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第2章 魔獣狩り
第17話「へへー、とんでもございません!」
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目を覚ますと、そこはベッドの上だった。宿のものよりは少し固く、天井は少し高い。
「あっ、リュール様っ」
すぐ横から声が聞こえた。高めだが不快ではない、朗らかで柔らかな声。リュールの愛剣、ブレイダだ。
「よかったです。このままお目覚めにならなかったらどうしようかと」
リュールは首を左に回した。多少の痛みはあるものの動けないほどではない。寝起きでぼやける視界に、赤と白のコントラストが浮かぶ。
「ん?」
「まぁ、私のリュール様ですし、あの程度でどうにかなるわけがないとは思っていましたよ。でも、ほら、心配しちゃうじゃないですか」
視覚がだんだんとクリアになってくる。赤は緋色の衣装と朱色の瞳、白は後頭部で括られた銀髪と透けるような肌。ベッドの脇には、やや幼さを残した、紛うことなき美少女が座っていた。
「動けますか? 一応は拭きましたけど、あれの血でベタベタですよ」
「待て」
「実は私、リュール様の胸板に触れてしまいました。触れられるのは平気というかむしろ嬉しいですけど、私から触れるのは恥ずかしいものですね。リュール様の気持ちがわかった気がします」
「いや、待てと」
「そうそう、今思い出したのですが、一昨日の私と逆ですよね。安心したらなんか笑えてきちゃいました」
「だから、待ってくれ」
「ふへ?」
にこにこと楽しそうに早口で語るブレイダの言葉を遮り、リュールは重要な疑問を口にした。
昨夜の彼女は剣だったはずだ。それも、とんでもない斬れ味の輝く剣。それが、いつの間にか少女の姿になっている。
「なんで、人の姿に?」
「わかりません!」
ブレイダは初めてその姿を見せた時のように、元気よく頷いた。リュールは思わず、額を手で覆った。
「で、いつからその姿で?」
「えーっと、あれを真っ二つにして、内臓ぐちゃー、血どばーして」
「そういうの好きだな」
「剣ですから」
ブレイダの話によると、リュールが地面に寝転んだ直後には人の姿をしていたらしい。理由もきっかけも、見当がつかないと言う。
「で、その後、男の人がわらわら来まして、リュール様をここまで運んできたんです。もちろん私も着いてきて、朝まで看病していました。あ、荷物もちゃんと持ってきましたよ」
「そうか、ありがとうな」
「へへー、とんでもございません!」
ブレイダは心の底から満足そうだった。
「じゃあ、ここは」
「町の診療所だそうです」
リュールは多少の痛みを我慢し、上体を起き上がらせる。周りを見渡すと、複数のベッドが並んでいた。その間を縫うように、医者や看護師が忙しなく動き回っている。
ベッドの上には怪我人が寝かされている。中には取り返しのつかない傷を負った者もいた。
「これは……」
「あの猪の被害みたいです」
「そうか」
まるで戦場に戻ったような気分だった。自分も多くの人を傷付け殺してきた。しかし、この光景は見ていていい気分のものではない。あそこにいたのは、自分の命と引き換えに金を得ようとする連中ばかりだった。
対して、ここで苦しんでいるのは暴力や殺戮とは無縁の人々だ。リュールの中に残された、ちっぽけな良心が軽く傷んだ。
「じゃあ、行くか」
「立てますか?」
「ああ、問題ない」
リュールは血で汚れきったベッドから立ち上がった。多少ふらつきはするが、許容範囲だ。
少女の姿をしたブレイダのことも、巨大な猪のことも、あの剣のことも、疑問は山ほどある。しかし、まずは落ち着きたい。宿に戻り体を流し、それから考えよう。
職員に礼を告げ何枚かの硬貨を渡し、リュールたちは診療所を出た。朝日が眩しく輝いていた。
「リュール様?」
「いや、なんでもない」
人の姿をした相棒を見て、リュールは久しぶりに生きてることを悪くないと思った。
「あっ、リュール様っ」
すぐ横から声が聞こえた。高めだが不快ではない、朗らかで柔らかな声。リュールの愛剣、ブレイダだ。
「よかったです。このままお目覚めにならなかったらどうしようかと」
リュールは首を左に回した。多少の痛みはあるものの動けないほどではない。寝起きでぼやける視界に、赤と白のコントラストが浮かぶ。
「ん?」
「まぁ、私のリュール様ですし、あの程度でどうにかなるわけがないとは思っていましたよ。でも、ほら、心配しちゃうじゃないですか」
視覚がだんだんとクリアになってくる。赤は緋色の衣装と朱色の瞳、白は後頭部で括られた銀髪と透けるような肌。ベッドの脇には、やや幼さを残した、紛うことなき美少女が座っていた。
「動けますか? 一応は拭きましたけど、あれの血でベタベタですよ」
「待て」
「実は私、リュール様の胸板に触れてしまいました。触れられるのは平気というかむしろ嬉しいですけど、私から触れるのは恥ずかしいものですね。リュール様の気持ちがわかった気がします」
「いや、待てと」
「そうそう、今思い出したのですが、一昨日の私と逆ですよね。安心したらなんか笑えてきちゃいました」
「だから、待ってくれ」
「ふへ?」
にこにこと楽しそうに早口で語るブレイダの言葉を遮り、リュールは重要な疑問を口にした。
昨夜の彼女は剣だったはずだ。それも、とんでもない斬れ味の輝く剣。それが、いつの間にか少女の姿になっている。
「なんで、人の姿に?」
「わかりません!」
ブレイダは初めてその姿を見せた時のように、元気よく頷いた。リュールは思わず、額を手で覆った。
「で、いつからその姿で?」
「えーっと、あれを真っ二つにして、内臓ぐちゃー、血どばーして」
「そういうの好きだな」
「剣ですから」
ブレイダの話によると、リュールが地面に寝転んだ直後には人の姿をしていたらしい。理由もきっかけも、見当がつかないと言う。
「で、その後、男の人がわらわら来まして、リュール様をここまで運んできたんです。もちろん私も着いてきて、朝まで看病していました。あ、荷物もちゃんと持ってきましたよ」
「そうか、ありがとうな」
「へへー、とんでもございません!」
ブレイダは心の底から満足そうだった。
「じゃあ、ここは」
「町の診療所だそうです」
リュールは多少の痛みを我慢し、上体を起き上がらせる。周りを見渡すと、複数のベッドが並んでいた。その間を縫うように、医者や看護師が忙しなく動き回っている。
ベッドの上には怪我人が寝かされている。中には取り返しのつかない傷を負った者もいた。
「これは……」
「あの猪の被害みたいです」
「そうか」
まるで戦場に戻ったような気分だった。自分も多くの人を傷付け殺してきた。しかし、この光景は見ていていい気分のものではない。あそこにいたのは、自分の命と引き換えに金を得ようとする連中ばかりだった。
対して、ここで苦しんでいるのは暴力や殺戮とは無縁の人々だ。リュールの中に残された、ちっぽけな良心が軽く傷んだ。
「じゃあ、行くか」
「立てますか?」
「ああ、問題ない」
リュールは血で汚れきったベッドから立ち上がった。多少ふらつきはするが、許容範囲だ。
少女の姿をしたブレイダのことも、巨大な猪のことも、あの剣のことも、疑問は山ほどある。しかし、まずは落ち着きたい。宿に戻り体を流し、それから考えよう。
職員に礼を告げ何枚かの硬貨を渡し、リュールたちは診療所を出た。朝日が眩しく輝いていた。
「リュール様?」
「いや、なんでもない」
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