまった」
光太郎が撮影現場に持っていくハーブティーの茶葉を切らしていたことを思い出した。
仕方ない、これからひとっ走りスーパーまで行って来るか。
今日は青山くんの個展初日。
わたしが用意した花束と菓子折りを手にした光太郎が、玄関を出る前にもう一度聞いた。
「本当に一緒に来ないのか?」
何度も聞いても、答えは変わらない。
「はい」
「ご夫婦で来てください、と青山氏は言ってたぞ。本当にいいのか?」
「行きません。新しい企画書の仕事にとりかかったばかりなんです。それにわたし、“家内”じゃないので」
「…そうか」
光太郎が傷ついたような顔をしたように見えた。
ちょっとキツく言い過ぎたかな。
いや、このくらい言ってもバチは当たらないはずだ。
青山くんの写真、わたしだって本当は見たかったもの。
「どうぞひとりで行ってください。きっと青山くんは喜びます」
「そうか」
わたしの言葉を聞いた光太郎は、満足そうにうなずいた。
それを見たわたしは「ほらね」と内心思う。
わたし抜きで青山くんと会えるのがうれしいのだろう。
そうでなければわざわざ貴重な撮影オフ日に光太郎が外出なんてするわけがないもの。
それに、わたしは知っている。
光太郎はこの日のためにわざわざスタイリストさんに頼んで、着ていく服を選んでもらったようなのだ。
仕事で用意されたものを黙って着るだけで服にはほとんど興味がない、あの光太郎がである。
こんなことはこの家で働くようになってから初めてだ。
おしゃれな服を完璧に着こなして花束を手に玄関に立つ光太郎はファッション誌から抜け出したようだった。
好きな人に会うためとはいえ、気合い入りまくりだ。
「どうだろう、おかしくないか?」
見た目を気にするなんてこれも初めてだ。
心なしか緊張しているようにも見える。
そんなに青山くんのことが好きなのかあ。
「大丈夫、とってもかっこいいですよ」
わたしが親指を立てて励ますと、光太郎はうれしそうに笑った。
「なるべく早く帰る」
「いーえ、ごゆっくりどうぞ」
「いってき…」
光太郎がいってきますを全部言う前に、わたしは玄関のドアを閉めた。
大きく息を吐き、少しだけ気持ちを整理する。
「よし、仕事するぞ」
本と紙の散乱している自分の部屋に戻り作業を再開した。
わたしは決めたのだ、仕事の鬼になると。
なぜなら。
机の上には届いたばかりの製本された決定稿が載っている。
例の、わたしが企画書・プロットそして第一稿まで関わった脚本だ。
そっと手に取りページを開くと、そこには五十嵐先生の名前の下にわたしの名前がちゃんと印刷されている。
ああ、何度見てもいい気分だ。
五十嵐先生によると、ドラマの撮影は順調に進行しているそうだ。
放送日が決まったら志麻子や恵子さんにも知らせよう。
新たな企画書をバリバリ書いて、またチャンスをつかもう。
うるさいご主人様が留守なので、今日は集中できそうだ。
数時間後、洗濯物を取り込んで、ついでにお茶でも飲もうとキッチンへ入ったときだ。
「しまった」
光太郎が撮影現場に持っていくハーブティーの茶葉を切らしていたことを思い出した。
仕方ない、これからひとっ走りスーパーまで行って来るか。
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