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第2章 魔獣狩り
第30話「お嬢様ですと!?」
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数日ぶりの応接室には、四人の男女が二人ずつ向かい合って座っている。片方はリュールとブレイダが並ぶ。そしてもう片方はマリムと、目元が少しキツい女性の姿があった。しっかりした服装と居住まいから、騎士団に所属しているのだと思われる。
リュールはその女騎士に見覚えがあるような気がしていた。具体的には思い浮かばないので、他人の空似というやつなのかもしれない。
「よく戻ってきてくれたね」
「金が欲しくてな」
テーブルに置かれた皮袋を指差し、リュールはにやりと笑った。
「話の前に、ひとり紹介してもいいかな。リュール殿も気になるだろう?」
マリムは隣の女性に目をやった。耳の辺りで切りそろえた赤髪が特徴的だ。
「ああ」
「ありがとう。彼女はレミルナ・ルミール。我が騎士団の団員だ。レミィと呼んでも構わないよ。な? レミィ」
「はい……」
レミルナと呼ばれた女性は、小さく頷いた。リュールに向けた強めの視線はそのままだった。
「で、なんでそのルミールさんがこの場に?」
「そうだよね。実は彼女、とある壊滅した傭兵団の生き残りなんだ。この赤髪、見覚えがあったりしないかい?」
言われてみて思い出す。リュールが所属していた傭兵団に雑用係の少女がいた。うっすらとした記憶には、赤い髪が辛うじて残っていた。
所詮は雑用係だ。名前も知らなかったし、興味もなかった。今の今まで思い出すことすらしなかった。
「おい、まさか」
口角を上げるマリムの目は、その通りだと言っているようだった。
「行き場を失っていたので、うちで拾ったんだよ。雑用のつもりだったけど、剣の才能があってね、今は立派な団員さ。ね?」
「えっと、はい……」
恐縮したようにレミルナは再び頷いた。
「で、それが?」
「そうそう、本題だ。リュール・ジガン殿。お隣にいるのは、剣だね?」
「なんのことだ?」
マリムは口角を上げる。その瞳の奥は笑っていなかった。
「我々は魔獣を殺せる者を探しているんだ。狩人と言ってもいいのかな」
さも良い思い付きだというように、マリムは軽く手を叩く。レミルナもそれに合わせて、小さく手を動かしていた。上の者に合わせるのも大変なようだ。
「それで、レミィだ。彼女は我々が知る限り唯一の存在だった。君が現れるまではね」
「ほぅ」
「むぅ……」
隣に座るブレイダの拳が震えている。マリムのもったいぶった言い回しに、そろそろ我慢の限界がきているようだった。
「で、結局何が言いたいんだ? そろそろうちのお嬢様が限界だ」
「はっ! お嬢様ですと!?」
ブレイダほどではないが、リュールも気が長いわけではない。さっさと金と商売の交渉を進めたかった。彼女を餌にするのはどうかとも思ったが、本人はさして気にしていないようだった。
「ああ、長話になってすまない。レミィ、やってくれ」
「はい」
マリムの指示を受けたレミルナは立ち上がり、腰にぶら下げられた青い鞘に手を当てた。見たところ、刺突用の細い片手剣だ。そして、柄には朱色の飾り石。
「おい、まさか」
「おいで、レピア」
レミルナが囁くのと同時に片手剣は消え去った。そこには、輝く銀髪に朱色の瞳、青色の衣装を着た女性が立っていた。
「はい、レピアです」
レピアと呼ばれた女性は長身を腰から折り曲げ、レミルナに頭を下げた。
リュールはその女騎士に見覚えがあるような気がしていた。具体的には思い浮かばないので、他人の空似というやつなのかもしれない。
「よく戻ってきてくれたね」
「金が欲しくてな」
テーブルに置かれた皮袋を指差し、リュールはにやりと笑った。
「話の前に、ひとり紹介してもいいかな。リュール殿も気になるだろう?」
マリムは隣の女性に目をやった。耳の辺りで切りそろえた赤髪が特徴的だ。
「ああ」
「ありがとう。彼女はレミルナ・ルミール。我が騎士団の団員だ。レミィと呼んでも構わないよ。な? レミィ」
「はい……」
レミルナと呼ばれた女性は、小さく頷いた。リュールに向けた強めの視線はそのままだった。
「で、なんでそのルミールさんがこの場に?」
「そうだよね。実は彼女、とある壊滅した傭兵団の生き残りなんだ。この赤髪、見覚えがあったりしないかい?」
言われてみて思い出す。リュールが所属していた傭兵団に雑用係の少女がいた。うっすらとした記憶には、赤い髪が辛うじて残っていた。
所詮は雑用係だ。名前も知らなかったし、興味もなかった。今の今まで思い出すことすらしなかった。
「おい、まさか」
口角を上げるマリムの目は、その通りだと言っているようだった。
「行き場を失っていたので、うちで拾ったんだよ。雑用のつもりだったけど、剣の才能があってね、今は立派な団員さ。ね?」
「えっと、はい……」
恐縮したようにレミルナは再び頷いた。
「で、それが?」
「そうそう、本題だ。リュール・ジガン殿。お隣にいるのは、剣だね?」
「なんのことだ?」
マリムは口角を上げる。その瞳の奥は笑っていなかった。
「我々は魔獣を殺せる者を探しているんだ。狩人と言ってもいいのかな」
さも良い思い付きだというように、マリムは軽く手を叩く。レミルナもそれに合わせて、小さく手を動かしていた。上の者に合わせるのも大変なようだ。
「それで、レミィだ。彼女は我々が知る限り唯一の存在だった。君が現れるまではね」
「ほぅ」
「むぅ……」
隣に座るブレイダの拳が震えている。マリムのもったいぶった言い回しに、そろそろ我慢の限界がきているようだった。
「で、結局何が言いたいんだ? そろそろうちのお嬢様が限界だ」
「はっ! お嬢様ですと!?」
ブレイダほどではないが、リュールも気が長いわけではない。さっさと金と商売の交渉を進めたかった。彼女を餌にするのはどうかとも思ったが、本人はさして気にしていないようだった。
「ああ、長話になってすまない。レミィ、やってくれ」
「はい」
マリムの指示を受けたレミルナは立ち上がり、腰にぶら下げられた青い鞘に手を当てた。見たところ、刺突用の細い片手剣だ。そして、柄には朱色の飾り石。
「おい、まさか」
「おいで、レピア」
レミルナが囁くのと同時に片手剣は消え去った。そこには、輝く銀髪に朱色の瞳、青色の衣装を着た女性が立っていた。
「はい、レピアです」
レピアと呼ばれた女性は長身を腰から折り曲げ、レミルナに頭を下げた。
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